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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 周恩来中国首相と成田知巳社会党訪中使節団長との会談録

[場所] 
[年月日] 1964年10月26日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),528−538頁.「月刊社会党」,1965年2月号,169−79頁.
[備考] 
[全文]

   日中友好の礎石

 周総理 このたび,わが国を訪問されたみなさんがた使節団は,私が,いままでの国の内外で会談をもったどれよりも規模の大きいものです。これは,日本社会党に政権担当のきざしが見えてきた証拠だと思います。しかし,いま池田首相がやめても,すぐに社会党政権が実現することにはならないと思います。しかし,つぎの選挙では,若干変化が出てくるのではないでしょうか。

 成田団長 周総理が,次の選挙で若干変化が現われるであろうといわれたことによって,客観性のあることが証明されたわけです。ただちに政権をとれなくとも,近い将来,ぜひとりたいと思っています。

 周総理 各国の政治の発展は,政治の担当者が政治をうまくやれば長くつづきますが,そうでないと,人心が変わります。各国の政治の歴史は,古い人から新しい人へ変化しています。

 成田団長 わが国の場合,保守と革新の政権交代でなく残念です。

 周総理 それは時期が到来してないからです。政権担当を可能ならしめるためには,人民の自覚と認識,もう一つは野党側の主体的条件,このことが大きな要素だと思います。

私の見かたでは,日本人民の自覚は,アジアでたかまっている国の一つだと思います。これは,アメリカに支配されたくないという気持であるからです。

 成田団長 政権がなかなかつくれないのは,私たちの指導の力に問題がありますが,もう一つは,人民の自覚を眠り込ませようとする保守側の努力にもあります。したがって,周総理の期待ほど日本国民の自覚は高いものではありません。

 周総理 保守側は,つねに人民の自覚を眠り込ませる努力をしているという,成田先生の意見には同意します。もう一つの見かたとしては,革新陣営が統一して,国民の希望するところを,高く旗じるしをかかげて,みちびいていく,強力な力になっていないことではないでしょうか。

 成田団長 革新陣営の弱さは,周総理がいわれるとおりです。

 周総理 弱さにも,二つの問題があると思います。指導する側が確定した方向に向って,断固たたかえば,人民から支持され,指導力も強まることになります。中国共産党と日本社会党の性格は,それぞれ異なりますが,私たちは高くかかげた旗じるしを,さらに高くかかげて進んできました。みなさんは,中国の歴史劇「東方紅」を見られたと思いますが,あのように,私たちは,困難な時でも,ひるまず旗じるしを断固かかげたのです。こうした中国の歴史は,みなさんには参考になると思います。

 成田団長 周総理がいわれるように,正しい方針を高くかかげて,断固たたかうことが必要であり,原則を守りとおすことが国民の支持を得るみちだと思います。周総理にとっては[[undef12]]しゃかに説法[[undef12]]かも知れませんが,旗じるしを高くかかげる場合に,戦術・戦略上のことは,十分配慮しなければならないと思います。私たちの行動が,保守側に利用されないように,戦術的に配慮するとともに,戦術的な配慮に,埋没して,原則を見失うようなことがあってはなりません。その点で,私は中国の歴史を勉強したいと思っています。

 周総理 成田先生は,原則の問題についてふれられましたが,原則をつらぬくためには,現実に合った自由自在の戦術をあみだすことが必要です。

 成田団長 おそくなりましたが,深●{土へんに川/せん}到着以来,われわれ使節団に対する中国側のあたたかいもてなしに感謝しております。会議{前1文字ママとルビ}では,アジアの情勢,とくに,日中両国人民の課題について十分に討議したいと思います。

 周総理 お互いに友人ですから感謝されるほどでもありません。

 私たちは,日本最大の野党である日本社会党を,つねに前進しつづける党派と見ています。このため,私たちは,社会党のみなさんと何回も会談をいたしました。社会党からは,正式代表団のほか,数え切れないほどの友人が訪問されました。穂積先生は何回目ですか……。

