[文書名] 第3回 竹入義勝・周恩来会談記録
7月29日 19:30〜21:30
竹入・周会談(第3回)
周: 昨日は,遅いところ,電話をありがとうございました。あのニュースは,竹入先生がいつていたように,自民党の右派より,蒋介石が,やつたのではないかと思ます。あの中には,国府という言葉が何回も出てきます。国府の説得が難しいということが書いてあります。廖さんの話では,東京新聞は,サンケイ新聞と何か関係があるようですね。私たちの方も,肖さんから知らせがあり,彼が言うことに依ると,田中首相,大平外相の考え方は変つていないということです。
竹入: それは安心をいたしました。
周: 先生は眞面目です。私たちの話し合では,いろいろ予想した方がよいということでした。
竹入: いつも,物事は最善とは限りません。
周: 物事に変化がありますから。
東京のニュースをキヤツチするのは早いです。新華社と共同通信と電送の関係をつくつてもよいと考えています。そうすると,向うのニユースが,すぐ入つてきます。先生がいわれるように,色んなニユースがありますから,・・・・
竹入: 日本のマスコミは,とくに記事のスクープをしたがりますから不正確な記事が出てきます。国民が迷惑します。
周: しかし,見方が鍛えられますね。錯覚も起しますが・・・・・
竹入: 感覚がマヒして無責任な風潮が起ります。
周: 世論を指導する点からいえば,やはりそういう面がありますね。この面からいえば,戦前から比べれば,自由になつてきました。
竹入: 自由が多すぎるようです。
周: 自由が多すぎると,その反面にいつてしまいますね。つまり,思想の起伏が激しくなつてきたのでしよう。
竹入: 同時に,人間本来の価値観が,把みにくくなつてきました。モラルが乱れてきました。これを,又,引きしめようとすると,反対が起ります。これからの日本の教育は大へん重大になつてきました。
周: 先生方は社会活動の視野が広いと思うのですが,よく把めるのでしよう。
竹入: それ程,適確ではありませんが,心配しています。青年が自己の使命感,義務感がうすくなつたように思います。一つはアメリカの占領政策の影響であり,一つは高度経済成長政策によるものです。自由のハキ違えもあるが,結局は日本を指導する政治の責任です。こういう点について,田中首相に期待するところは大です。田中首相は,本来,教育に熱心です。これをどう改革するか,期待しています。
周: 田中さんとしては,国際問題を解決してから国内に眼を向けるのでしよう。選挙の彼の公約からいつても,内政問題が沢山でていますね。これは,国民の期待でしよう。野党がそういう面で促進的役割りを果たせば,新しい要素が出てきます。そこまでには相当の努力が必要でしよう。
竹入: そうだと思います。余りうまくいきますと野党の役割りがなくなります。
周: 出藍の誉れといつて,後の者がそれをやるのでしよう。
竹入: 田中首相に期待するのは,刻苦勉励して,総理になつたことです。今太閤といわれています。国民の期待が強いです。
周: 田中さんは佐々木さんと同じ県の出身ですか。
竹入: 首相は新潟県で,佐々木さんは宮城県です。
周: 同じ東北です。ズウズウ弁が入つていますか。
竹入: 首相はズウズウ弁ではありません。
首相とこちらへ来る前に話しましたが,今,人気がよいことを自分は知つているが,自分は,この人気に慢心しないように,自戒しているといつていました。
周: 経済が今日まで発展し,国際的になりましたが,現在に満足してはいけないと思います。困難を突破しなくてはなりません。
先生が帰る迄に,私たちの話しを具体化したいと思います。
今回の第1回,第2回は意見の交換でした。いま,私たちの意見の要点をいいたいと思います。田中首相,大平首相は,考える上に役立つと思います。
私たちの考えでは,田中首相,大平外相が訪中する場合は,共同声明か,共同宣言を発表した方がよいと思います。
竹入: 同意です。
周: 思い付いたところは,こういう問題です。もし,田中,大平両氏が,これより沢山,また,もつと少くしてもよいと思う場合は意見の交換は可能です。
1.戦争終結の問題
私たちとしては,こういう表現でいきたいと思いますが,どうでしようか。
「中華人民共和国と日本国との間の戦争状態は,この声明が公表される日に終了する。」
