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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中漁業協議会と中国漁業協会との間の漁業の安全操業に関する議定書

[場所] 
[年月日] 1975年9月22日
[出典] 日中関係基本資料集、494−498頁.
[備考] 
[全文]

 日中漁業協議会及び中国漁業協会(以下「双方の漁協」という)は、日本国と中華人民共和国との間の漁業に関する協定(以下「漁業協定」という)第四条及び合意された議事録4に基づき、航行及び操業の安全、正常な操業の秩序の維持並びに海上における事故の円滑かつ迅速な処理のため、次のとおり取り決めた。

   第一条

 この議定書が適用される水域は、漁業協定第一条1に規定する水域(以下「協定水域」という)とする。

   第二条

(1)協定水域内において、航行及び操業する双方の機船は、この議定書の不可分の一部をなす附属書に掲げる事項を遵守するものとする。

(2)いずれか一方の漁協が他方の漁協に対し、この議定書の修正を提案したときは、当該他方の漁協は、協議に応ずるものとする。この議定書の修正は、双方の漁協の合意を経て効力を生ずるものとする。

   第三条

 双方の漁協は、この議定書の規定の実施を確保するため、常時連絡を保つものとし、また、必要に応じ、双方の漁協の合意により会合することができる。

   第四条

(1)この議定書は、漁業協定が効力を生ずる日から効力を生ずる。

(2)この議定書は、漁業協定の有効期間中効力を有する。

一九七五年九月二十二日に北京で、ひとしく正文である日本語及び中国語により本書二通を作成した。

日中漁業協議会代表団

団長

中国漁業協会代表団

団長

   附属書

 この議定書第二条の規定に基づき、双方の機船が遵守すべき事項は、それぞれその自国政府の認めた国際海上衝突予防規則の関係規定のほか、次のとおりとする。

1 標識及び信号

(1)双方の機船は、それぞれ自国の船舶国籍証書(漁船国籍証書)を携帯するものとし、双方の漁協は、その証書の見本を交換するものとする。

(2)双方の機船は、操舵室の両側の外壁に船名又は漁船登録番号(船籍港番号)を表記する。

 船首両側に船名を表記し、船尾(船尾楼を含む)に船籍港及び船名を表記する。

(3)双方の機船は、操舵室の外壁を日本機船にあっては黄銅色に、中国機船にあっては灰色に塗装するものとし、夜間の識別信号は、日本機船にあっては長光二回を、中国機船にあっては短光三回を点滅するものとする。

(4)漁業協定に定められたまき網の第二保護区に入る双方の集魚灯まき網機船は、操舵室上端の両側外壁の見えやすい場所に操業標識(様式は附図の通り)を掲げ、夜間は、灯光をもちいて照明しなければならない。

(5)いずれの一方の機船も、漁網が障碍物にからまったときは、追加の信号として、昼間は見えやすい場所に国際信号旗P旗を掲げ、夜間は垂直線上に紅灯二個を掲げるものとする。

(6)いずれの一方の機船も、漁業協定に定められた休漁区又は保護区に入り協定に違反して操業し、又は操業しようとしている他方の機船を発見したときは、当該他方の機船に対し、次の信号を示すことができる。この信号は汽笛信号を用いて、長音四回を鳴らすか又はドラカネを約十秒間連打するものとする。信号を受けた機船は、汽笛信号を用いて、長音一回、短音一回、長音一回、短音一回を鳴らし応えるものとする。

2 操業に当たって遵守すべき事項

(1)双方の機船は、曳網中の機船の正前方においては、投網、錨泊又はその他当該機船の操業を妨害する行為をしてはならない。

(2)曳網中の双方の機船は、前方で曳網中の機船を追い越して、その正前方で曳網し、当該機船の操業を妨げてはならない。

(3)双方の機船は、曳網中の機船の正後方一千二百メートルの網の延伸区内においては、投網、灯火による集魚、錨泊又はその他当該機船の操業を妨げる行為をしてはならない。

(4)二組(「組」とは、一統の網を用いて操業する二隻の機船をいう。以下同じ)の機船が平行して曳網するときは、相互にその間隔三百メートル以上を保つものとする。トロール機船が平行して曳網するときは、相互にその間隔五百メートル以上を保つものとする。

(5)双方の底びき機船が比較的混雑している漁場において操業する場合は、一定の曳網方向を保つものとし、風圧、潮流の影響により制御しがたいときは、汽笛信号を送り、転針を示すものとする。

(6)操業中の底びき機船は、揚網中の漁船と五百メートル以上の距離を保つものとする。

(7)操業中において、双方の集魚灯まき網機船団の相互間又は集魚灯まき網機船と他種機船との間は、一千メートル以上の距離を保つものとする。双方の集魚灯まき網機船が操業するときは、操業中の機帆船又は帆船と一海里以上の距離を保つものとする。