 社会党第四次使節団の派遣にあたって,国際情勢に大変化があり,このため,私たちは大きな代表団をつくって,みなさんとの会談にのぞんでいます。私たちの代表団は,民間団体の人がほとんどですが,外交部からは,アジア問題の専門家が参加しております。私自身,今夜は,中国人民外交学会の名誉会長の立場でみなさんに会っているわけです。

 六,七月ごろ,中国を訪問された社会党の友人に,私は「社会党の第四次使節団を歓迎したい」と申し上げました。これは成田先生に伝えられたと思います。その時,私は「社会党のどの面の友人でもいいから,率直に話し合いたい」と述べました。今回の使節団には社会党の各方面の人がおられるようです。

 また,私はそのとき,浅沼精神を登場させることについて,社会党のみなさんと議論しあいたいと申しました。浅沼精神は社会党の誇りであるばかりでなく,日本人民,中国人民,さらにはアジア人民の誇りでもあります。浅沼精神については,浅沼先生が演説の中で強調されたばかりでなく,その後,張・鈴木共同声明にもとり入れられ,登場{前2文字ママとルビ}されました。成田先生は,この共同声明の起草にあたられました。これは,そのあとに開かれた社会党中央委員会で確認され,一つの旗じるしとなったのです。

 浅沼精神については,まず社会党が誇りと光栄を感ずべき旗じるしでもあります。私は,六,七月ごろ,訪中された社会党の友人に,「この旗じるしを捨てれば,日本人民は,これを救い上げ,捨てた人に代わるべき人が出るだろう」と,申し上げました。

「アメリカ帝国主義は,日中両国人民の共同の敵」という,いわゆる[[undef12]]浅沼発言[[undef12]]は,心のこもった革命感情,人民の気持をとらえたのであります。私は浅沼先生と会い,また浅沼先生は,毛主席とも会われたのですが,私は浅沼先生が,この言葉を述べられた時,ほんとうに胸をうたれました。浅沼先生は,不幸にして,この正義の旗じるしを高くかかげられたため,アメリカ帝国主義の手先きに殺害されました。

 私たちは,第三次共同声明を遵守してきましたし,合意点を守ってきました。これはみなさんもご存知だと思います。しかし,日本のマス・コミは,浅沼精神の息を絶やそうとしています。

 浅沼精神は,中国人民と社会党が協力していく,広範な基礎となっています。私たちは,浅沼精神を高くかかげるばかりでなく,これを積極的に発揚しなければなりません。それは,情勢が発展しているからです。日本社会党と,私たちが指導している中国共産党との間には,思想的および政治的立場の相異{前1文字ママとルビ}がありますが,しかし,この相異{前1文字ママとルビ}は,おたがいが共通面の課題に向ってたたかう場合のさまたげにはなりません。

「アメリカ帝国主義は,日中両国人民の共同の敵」という[[undef12]]浅沼精神[[undef12]]のもとで,私たちの共通点はたくさんあります。私たちからみれば,当面,(1)アメリカ帝国主義に反対すること,(2)中日友好の増進,(3)アジア・アフリカ諸国人民の連帯,(4)世界平和の達成,の四つの課題で,協力しあうことができると思います。

 私は,成田先生が十六日,北京空港で行なわれたあいさつに注目しました。成田先生は,この中で,アメリカの中国封じ込め政策に反対する。このため,東北アジア軍事同盟を意図した日韓会談に反対し,沖縄の祖国復帰を要求するといわれました。また,米軍基地の撤去,原子力潜水艦の寄港とF一◯五戦闘爆撃機の持ち込みに反対し,日米安保条約の廃棄のため,たたかうことを表明されました。

 つまり,成田先生は,六つの主張を述べられ,力を集中して,アメリカ帝国主義に反対することを提示されたのです。私たちが,これを支持することは,疑問の余地がありません。それは,中国封じ込め政策に反対することだからです。さらにまた,成田先生は,アメリカ帝国主義が台湾と台湾地域から撤去することを支持され,中国が,国連で合法的地位を回復することを支持されました。