ここでいう,この日というのは,共同声明または,共同宣言が発表された日のことです。
竹入: これは共同声明の中に入れるのですね。
周: そうです。こういう表現でいくと,これが終了するのですから,みんな安心します。
2.国交の問題です。こういう表現でいきたいと思います・・・・・・どうでしようか。
「日本政府は,中華人民共和国政府が提出した中日国交回復の三原則を充分に理解し,中華人民共和国政府が中国を代表する唯一の合法政府であることを承認する。
これに基き両国政府は,外交関係を樹立し,大使を交換する」
竹入先生の見解ですと,田中首相に困難はありますか。
竹入: 私の見解ですが,困難はないだろうと思います。これは,田中首相の従来からのいい方ですから。
周: そのつぎは簡単です。
3.「双方は,中日両国の国交の樹立が,両国人民の長期にわたる願望にも合致し,世界各国人民の利益にも合致することを声明する。」
中国の場合は文法上「声明する」が先に出てきます。日本語に飜訳すると「声明する」が後になります。これは検討しましよう。
この一項は,中米共同声明から受け継いだものです。双方が共同にうたつた第1点です。
4.「双方は,主権と領土保全の相互尊重,相互不可侵,内政の相互不干渉,平等・互恵,平和共存の五原則に基いて,中日両国の関係を処理することに同意する。
中日両国間の紛争は五原則に基き,平和的な話し合いを通じて解決し,武力や武力による威嚇に訴えない。」
今の一句も中米共同声明の中で,キツシンジヤーが得意がつているところです。(中国の平和共存の5原則をアメリカが受け入れたという意味で) そこで書いたのですが,私たち両国が先に実行に移しましよう。
日本は,台湾,膨湖島を放棄しました。私たちは,日本の北方の4つの島を日本が回復することを支持します。これは,田中首相が五原則に基いて発表したことがありますね。
竹入: 世界の人達の中で,これに反対する人はいないでしよう。
周: 反対できません。
5.「双方は,中日両国のどちらの側もアジア太平洋地域で覇権を求めず,いづれの側も他のいかなる国,あるいは国家集団が,こうした覇権をうちたてようとすることに反対するということを声明する。」
これも,中米共同声明の第2点ですが,これは意味のあることだと思います。
これは,田中首相が,こういうことをいうのは,早すぎるというなら相談できます。中米両国が一致してとのことですから彼らも反対できないでしょう。日中両国の接近にアメリカは反対できないが,どこかの国に反対が出るのは,やむを得ません。
竹入: 私はこの点についての表現について,相談するとのことは,まことにありがたいと思います。しかし,これを受入れられるか,どうか,田中首相,大平外相に話します。
周: つまり,旗印を鮮明にするということです。私たちが協力して,他が覇権を求めるなら共同して,反対しようということです。
竹入: こういう風に表現しても,また,ゆるめても,ソ連は高圧を加えてくるのでしよう。
周: 彼らが,いくら高圧を加えても,私たちは,準備をしていますから手の出しようがないでしよう。100万の軍隊を北方に派遣してあります。
竹入: 周総理の巾のあるご理解あるお申し出は,田中首相に伝えます。
周: 田中先生には無理はいいたくありません。それでは次にまいります。
6.「双方は,両国の外交関係が樹立された後,平和共存の五原則に基いて,平和友好条約を締結することに同意する。」
7. 「中日両国人民の友誼のため,中華人民共和国政府は,日本国に対する戦争賠償の請求権を放棄する。」
8.「中華人民共和国政府と日本国政府は両国間の経済と文化関係を一層発展させ,人的往来を拡大するため,平和友好条約が締結される前に必要と既存の取極に基づいて,通商,航海,航空,気象,郵便,漁業,科学技術などの協定をそれぞれ締結する。」
平和友好条約からですと,遅すぎます。アメリカと違つた点は,ここで,私たち両国の間には,こうしたものが,すでにあるのです。中日両国の漁業協定は,ソ連よりうまくいつています。電話は,よく聞こえますか。郵政大臣は三池さんで,福田派ですね。三池さんは,田中首相が訪中するには,人工衛星の電波中継が必要でないかと聞いたら,田中首相は,中国が用意するだろう。だから急ぐことはない。といいましたね。
