データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 中国代表権問題に関する鶴岡千仭国連大使の総会演説

[場所] 
[年月日] 1970年11月17日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),1011−1013頁.外務省情報文化局「外務省公表集」,昭和45年,72−4頁.
[備考] 
[全文]

議 長

一、従来の総会において、わが代表団は、国際連合における中国代表権問題は単なる技術的、手続的な問題ではなく、すべての関連事実に照らし、且つ考えられるすべての意味合いを充分認識して、あらゆる方面より考察されるべき問題であると常に強調してまいりました。国際連合における中国代表権問題は、国際連合がこれ迄に直面した最も複雑かつ重要な問題の一つであります。それゆえ、わが国は今われわれの前に提出されているこの問題に特別の関心を抱いております。

二、わが国の立場は、わが国と中国との歴史的かつ地理的に緊密な関係より生ずるものであります。日本列島の南端は中国大陸沿岸よりわずか二〇〇マイルほどのところに位置し、台湾よりは七〇マイルしか離れておりません。この地理的位置ゆえに東洋最古の国民であるわれわれ両国民は最も緊密な関係を有するに至り、過去二千年以上にわたってほとんど絶え間のないつながりを持ってきたのであります。長い歴史の変遷にもかかわらず、日本と中国は概して相互尊重に基づく緊密な関係を保持してきました。中国の人々が再び世界のあらゆる人々及び国家と調和のとれた、且つ、友好的な関係を結ぶこととなれば、われわれとしても大変満足に思うところであります。

議 長

三、日本政府は、国際連合における中国の代表権を変更しようとするいかなる提案も憲章第十八条による重要問題であり、その決定のためには三分の二の多数を必要とする、という立場を維持しております。従って日本代表団は他の十八ヵ国とともに決議案A/L五九九の共同提案国に加わったのであります。われわれは、この決議案が表決に付される際は総会の大多数の国がわれわれとともにこの決議案を支持するものと確信しております。中国代表権問題が初めて取り上げられた時以来、この問題が国際連合にとり極めて重要なものであることは国際連合の中で常に認められてきたところであります。第十六回総会は、中国の代表権を変更しようとするいかなる提案も憲章第十八条の意味における重要問題であると決議一六六八(XVI)で宣言して、総会において支配的であったこの考え方を正式に支持いたしました。この決定はその後の総会において引き続き再確認され、われわれの立場の正しさが確認されてきました。

四、わが代表団の見解によれば、この極めて重要かつ複雑な問題を扱うにあたって考慮されねばならない基本的要素は次のようなものであります。

 考慮すべき第一の基本的要素は、台湾海峡をはさんで二つの政権が相対立しているということであります。このうちの一つは、台湾において高い生活水準を享受している一四〇〇万の人々を有効に支配する中華民国政府であり、いま一つは中国本土を支配している中華人民共和国政府であります。これらの政府は、各々がすべての中国人の唯一の正統政府であると絶えず主張しています。このような状況下においては、単に両者の一方を、国際連合において合法的に占めている地位より追放し、他方によっておきかえるということによって国際連合における中国代表権問題を解決しようとするいかなる試みも、必然的にこの問題の公正かつ妥当な解決に資するものとはかなり得ないのであります。毎年総会において取り上げられる大部分の問題が三分の二の多数あるいは全会一致で決定されていることをこの際想起することは有益でありましょう。この問題のように千数百万の人々の生活にこれほど大きな影響を与える問題は、他の多くの問題と同様国際連合において重要問題として扱われるべきことは申すまでもありません。

五、第二に、強調されるべきいま一つの重要な要素は、国際連合に対する中華民国の地位であります。中華民国は国際連合の主要な創設国の一つであり、憲章により課せられた責任と義務を誠実に履行し国際連合の権威と威信を終始一貫して高めてまいりました。これは何人も否定することのできない周知のかつ議論の余地のない事実であります。もし国際連合において中華民国政府が中華人民共和国政府にとって代られるようなことがあれば、それは加盟国の除名に等しいものでありましょう。このように見てきますと、中華民国を国際連合より除名することは国際連合憲章の目的と原則に背馳するものであることは明らかであります。

議 長

六、国際連合における加盟国の普遍性の原則が時折り本件との関連において説かれております。国際連合が可能な限り普遍的なものとなることは疑う余地もなく極めて望ましいことでありますが、一方決議案A/L六〇五の採択が中華民国と台湾の住民より国際連合における積年の忠実な加盟国としての地位を奪うという効果を持つことを知りながら、この決議案を支持して普遍性の原則を唱えることは自己矛盾であります。私が述べてきました理由から、わが代表団は、アルバニア等が提出した決議A/L六〇五に対してはこれが中国代表権問題に満足な解決を与え得ないものでありますので、反対投票を行ないます。

ありがとうございました。