 私たちは,アメリカ帝国主義とのたたかいで,このように相互に支持しあっているのです。この論理をすすめれば,必然的な結論として「アメリカ帝国主義は,日中両国人民の共同の敵」という[[undef12]]浅沼精神[[undef12]]が出てくるわけです。私たちのたたかいが共通であり,その任務が共通であるという場合,たとえそれが,自国の利害から出されたものであっても,たたかいのさまたげにはなりません。

 目的は一つ,アメリカ帝国主義の侵略政策と戦争政策を追い出すことです。これは,両国人民の要求にもとづくものであり,したがってこの要求を誰が出そうと,その国の独立した地位をさまたげることにはなりません。以上のことで,もう[[undef12]]浅沼精神[[undef12]]は解決されたと思います。

 成田団長 私はいま,[[undef12]]浅沼精神[[undef12]]の問題について,論争しようとは思いません。この問題についての考えかたは,おたがいに基本的に一致しているからです。浅沼氏を団長とする第二次訪中使節団を派遣した際,私は総務局長として,東京で留守番をしていましたので,この問題についての経緯は,よく承知しております。また,第三次訪中の際には,私は団員として共同声明起草には責任をもってあたった一人です。

 ただ周先生は,その[[undef12]]浅沼精神[[undef12]]の問題について,あやまりを聞いておられるのではないかと感じております。

 日本と中国が,いまおかれている立場をいえば,日本はアメリカ帝国主義によって,沖縄を占領され,中国は台湾を占領されています。この一事をみても,日中両国は,アメリカ帝国主義によって,共同の被害をうけ,共同の立場にたたされています。

 周総理 そのとおりです。

 成田団長 したがって,主権回復の問題は,共通のたたかいとなっています。このことについて,第三次共同声明では「客観的には共通のたたかい」であることが確認されました。

 周総理はかつて,「革命の輸出ができないと同時に,運動の輸出もできない」といわれましたが,これについても,共同声明には,「自主的な共同のたたかい」であることが規定してあるわけです。

 周総理 「自主的なたたかい」ということは,自分のところでやっているということですが,私たちは,おたがいに支持しあい,協力しあっているわけです。

 成田団長 私たちは,第四次使節団の訪中にあたってつぎのことを決定しました。それは第一次第{前2文字ママとルビ}三次にわたる日中共同声明を消極的にではなく,積極的に発展させなければならない。このことが[[undef12]]浅沼精神[[undef12]]をさらに発揚させる道である,ということです。これについては,団員会議ばかりでなく,中執委でも確認されました。

 ところが,こちらにきてびっくりしました。それは「社会党使節団が[[undef12]]浅沼精神[[undef12]]を積極的に取り上げる態度をとっている」と伝えられていたからです。訪中にあたって,確認したことが,故浅沼稲次郎氏の逝去にむくいる道であることを,理解していただきたいと思います。その具体的なものが,私が十六日,北京飛行場でのあいさつで指摘した六項目であり,この問題について,いま中国側と討議しているわけです。

 とくに,私たちは現在,米原子力潜水艦の日本寄港阻止のため,全力をあげてたたかっています。原子力潜水艦は,佐世保と横須賀の両港に寄港が予定されていますが,第一の寄港予定地である佐世保で,先頭にたたかっているのが,ここにいます石橋団員です。[[undef12]]浅沼精神[[undef12]]をどう具体的に実践していくかが,私たちの課題だと思います。

 周総理 よくわかりました。成田先生が[[undef12]]浅沼精神[[undef12]]を肯定するだけでなく,その登{前1文字ママとルビ}場を強調されたことについて,うれしく思います。

 アメリカ帝国主義との闘いで,お互いが支持しあっていること,そしてこれが,共通のものになっていることがはっきりしました。

 第二の問題は,中日友好の問題です。社会党が与党とちがう点は,「一つの中国」しか認めず,「台湾は中国の一部」であり,中日国交回復を強く要求していることです。これはみなさんが,私たちに示してくれた友好の態度ですが,同時に私たちは,日本人民の独立,中立,平和のたたかいを支持しています。

