データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 周恩来総理主催招宴における田中内閣総理大臣挨拶

[場所] 
[年月日] 1972年9月25日
[出典] 田中内閣総理大臣演説集,40‐41頁.
[備考] 
[全文]

 周思釆総理閣下並びに御列席の各位。

 このたび,周恩来総理の御招待をうけ,日本国の総理大臣として,隣邦中国の土を踏むことができましたことは,私の喜びとするところであります。本日はここに,かくも盛大な晩餐会を催していただき,まことに心暖まる思いであり,関係者各位の御配慮に心から感謝いたします。

 このたびの訪問にあたって,私は,空路東京から当地まで直行してまいりましたが,日中間が一衣帯水の間にあることをあらためて痛感いたしました。このように両国は地理的に近いのみならず,実に二千年にわたる多彩な交流の歴史を持っております。

 しかるに,過去数十年にわたって,日中関係は遺憾ながら,不幸な経過を辿って参りました。この間わが国が中国国民に多大のご迷惑をおかけしたことについて,私はあらためて深い反省の念を表明するものであります。第二次大戦後においても,なお不正常かつ不自然な状態が続いたことは,歴史的事実としてこれを率直に認めざるをえません。

 しかしながら,われわれは過去の暗い袋小路にいつまでも沈淪することはできません。私は今こそ日中両国の指導者が,明日のために話し合うことが重要であると考えます。明日のために話し合うということは,とりもなおさず,アジアひいては世界の平和と繁栄という共通の目標のために,率直にかつ誠意をもって話し合うことに他なりません。私が今回当地に参りましたのは正にこのためであります。われわれは,偉大な中国とその国民との間によき隣人としての関係を樹立し,両国がそれぞれのもつ友好諸国との関係を尊重しつつ,アジアひいては世界の平和と繁栄に寄与するよう念願するものであります。

 もとより日中間には政治信条や社会体制の相違があります。私はそれにもかかわらず,双方の間に善隣友好関係を樹立し,互恵平等の基礎に立って交流を深め,相互の立場を尊重しつつ協力することは可能であると考えます。

 このように日中間の善隣友好関係を確固不動の基礎の上に樹立するためには,国交正常化がぜひ必要であります。勿論,双方にはそれそれの基本的立場や特異な事情があります。しかしながら,たとえ立場や意見に小異があるとしても,日中双方が大同につき,相互理解と互譲の精神に基づいて意見の相違を克服し,合意に達することは可能であると信じます。私はこの大任を全うし,悠久にわたる日中友好の新しい第一歩をふみしめたいと念じております。

 この挨拶を終えるにあたり,私は,ここに閣下並びに各位とともに盃をあげて,毛沢東主席閣下の御清栄と,周恩来総理閣下の御健康と御活躍を祈念し,日中両国民の末ながい友好とアジアの平和,繁栄のために,乾杯したいと存じます。

 乾杯