私たちが,今のところ,思い付いているのは,今の8項目です。日本の方が,もつと思い付いたらそれも結構です。
竹入: 私が廖先生を通じて,周総理に申し上げたものは,入つております。したがつてこれ以上のものは,日本政府の方から出ないと思います。
ご好意と寛大にあふれたご理解をいただきましたことにお礼を申し上げます。
周: 例えば,この中で,どこかの一句,覇権の言い方がきつすぎるのなら,言い方を変えていいと,入れなくてもいい。将来,平和友好条約に入れてもよいと思います。そうしないと,平和友好条約に書くものがなくなります。
竹入: 私たちが,いちばん心配していた台湾の領土の問題,日台条約の問題を大へんご配慮いただいて,まことにありがとうございます。
周: 双方の,黙約事項を作つたら,どうかと思います。
黙約事項は,宣言,声明の中に書きいれません。
これについて,同意が得られるか,どうか,相談してみて下さい。
黙約事項
今のところ3点ですが,田中首相,大平外相で,もつとつくりたいと言うかもしれません。
1 「台湾は,中華人民共和国の領土であつて,台湾を解放することは,中国の内政問題である」
これは簡単な文章です。
2 「共同声明が,発表された後,日本政府が,台湾から,その大使館,領事館を撤去し,また,効果的な措置を講じて,蒋介石集団の大使館,領事館を日本から撤去させる。」
竹入: 蒋介石集団という言い方には,抵抗があるかもしれません。昨年のわが党の共同声明には,蒋介石グループという言い方をしました。
周: あるいは,蒋介石の大使館,領事館といつてもよいですね。
竹入: 日本政府としては,台湾と国交をつづけて来た事実があります。前段に,台湾という言葉がありますから,ここも,台湾の大使館という風にしてもらえると結構ですが,その余地がありますか。いずれにしても,この点,田中首相,大平首相に考える余地を残してほしいと思います。
周: いいと思います。
3 「戦後,台湾における日本の団体と個人の投資及び企業は,台湾が解放される際に,適当な配慮が払われるものである。」
竹入: 最大の感謝をします。お礼の申しようもありません。
周: 当然だと思います。私たちが挙げているのは3点ですが,田中首相の方で,他のものも入れたいというのでしたら,話し合つてよいと思います。この共同声明の文にしても日米安保,佐藤・ニクソン共同声明の「台湾条項」日台条約を入れず避けています。あなたが来られた以上成功させたい,そうして,国交が回復されれば過ぎたことになります。これは,政治的に言つているので,法律は当てになりません,第2次世界大戦の中に,いろいろな法律がありましたが,あなた方も,それでひどい目にあつているでしよう。岸の頭は頑迷で,新しい政治の赴くところが判らなくなつています。ヤルタ協定も3大巨頭がつくつたものですが,今はどうなつているでしよう。・・・・・
日中国交回復は,人民の願望に政治が結びついているのです。
竹入: これで,すべての懸案が満たされました。ありがとうございました。
周: お礼の問題ではなく,情勢を変えるために,努力しなくてはなりません。公明党の立場と田中首相の努力とが,矛盾しないようなりました。内政では,一致しない点があることは当然でしよう。竹入さんは,中国へお出でになつた時,何か気まづい心理状態があつたでしよう。それが必要なくなりました。
竹入: たいへん,ご配慮を頂き感謝いたします。周総理のご好意を田中首相,大平外相が反対する理由は何もないと確信をいたします。責任を以て正確に伝えます。
周: 感謝しております。これは,大事業ですから一人の人間や,一党のものではありません。人民の大事業です。これで,先生の今回来られたことに,叛かないようになりました。
具体的問題に若干答えたいと思います。
<1> 竹入先生のご意見に賛成しますが,原則的に問題がなければ,田中首相が自ら来られる時に訂正した方がよいと思います。東京で論議すると秘密が洩れるかも知れません。
<2> これも,竹入先生のご意見ですが,時期は9月の下旬がよいと思います。1週間位でしたら,下旬がよいと思います。国慶節も,5周年,10周年なら別ですが,今,中日両国の問題は,大事なことですので,他の事は2次的なことになります。