 中国と日本当局が,おたがいを認めあい,相互不可侵条約を結ぶ意思があれば,私たちは,その条約に賛成します。平和五原則にもとづき,両国は,平和両{前1文字ママとルビ}存をうちたてることもできるのです。しかし,このためには,平等であり,おたがいが唯一の政府として,認めあわなければなりません。

私たちは,日本との戦争状態をなくすことを期待しているばかりでなく,相互の友好を期待しております。これについては,自民党の一部の人からは,同意をうけましたが,政府当局からはうけていません。社会党の場合は,いうまでもないでしょう。

 以上のことを共同声明にとり入れることは,ますます日本人民の支持を得ることになると思います。両国は一般的な友好だけではなく,法律の手続きにもとづき友好関係を樹立することが必要です。

 みなさんは,中日米ソ四大国の集団安全保障条約を主張しておられます。私たちも,これには賛成しますが,しかし,これはすぐには実現しません。四大国のうち,他の二大国の賛成を得ていないからです。

 成田団長 「二つの中国」の陰謀には,絶対反対しなければなりません。私たちは,「中国は一つ」であるとの立場から,運動をすすめています。これをさまたげているのが,アメリカの中国封じ込め政策です。周先生はいま,日中両国の相互不可侵条約の問題を述べられましたが,これは両国政府が同意して,平和五原則を認めあうならば,締結できるということですか。

 周総理 それには前提があります。まず「一つの中国」を認めなければならないということです。

 成田団長 日本は日米安保条約のもとにあります。私たちは,これを廃棄し,完全独立したもとで,日中相互不可侵条約の締結が可能になると理解していますが−。

 周総理 「中国は一つ」であることを認めれば相互不可侵条約の締結も可能となってきます。しかし,これはいうまでもなく,日米安保条約をゆるがすことになります。日本政府が,相互不可侵条約を勇気をもって締結しようとするならば,当然,平和条約を結ぶことが必要です。平和条約は,相互不可侵条約も{前1文字ママとルビ}ありませんし,これは同時に締結しなければなりません。このことは,いっそう,日米安保条約を意味のないものにします。

 自民党には,平和条約も,相互不可侵条約も締結する勇気はありません。それは台湾との関係を,切らなければならなくなるからです。

 しかし,これらの問題はみなさんが主張する日本政府ができれば,簡単に解決すると思います。現在,この問題が解決されなくとも,私が提案したことは,たたかいの武器になるし,また中日両人民の利益になることは,たしかです。私たちは,言ったことを必ず実行します。日本の革新勢力も,言っていることは,必ず実現することと信じています。

 成田団長 「約束したことは必ず,実行する」ということについては,全幅の信頼を寄せています。私たちは,約束は実行します。問題は,実行できる能力を早くつくるということです。

 周総理 能力は,旗じるしを高くかかげることによってつくものです。つねに人民に奉仕する備えがあれば,能力と勇気はつくものです。たしかに個人の力は,小さいものですが,人民に奉仕することによって,人民からはげまされ,力を得てきます。野党としての困難はあるでしょうが,さきほどのことを堅持すれば,人民からはげまされ,支持されると思います。

 第三の問題は,アジア・アフリカの団結の問題です。アジアの問題については,アジア人民が,いりばんよく理解できるのです。バンドン会議後,十年の間に,多くのことが起こっています。アフリカでは,もっとも多くの国が独立しました。非同盟諸国会議は,二回にわたって開かれましたが,こんどの会議を見ても,“バンドン精神”が大きな影響を与えています。

 一方,アメリカ帝国主義は,アジア・アフリカから去ることにあまんぜず,インドシナ,レオポルドビル・コンゴで,同じような問題をひき起こしています。イギリス,ポルトガルと中部アフリカで,同じような状況をつくり出しています。しかし,アジア・アフリカ諸国人民は,このようなアメリカ帝国主義を先頭とする帝国主義に反対し,植民地に反対し,民族独立の闘いをすすめています。

 日本は,戦前と大きく変わり,植民地はありませんが,領土はアメリカに占領されています。日本人民は,完全独立を要求してたたかっています。日本人民の運命は,アジア・アフリカ諸国人民の運命と一つに結びついています。これは帝国主義がそうさせたのです。

