データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 華国鋒総理主催レセプションにおける大平内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1980年5月29日
[出典] 大平内閣総理大臣演説集,318−320頁.
[備考] 
[全文]

 華国鋒総理閣下,谷牧副総理閣下,黄華外交部長閣下,符浩大使閣下,ご在席の中国の友人の皆さま,

 今夕は,このように心暖まるご歓待にあずかり誠にありがとう存じます。日本側の出席者を代表して厚くお礼申し上げます。

 華国鋒閣下,今日,日中両国の間においては,経済協力・文化交流等多くの局面において多彩な協力関係が進展し,ひとびとの往来もひんぱんになってきました。誠にご同慶にたえません。この協力関係を一層発展充実させるため,私は,今夕の場をお借りしてそのような両国国民の共同作業の場におけるそれぞれの国民性のもつ意味について考えてみたいと思います。

 日中両国の国民性は,ともに自然を愛し,文化や人間関係を重んずる点などにおいて共通するところが少なくありません。

 しかし一方,広大にして大陸的な環境・風土の中に育った中国人と,周囲を海にめぐらされた狭小な国土に生きてきた日本人とは,自ずから人間形成の境遇を異にし,異なった国民性をつくり上げてきたと言うことができます。

 私は,この国民性の違いは,日中両国民の交流を阻害するものとは思いません。むしろ,私は,日中両国の国民性は,それぞれ一方が他の足らざるところを補うという相互補完の関係をつくり上げることになるのではないかと考えるのであります。すなわち,日本人は,中国人の雄大な構想力,ねばり強い忍耐力などその優れた長所から多くを学ぶことができます。

 また,中国のかたかだは,明治維新後,日本人が懸命になし遂げてきた近代化過程に示した工夫と精神を参考にされるところが多いのではないかと信じます。こうして両国国民がお互いの国民性から相互に学び合い,新たな理解と尊敬を生み出すことによって,より一層深い血の通った交流が図られるようになるのではないでしょうか。

 日中間に存在する経済的補完性については多くの人々が口にするところでありますが,私は,日中間のそのような面に加え,さらに,以上申し述べたような両国の国民性の文化的側面にも目を向けたいと思うのであります。

 華総理閣下,閣下は,中国の首脳として,初めて日本を訪問され,ご滞在中,極めて精力的に多くの日本人と接せられました。貴国の近代化にかける閣下のひたむきな情熱は,強い感動をもって迎えられました。春の海のような閣下の穏やかなご性格は,多くの日本人を魅了いたしました。閣下は,今回の日本ご訪問を通じて数限りない日本国民の友誼と信頼の情を得られ,それをたずさえて帰国されることになります。私は,閣下の収められた成果に深甚な敬意を払うとともに,今回のご訪問が両国間の国民性の理解の増進にとって,大きなステップになったことを心から喜ぶものであります。

 華総理閣下,私は,今夕ここに閣下はじめ,中国の親しい友人の皆さま方とひとときの歓をともにしながら,改めて日中両国間の長きにわたる歴史に思いをはせております。かつて郭沫若先生はこのような両国の関係を「深々たる清誼二千載,茫々たる北海も一衣帯水なり」と謳いあげられました。

 華総理とそのご一行は明日関西に向けてご出発になり,週末は,古都・京都の風情を愛でられるとうかがっております。同地でも閣下は,日中二千年の往来の歴史にふれられ,なかんずく,日本が古来より極めて多くの面で中国に負ってきたことを目にされるでありましょう。ご一行の日本滞在が極めて限られた日数であることが残念でありますが,晩春の古都の風情を十分楽しまれるよう期待しております。

 それでは最後に,主人の盃をお借りして

 中華人民共和国の一層の繁栄のために,

 日中両国間の平和友好関係の発展のために,

 華国鋒総理閣下のご健康のために,

 ご列席の皆さまのご健康のために,

乾杯したいと思います。

 乾杯。