データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 保利書簡

[場所] 
[年月日] 1971年10月25日
[出典] 岸本弘一『一誠の道 保利 茂と戦後政治』,145−147頁.
[備考] 
[全文]

 拝啓、今回美濃部東京都知事が貴国を訪問、親しく周恩来閣下に拝晤の機会を与えられる由承り、●{尸に婁/ル}々都知事と談合のうえ、甚だ乍失礼都知事の御快諾を得て、日本国自由民主党幹事長として周恩来閣下に深甚なる敬意を表し、一書を拝呈いたします

 周恩来閣下には、中華人民共和国樹立以来長年月に亘り国家経営の重任を享けられ、方寸誤らず今や将に鴻業成り、国際社会に於ける一大雄邦として発展を遂げられつつあることは、隣邦として誠に慶賀に堪えない次第であります ここに至る閣下積年の御苦労を拝察謹んで御喜び申し上げます 我が国も亦廃墟の中から困難な幾山河 試練を経て平和国家として我が先人未踏の新しい理想に向って精励して参りました

 つらつら思いまするに亜細亜に於ける貴国と我が国の関係は 国際情勢に左右され最も近くして最も遠いという甚だ不幸な間柄になって居りますが、今日もはやこの不自然な状態を此儘放置することは許されないと信じます この状態を早急に克服し新しい両国の関係を樹立すべき時が到来して居ると存ずる次第であります 私は由来中国は一つであり、中華人民共和国は中国を代表する政府であり、台湾は中国国民の領土である、との理解と認識に立っております 同時に我が日本国は飽迄平和国家、福祉国家としての大道を踏まえ、余力を亜細亜に貢献する方策を探究実行すべきであり、況んや我が国を再び軍国化するが如きは断じて排除すべきであると確信いたし、又その危険と懸念は無用であることを確信いたします

 近時我が国からは各政党や民間関係者が相踵いて貴国を訪問して居りますが、之等をお招きいただいた御厚情に対し厚く御礼申し上げます 私共と致しましては、今後事情の許される限り各界各層の貴国人士が来日され、我が国への理解を一層広く深め下さることを希望いたします

 我が自由民主党は如上の立場と見解に立ち、今後これ迄の中日関係を繞ぐる方策についても十分なる再検討を加えつつ、両国関係を速かに正常化いたすよう一段の努力をいたし、相携え相協力して亜細亜と世界の平和を確立することを強く念願して居ります

 右様の見地から私は一日も速かに両政府間に話し合いを持たれることを望んでおりますが、これに先立ち、私自身、我が党を代表して貴国を訪問し、総理閣下並に当路の方々と胸襟を開き話し合う機会を与えられざるや否や、与えられることを心から念願いたします

 総理閣下がこのことにつき深甚なる御配慮を賜りますれば幸甚の至りに存じます

 遙かに貴国の弥栄と総理閣下の益々の御健祥を奉祈いたします。

 

 頓首再拝

 昭和四十六年十月二十五日

 自由民主党幹事長

 保利 茂

 周恩来総理閣下