 この問題で,日本はみずからアジア・アフリカ諸国の外に立つべきではないと思います。バンドン会議に参加したように,アジアの一つとなり,アメリカ帝国主義の植民地政策と闘うのが必要です。

 ことし,ジャカルタで,アジア・アフリカの会議の準備会を開きましたが,日本政府は代表を送りませんでした。

 アジア・アフリカ諸国は,政治面ばかりでなく,文化,経済面でも,協力していくべきです。日本は,こうした面での協力,提供の潜在的力をもっているといえます。アジア・アフリカ人民の団結は,さし迫ったものです。こうした点について,社会党が新内閣に強く要求されるよう期待します。

 非同盟諸国会議とアジア・アフリカ諸国会議は,対立するものではなく,この二つの会議は,アメリカ帝国主義に反対し,新旧植民地政策に反対する会議だと思います。社会党に協力と支持を送ります。

 成田団長 私たちも,アジア・アフリカ諸国会議第二回準備会に,日本政府が代表を送らなかったことを残念に思っています。しかし,保守党の中にも,代表を出すべきだという意見があるやに聞いております。この面についての社会党の任務は,重大だと思います。したがって,私たちは,日本政府代表と同時に,社会党からも顧問を出席させるよう努力したいと思います。

 周総理 第四は,世界平和の問題です。成田先生は,北京飛行場で,アメリカ帝国主義はインドシナ人民をおびやかし,中国人民を威かくしているといい,このような行為に反対しなければならない,といわれました。これについての意見は,まったく同じです。私たちは,アメリカ帝国主義の核威かくに屈服しないのみか,戦争をうちくだかなければなりません。

世界の平和は,こいねがうのではなく,闘争心によってのみ得られるものと考えるからです。私たちは,武力によって戦争をしかけようとは思いませんし,また交渉を否定するものではありません。

 朝鮮戦争の時,私たちは,戦争のさなかに,交渉しました。いまなお,脅迫の中で,交渉はつづけられていますし,中米会談は,九年もつづいていますが,問題は,何一つ解決されておりません。中国側代表は,平和共存にもとづく,いくつかの提案を行なってきましたが,アメリカ代表は,これを受け入れる空気がなく,問題解決を阻止しつづけてきました。このことは,中国と平和共存の関係をうちたてようという,意思のないことを証明しています。

 平和共存を,中国外交の総路線にすることは,中国の外交をつぶす結果となります。アメリカはソ連との平和共存をすすめるたことによって,ソ連が国内から一歩も出ないことをねらっています。このようなやりかたは,社会主義が他国で発展することを阻止するねらいから出たものです。

 私たちは,社会制度の異なる国との平和共存を,否定しているのではありません。しかし,その前提は,あくまで平和共存五原則を認めることが必要です。また私たちの外交政策は,平和共存ひとつではありません。喬冠華外交部副部長が,みなさんとの会議で指摘したように,五つの面が含まれております。この五つの面が大連合を確立して即アメリカ帝国主義に侵略と戦争政策を放棄させ,平和を達成することができるのです。

 つぎに,核兵器の問題について述べてみたいと思います。中国は,日本人民の原水爆反対闘争を理解するだけでなく,一貫して支持してきました。

 また,社会党のみなさんが,日本人民の願望にもとづき,アメリカの核兵器持ち込み,自衛隊の核装備に反対していることに対しても,支持してきました。

 しかし,今回行なった中国の核実験に対しては,私たちの立場を十分理解していただきたいと思います。アメリカ帝国主義が,中国を敵視していることについて,みなさんは異議ないと思います。アメリカは,日本人民に,世界最初に原水爆の危害を加えたばかりでなく,沖縄を占領し,日本に軍事基地をはりめぐらし,そのほこさきを中国に向けています。アメリカ帝国主義は,中国に対して,三日月型の包囲線をつくり,そこに核兵器を配置しています。また,日本人民を利用して,中国人民と,ふたたびたたかわせようとしています。