田中首相の地方訪問にお供いたします。
9月下旬がまずければ,少し延ばすことも考えられないことはありません。その時期がいちばん望ましいと考えられますが,その時期でなくてはならないという意味ではありません。
<3> 田中首相,大平外相の訪中が定まる時期の少し前に共同発表する文章を作りたいと思います。
(日本の田中首相と大平外相が,中国を訪問する。国務院周恩来総理が,これを歓迎し,招請する。)
訪中の時期については,9月の下旬というように大まかに書いた方がよいと思います。
田中首相が来られる以上できるだけ時間を割いて,お供をしたいと思います。
ニクソンより時間を多くしたいと思います。というのは,国交の樹立ですから。・・・・
竹入: 首相の訪中の時期の表明の方法は,どのようにしたらよいか。
周: 8月16日に孫さんが帰国します。それまでにきまれば,孫さんに伝えてください。
それ以降ならば,肖さんに云つてください。竹入先生からでも結構ですし,大平外相からでも結構です。
<4> 東京から北京直行は可能です。
安全第一で試験飛行をやった方が良いと思います。,ナビゲーダー(航空士)と電信士を東京に派遣します。
ニクソンの場合,試験飛行をやりました。キツシンヂヤー自身が大統領の飛行機でやつて来ました。
竹入: 公表しましたか
周: 公表しなかったし憶測もしなかったでしよう。CIAがキャッチしたかも知れませんが判りませんでした。
キッシンヂャーがパキスタンから来たときも国際的にニュースはもれませんでした。北京の駐在記者もつかめませんでした。キッシンヂャーは最初に来たときは緊張しましたがその必要はありませんでした。田中首相に中国に来るときは緊張しなくても良いと伝えて下さい。
<5> 田中首相,大平外相が,来られる場合,随行は何名でもかまいません。
電信装置,無線装置も持つてきてかまいません。
ニクソンの場合は,飛行機の中でやりました。
<6> 首相,外相の訪中の場合は,日本の記者も訪中を希望するでしよう。首相に決めてもらい(人数)どの社にするかは,そちらで選んで下さい。こちらで招待します。新聞司の方でセンターをつくります。宇宙中継は,センターがありますから援助したいと思います。
安全を保証します。先生方は何かも来ているから判つているでしよう。
<7> 帰つてから結果が判つたら,かいつまんで肖さんに言つて下さい。あまりくわしく伝えることはないと思います。例えば,
相談をする必要がある。
賛成するとか,(8項目,3項目)
お会してから相談するとか,で結構です。
{<1>などは原文ではマル1など、以下同じ}
大平さんに伝えて下さい。東京駐在の連絡事ム所は,外交機関ではなく,覚書貿易の弁事処です。外務省と正式に連絡を取りあうということはまづいと思います。孫,肖,許,江の4人は充分便りになりますし,信頼できます。
記者から聞かれて外相も,正式交渉を開始したいと云つていますが,正式にはやらないで下さい。やれば,記者からいろいろ聞かれます。竹入先生が肖さんと連絡をとるのもよろしいでしようし,内密で,大平さんが直接,肖さんと話しても結構です。孫さんは8月中旬に帰国します。田中首相が彼らと会見するなら私たちも,大へんうれしいと思います。大事な伝言があれば,孫1人に云つて下さい。
毛主席に先生のことを伝えました。毛主席も,先生に敬服しています。田中首相,大平外相によろしくお伝え下さい。
日中国交回復は大事業でありますが,一握りの人であつても,それを妨害する人がありますから,気をつけてください。蒋介石も特務班を日本に入れているでしよう。竹入先生のようなことがまたあるでしようから,充分気をつけて下さい。
(林彪問題についての周総理発言は別紙)
竹入: 何から何まで本当にありがとうございました。
周: 当然のことです。私たちの話は,これで殆んど終ることができました。
では,お元気で,
周: なお,3回にわたる会談の内容はすべて重要でありますので,田中首相,大平外相以外は,完全に秘密を守つて下さい。
私たちの方も当然秘密を守ります。
すべて竹入先生を信頼して申上しあげたことです。
竹入: 田中首相,大平外相に,このことを申し上げます。
ほんとうにありがとうございました。
周総理もお元気で,また,参ります。
以上