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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中覚書貿易会談コミュニケ(日本日中覚書貿易事務所代表・中国中日備忘録貿易弁事処代表の会談コミュニケ)

[場所] 北京
[年月日] 1970年4月19日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),961−963頁.「増補改定 日中関係資料集(一九七一年刊)」,140−3,313−5頁.
[備考] 
[全文]

 日本日中覚書貿易事務所代表、松村謙三訪中団団員古井喜実等と中国日中備忘録貿易弁事処代表劉希文等は、一九七〇年三月一〇日から四月一九日まで北京で会談を行なった。

 双方は、一九六九年双方が会談コミュニケが発表して以来の日中関係の情勢を回顧し、双方がともに関心をもっている問題について率直に意見を交換した。

 双方は、一九六九年の会談コミュニケ正しいものであり、日中両国国民の共通の願望にかなっていることを重ねて強調した。政治三原則と政治経済不可分の原則は、日中関係において遵守されるべき原則であり、われわれ双方の関係における政治的基礎であることを、双方は、重ねて確認するとともに、上記の原則を遵守し、この政治的基礎を確保するためにひきつづき積極的に努力する決意を表明した。

 双方は、一九六九年一一月二一日に発表された日米共同声明についてきびしく非難した。

 中国側は、次のようにきびしく指摘した。日米共同声明は侵略的な日米「安全保障条約」を、一層範囲の広い、一層危害性にとんだ新しい米日軍事同盟に変えており、その矛先を直接中国人民、朝鮮人民、インドネシア三国人民およびアジア諸国人民に向けている。日本反動派は、アジア人をアジア人と戦わせるいわゆる「新アジア政策」を推し進めているアメリカ帝国主義のおもな幇助者となり、アジア諸国人民に反対する急先鋒をつとめている。日米共同声明が言いふらしているいわゆる「沖繩返還」は、全くのペテンである。「沖繩返還」の看板のもとに、佐藤栄作は、日本の民族利益と主権を売り渡すことさえ辞せず、日本全土をアメリカの戦車に縛りつけ、日本本土を沖繩化し、アメリカ帝国主義のアジア侵略の軍事基地に変えることを承諾した。佐藤栄作は、横暴にも、日米共同声明の中で、台湾は、「日本の安全にとってきわめて重要な要素」であり、朝鮮は「日本自身の安全にとって緊要」である、日本はインドシナ地域の「安定」のため「役割」を発揮すると公言している。米日反動派が軍事結託を一層強化する目的は、明らかに、中国の神聖な領土台湾省を永久に占拠し、中国人民が台湾を解放するのを阻もうとするものであり、南朝鮮を永久に占拠し、朝鮮の再統一を妨げ、はなはだしきに至っては朝鮮民主主義人民共和国を再び侵犯しようとするものであり、ベトナムを永久に分割させ、ベトナム人民が南部を解放し、北部を守り、祖国を統一するのを妨害しようとするものであり、そのために、インドシナを侵略する戦争の拡大さえ辞さないでいる。疑いもなく、これらすべては、日本軍国主義の侵略の野望を徹底的にさらけだしている。アメリカ帝国主義の育成のもとに、日本軍国主義の復活は、すでに、アジア人民と世界人民の前におかれているきびしい現実となっている。米日反動派のこのような新しい侵略活動は、アジアと世界の平和に対する重大な脅威であり、日本人民にも必ずや新しい、一層大きな、深い災難をもたらすであろう。中国人民および日本人民を含む全アジアの人民は、団結して、米日反動派に打撃をあたえ、これを粉砕しなければならない。

 日本側は、中国側の立場に理解を表明するとともに、次のようにのべた。日米共同声明は、日米軍事結託を新たな段階におし上げ、「日米安全保障条約」を一層拡大し、エスカレートさせた。日米共同声明のいわゆる「沖繩返還」の条項は欺瞞性をもっており、「沖繩返還」の名のもとに、佐藤政府は、日本本土を沖繩同様のアメリカの軍事基地にする危険をつくり出している。日米共同声明は公然と日本の「安全」の範囲を台湾、朝鮮、インドシナ地域に拡大させ、佐藤政府は軍備拡張、軍事予算の増大等に拍車をかけている。このような日本軍国主義復活の情勢は、中国人民、朝鮮人民、インドシナ三国人民およびアジア諸国人民に重大な脅威をあたえ、極東地域の緊張情勢を一層激化させているものであって、われわれの容認できないことである。日本側は、さらに、日本軍国主義の復活を排撃、粉砕し、侵略戦争に反対するために、一層多くの努力をはらう決意を表明した。

 双方は、一九六九年の会談コミュニケにおける台湾問題についての立場と態度を重ねて強調した。

 中国側は、佐藤政府が一貫してアメリカ帝国主義に追随し、「二つの中国」と「一つの中国、一つの台湾」をつくるさまざまな陰謀活動に積極的に加担していることを激しく非難した。日本の独占資本は、狂気のように台湾への拡張と滲透を行ない、台湾を再び占拠しようとする日本軍国主義の野望をむきだしにさらけだしている。中国側は、次のように重ねて強調した。中国人民は必ず台湾を解放する。これは中国人民の神聖にして犯すことのできない権利である。いつ、どのような方式で台湾を解放するかは、全く中国の内政であり、いかなる国も干渉をしてはならない。

 日本側は、中国側の立場に賛同するとともに、中華人民共和国政府が中国人民を代表する唯一の合法政府であり、台湾省は中国の領土の切り離せない一部であって、いかなる形の「二つの中国」をつくる陰謀にも反対することを重ねてはっきり表明した。日本側は、さらに、日米共同声明の中で中国の領土台湾省を「日本の安全にとってきわめて重要な要素」であるとのべたことは、厳粛な中国の内政に対する露骨な干渉であり、強く反対すべきであるとのべた。

 双方は、一致して次のようにきびしく指摘した。ここ一年来、佐藤政府は、一層輪をかけてアメリカ帝国主義に追随し、中国敵視政策をかたくなに推し進め、日中関係に新しい重大な障害を設けた。日中関係が一段と悪化した現状は、全く佐藤政府がつくりだしたものである。日本側は、さらに、今後佐藤政府の中国敵視政策に断固反対し、佐藤政府が日中関係に設けたさまざまな障害を排除し、日中関係の正常化を促進するために新たな効果ある努力をすると表明した。

 双方は、一致して次のように認めた。日中両国国民の平和と友好を求める願望は、大勢のおもむくところであり、人心の向うところとなっている。時代のこの巨大な流れは、いかなる人も阻むことができない。日中両国は近隣であり、両国国民は伝統的な友情をもっており、両国国民の友好関係を増進させ両国関係の正常化を促進することは、日中両国国民の共通の願望にかなっているばかりでなく、アジアと世界の平和を守るうえにも有益である。

 双方は、一九七〇年度覚書貿易事項について取りきめを行なった。

  一九七〇年四月一九日 北京にて

     日本日中覚書貿易事務所代表

             古井喜実

     中国中日備忘録貿易弁事処代表

             劉希文