 池田首相は八月に,日本への原潜寄港を許しましたが,この原子力潜水艦は,太平洋,トンキン湾,インド洋などにウヨウヨしているのです。アメリカ帝国主義は,トンキン湾で挑発行為を行ない,戦争を拡大しようとしました。この時,ソ連のフルシチョフ首相が,どんな態度をとったか,成田書記長もご存知だと思います。フルシチョフ首相は,この挑発行為に対し,何の反応も示さなかったのです。このような中で,自分の力で自分を守らなくて,いったいアジアの平和,中日友好が保てるでしょうか。

 こうした情勢のもとで,中国は自力により,どうしても核兵器をつくらざるを得なかったのです。中国は,今回核実験を行ないましたが,これと同時に,政府声明を発表して,「中国の核実験は,核兵器の全面禁止と完全廃棄を実現するためのものである」ことをとなえました。この声明の内容は,社会党のみなさんが努力していることと一致し,また,日本人民の願いとともに一致すると思います。しかも,中国は,この政府声明の中で,各国首脳会議の開催を提案,まず核兵器を使用しない協定を結ぶことを呼びかけました。

 一方,アメリカ帝国主義は,数百回に及ぶ核実験を行ない,核兵器を大量に貯蔵し,中国に対して,核威かくと脅迫をつづけています。中国は核兵器で頭上をおびやかされているのです。そのうえ,アメリカは地下実験により,戦術用兵器の質を高め,インドシナで,これを使用する用意をしているのです。中国人民の友人であるみなさんは,こうした中国の立場を,十分理解していただきたいと思います。

 今回,中国が核実験を行なったことに対して,私のもとに,日本から数多くの抗議電報が寄せられました。その中には,河上委員長からのものもありました。私は,こうした日本人民の気持はよくわかっています。

しかし,私はたずねたい。いまただちに,核兵器を全面的に禁止することができるでしょうか。これができれば,私たちは,その協定に,いつでも調印します。 しかし,アメリカ帝国主義は,これに同意しません。彼らが同意するのは,核実験を部分的に停止させることだけです。私たちは,日本から多くの抗議電報をうけましたが,この中には,「核実験に反対する」ということだけで,中国政府が提案した,首脳会議への支持はありませんでした。これでは,中国人民を理解させることはできないと思います。

 中国の核実験に反対することは,中国の手足をしばることになるのです。果して現状のまま,アメリカの核実験を許しておくことが,公平なやりかたでしょうか。私は,この問題をみなさんが簡単にみてはならないと思います。ある人は,中国の核保有は少ない,わずか一回核実験やったくらいで,どうして対抗できるのか,といっています。

 私たちの目的は,核兵器で対抗することにあるのではなく,政府声明で述べているように,核兵器の全面禁止にあるのです。中国が核兵器を持たなければ,核兵器を全面禁止することは,永遠にできません。中国が核兵器を持ったことによって,世界は変化し,アメリカも,これに無視し得なくなっています。

 いっそう,重大なことは,日本に核兵器があること自体が,非常な脅威である,ということです。たとえ日本の港,飛行機に核兵器がないとしても,すでに沖縄は,核装備されております。したがって,日本は中国よりも,アメリカの核兵器の脅威に直面しているといえます。いったんアメリカがボタンを押せば,日本は核戦争からまぬがれることはできません。日本にある核兵器は,中国に向けられているからです。

 中国が核実験を行なったことにより,放射能が出るのではないか,という心配が出されています。中国は,人民の安全を考えずして,核実験をすることはありません。こんどの実験は,西部地帯で行なわれ,風が東北に吹いている状況のもとで実施されました。中国の東北部は,もっとも人口が密集している地帯ですから,放射能灰は,広範な中国人民の頭上に落ちたわけです。みなさんは十六日に北京に到着されたのですから,私たちと同様に,その灰をうけたことになります。みなさんは,北京に十日間おられましたが,安全でした。だから東京の人はいっそう安全だということができます。

 アメリカは三百七十五回の核実験をやったあと,大気層での実験禁止に同意しました。この実験による放射性物質は,アメリカばかりでなく,他の国々にも流れているのです。私たちは,広島,長崎,静岡の人たちが,被害をうけたことに対して,同情しています。