(8)一方の集魚灯まき網機船が魚群を追い囲み始めたときは、他方のまき網機船は、この魚群を囲む等の行為をして当該機船の操業を妨げてはならない。

3 避航に当たって遵守すべき事項

(1)機船は、帆船を避けるものとする。機船は、定置漁具で操業中の漁船及びその漁具を避けるものとする。

(2)航行中の機船は、操業中の漁船及びその漁具を避けるものとし、又はそれに近づいて航行し、当該漁船の操業を妨げてはならない。

(3)航行中の機船は、集魚中の漁船の操業を妨げないよう、当該漁船と一千メートル以上の距離をおいて航行するものとする。

(4)操業中の機船は、故障(ロープ切れ、漁具かかりその他)を生じた漁船を避けるものとする。前方で漁具を喪失して捜索中の漁船を発見したときは、適当に転針して相互の漁具のからみを避けるものとする。

(5)双方の機船は、錨泊中の漁船の後方を通過するものとする。その前方を通過しなければならないときは、航行中にあっては百メートル以上、曳網中にあっては一千メートル以上の距離を保つものとする。

(6)操業中の双方の底びき機船が、真向い又はほとんど真向いに行き合ったときは、相互の距離一千メートル以上の充分な距離のところで、それぞれ針路を右に転ずるものとする。

(7)操業中の双方の底びき機船が互に進路を横切るときは、他方の機船を右げん側に見る一方の機船は、相互の距離五百メートル以上の充分な距離のところで、暫時曳網を停止するか、減速曳網をするか又は汽笛信号をもって転針方向を示して避航に有利な方向に転針し、他方の機船の通過を待つものとする。

4 錨泊に当たって遵守すべき事項

(1)双方の機船が漁場で錨泊するときは、相互に一千メートル以上の距離を保つものとし、漂流しているときは、一定の距離を保つものとする。

(2)双方の機船が漁場で錨泊又は漂流しているときは、前項に該当する場合を除き、操業、錨泊又は漂流している他種漁船と一定の距離を保つものとする。

5 安全操業のための慣習上の予防措置

 双方の機船は、航行及び操業の安全を確保するため、当直見張り及び慣習上の予防措置をおこたってはならない。緊急事態にあっては、臨機応変の措置をとり、予想外の事故の発生を防止するものとする。

6 海上における事故の処理に関する事項

(1)双方の機船相互の間又は機船と他種漁船の間において、相互に漁具がからみあったときは、あらゆる有効な措置をとり、これをとりはずすものとする。とりはずすことができないときは、乗組員及び船舶の安全をおびやかす場合のほかは、協議合意の上でなければ、いずれの一方も他方の漁具を切断してはならない。

(2)双方の機船相互の間又は機船と他種漁船の間において、衝突又は漁具の破損等の事故が生じたときは、ただちに有効な措置をとり、損害を受けた乗組員及び船舶の安全を保障し、当事者双方は、現場における協議で解決し、相互に事故状況及び処理意見書(様式は附表のとおり)を交換するものとする。その後、当事者双方は、それぞれ所属の漁協に報告し、漁協は、これを記録に残すものとする。損害を与えた側の漁協は、その損失に対し賠償することに責任を負うものとする。

 当事者双方が現場における協議で解決できないときは、相互に事故状況及び処理意見書を交換し、その後、それぞれ所属の漁協に報告するものとする。双方の漁協は、実際の状況を究明し、協議の上解決するものとする。

(3)いずれの一方の機船も、他方の漁具を破損し、損害を受けた漁船が現場にいない場合、当該機船は、事故状況及び処理意見書を附近にいる他方の他の漁船に托すものとする。その後当該機船は、その状況を所属の漁協を通じて、相手側の漁協に通知するものとする。双方の漁協が実際の状況を調査した後、損害を与えた側の漁協は、その損失に対し賠償することに責任を負うものとする。

(4)双方の機船相互の間又は機船と他種漁船の間において、衝突又は漁具破損等の事故が発生した後、損害を与えた機船がこの事項の(2)又は(3)の規定に従わなかったとき、当該事故に関係する他方の漁船は、損害を与えた機船の状況を所属の漁協を通じて、相手側の漁協に通知することができる。

 通知を受けた漁協は、すみやかに調査し、調査の状況及び処理の結果を相手側の漁協に通知するものとする。

(5)損害を与えた機船側の漁協は、他方の漁協に対し、事故の賠償金をできるだけすみやかに電報為替をもって支払い、事故の処理を了えるものとする。

附図(略)

附表(略)