 また,私は最近,佐世保付近がおびやかされていること,沖縄が核装備され,日本人民が核脅威にさらされていることに注意しております。この脅威に対して,中日両国人民は,いっそう反対しなければなりません。

 こうした根本問題について,私たち双方は,意見の相異を持つべきではないと思います。核兵器禁止の道程では,双方にちがいがありますが,目的は一致しておりますので,私たちは,たとえちがった形であっても,この目的に向って協力しあわなければならないと思います。

 成田団長 平和を守り,世界を動かすのは,五つの力であり,平和共存は,その結果であるということについては,私たちの意見は,周恩来総理の意見と同じです。また,平和共存は無原則にではなく,平和五原則を基礎にしたものでなければならない,ということも一致します。しかし,結果としての平和共存は,平和,民族独立闘争を,いっそう有利にしている,という私たちの見解に対して中国側の完全な同意を得ていません。この点については,さらに討議を深め,一致点を見出したいと思います。

 中国の核実験の問題については,すでに私たちは遺憾と反対の態度を表明しました。これについて,喬冠華先生から,「社会党の反対の態度表明は,回数が多過ぎる」といわれたくらいです。だから,ここではふれません。

 ただ私たちも,中国が核実験にふみ切らざるを得なかった立場,およびその背景を,十分に理解しなければならないと考えています。中国の核実験の背景には,アメリカの核戦略,核配備の脅威があります。

 私たちは,この問題を,前向きにとらえなければならないと思います。したがって,私たちは,反対の態度表明と同時に,関係国首脳会議をひらいて,核実験の禁止,完全廃棄のための討議を行なうよう,提案しました。この点については,中国政府の提案である各国首脳会議開催と,だいたい一致すると思います。この首脳会議では,核兵器の完全廃棄とあわせて,核実験禁止問題が討議されるよう要望します。

 周総理がいわれるように,私たちのおかれている条件は,それぞれ異なっております。また,廖承志先生がいわれたように,核兵器の完全廃棄のために,中国と同じ方向からではなく,社会党は他の面から対処できるわけです。だから,私たちは,効果的な方法で,核実験禁止と完全廃棄のためのたたかいをすすめたいと思います。

 周総理 成田先生は,平和共存は五つの力がたたかった結果によるための{前1文字ママとルビ},といわれましたが,中国はすでに,平和五原則にもとづき,多くの国と平和共存を行なっております。日本との間にも,この五原則にもとづいて,平和共存,相互不可侵条約が実現されることを期待しています。

 核実験の問題について,成田先生は,社会党の決定もあるので,自分の立場を守っておられるようですが,中国が,このような時期に,なぜ核開発をしなければならなかったのか,その背景を理解していただきたいと思います。

 私は,中国の核実験が,中国人民ばかりでなく,日本人民のためのものであることを述べましたが,これについて,成田先生から,何もふれられなかったことを,残念に思います。中国が核実験できないとなれば,私たちは,いつまでも核脅威にさらされ,核兵器を持っている国は,ますます勝手気ままにふるまうでしょう。

 成田団長 だから私たちは,沖縄の核装備に反対し,原子力潜水艦の日本寄港に反対しているのです。ところで,中国政府の声明に述べられている,核兵器の使用禁止協定を結ぶことについては,私たちも,もちろん異存はありません。ただ,原水爆の被害をうけた日本国民は,核実験問題に敏感であり,その完全禁止を熱望していますので,使用禁止と同時に,核実験禁止問題も討議していただきたいと思います。

 私の記憶にまちがいがなければ,周総理は,部分核停条約の三国会議が,モスクワで開かれた直後,「この条約には,地下実験禁止が含まれていないので,この条約に反対だ。地下実験の禁止を含む完全な核実験禁止,さらに核兵器の全面廃棄をかちとらなければならない」との態度表明をされましたが,これは日本国民の気持にそったものと考えています。私たちは,社会主義国が,このんで核実験をやるとは思いません。核実験をすすんで行ない核兵器をこのんで持つことは,帝国主義者の立場だと思います。

 「あらゆる国の核実験にも反対する」という社会党の態度は,結果的に中国の核実験にも反対するという面が出るわけですが,しかし,私たちの方針は,中国の平和政策と完全に一致している,との立場をとっております。この立場をふまえ,原水禁運動をすすめることこそが,アメリカ帝国主義を孤立させることになると思います。私たち社会党の主張を国民に浸透させることが,原水爆をなくす,もっとも効果的な方法であると考えます。うしろ向きではなく,前向きに,あらゆる国の核実験と核兵器の廃棄にまい進したいと思います。

 周総理 全体の方向は,双方とも一致しています。共通の目的を達成するための方法については,中日それぞれの立場があるわけです。しかし,立場がちがうから,目的が達成されないということにはならないと思います。

 私たちは,私たちの方法こそ,その目的を達成する道だと考えています。こんどの中国の核実験は,中国人民だけでなく,世界人民のためのものと思っています。部分核停条約について,アジアの多くの国が賛成しましたが,また,これらの国々は,中国の核実験の成功についても,賞賛しております。これは,中国の善意を十分理解しているからです。私たちは,アジア・アフリカ諸国が,部分核停条約に調印された善意も理解しております。アジア・アフリカ諸国は,中国の核実験が,これら諸国の目的と一致しているので,実験の成功をよろこんでいるわけです。

 モスクワで部分核停条約が締結された際,中国は,四つの提案をいたしました。それは,(1)核兵器を含め,国外における軍事基地を撤去すること (2)中・日・米・ソを含めた,アジア・太平洋沿岸地帯に,非核武装地帯をつくり,また,中央アフリカ,ラテン・アメリカに非核武装地帯を設置すること (3)核兵器の輸出,輸入をしないこと (4)地下実験を含め,あらゆる核実験を行なわないことを{前1文字ママとルビ},の四点です。

 核実験を禁止することだけでは,アメリカに利益するだけです。アメリカは核実験の禁止に同意するでしょう。それはすでにアメリカは,十分の実験をやり,数多くの核兵器を持っているからです。

 成田団長 核実験の問題は,日本国民の琴線にふれるものがあります。しかし,私たちは,この琴線,つまり日本国民の心情だけとりあげて,運動しているわけではありません。私たちは,核兵器の全面廃棄をめざして,沖縄の返還を要求し,軍事基地および原子力潜水艦の寄港反対のたたかいをすすめ,さらに日本の非武装宣言をかちとるたたかいを,平{前1文字ママとルビ}行的に行なっております。こうしたたたかいが,日本国民の平和運動を盛り上げ,アメリカ帝国主義に反対することになると思います。私たちは意見の相異{前1文字ママとルビ}を強調するのではなく,一致点を求めるところにあると思います。不幸にして現在,一致できない点があったとしても,誠意をもってあたれば,近い将来,必ず一致点が見出せると確信しております。

 周総理 私たちは,できるだけ共通点を求め,一致できない点は,ムリして一致点を求める必要はないと思います。私たちのたたかいは,双方に反映されなければならないからです。成田先生が,核実験反対運動と,その他の運動を結びつけてたたかっている,といわれたことについて,うれしく思います。

 しかし,核実験禁止だけにアメリカが同意し,核兵器に関するその他の問題について同意しなければ,いったいどうしますか。私たちが,これを認めれば,アメリカに核独占を許し,自分の手足をしばる結果になるでしょう。

 成田団長 周総理との今夜の会見で,私からいろいろ失礼をいって,申しわけなく思っています。共同声明の起草で,今夜は徹夜になると思います。

 周総理 つまるところ,今夜の会談は[[undef12]]浅沼精神[[undef12]]をいかに発揚させるかの問題でした。[[undef12]]浅沼精神[[undef12]]の魂は一つ,「アメリカ帝国主義は,日中両国人民の共同の敵」ということであります。[[undef12]]浅沼精神[[undef12]]は,双方が協力し合い,友好を深めていくための,ひろびろとした基礎をなしています。浅沼精神を,おたがいに大いに「拡散」させましょう。