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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 趙紫陽・中華人民共和国総理歓迎晩餐会における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] 東京,首相官邸
[年月日] 1982年5月31日
[出典] 鈴木内閣総理大臣演説集,278−280頁.
[備考] 
[全文]

 趙紫陽総理閣下,並びに御在席の中国の友人の皆様

 今夕,ここにささやかな宴を催すにあたり,私は,先ず,趙紫陽総理及び御一行の皆様に対し,日本国政府並びに国民を代表して心からなる歓迎の意を表したいと思います。

 趙総理には,昨年十月南北サミットの際,初めてお目にかかかったわけでありますが,その際のお約束どおり,本日,ここの御来日が実現し,親しくお話しする機会をもてますことは,私の大きな喜びとするところであります。

 趙総理閣下。本年は,日中国交正常化十周年の記念すべき年であります。日中両国は,この間着実に関係を増進させてまいりました。緊張絶えざる国際情勢の中で,両国の友好協力関係は年々前進し,恰も五月の薫風の如く,平和と安定のため積極的役割を果たしております。

 申すまでもなく,今日のような両国の関係が築かれるまでには多くの先人たちの献身的努力があったことを忘れることはできません。日中間の友好協力関係は,一時の国際政治情勢の反映としてもたらされたというようなものではなく,両国各般各層の交流の積み重ねの上に築き上げられたものであり,広範な国民的基盤を有しているものと言えましょう。本席にも,この日中友好の事業に長年携わって来られた方々に数多くおいでいただいているわけであります。

 日中両国が今後長期にわたり常に友好関係を保持しなければならないということは自明のことでありますが,両国間には友好関係が当然のこととして存在するのだと安易に考えるならばそれは誤りでありましょう。両国関係者の自覚的努力を通じはじめて今日の日中関係があり,そして明日の日中関係の発展が導かれるということを私は改めて銘記したいと思います。

 歴史も社会体制も異なる両国が相互理解と友好を深めていくに際しては,これで十分ということはあり得ません。この十年の良好なる基礎の上に,次なる十年の新たな飛躍に向けて,私は趙総理閣下並びに御在席の皆様とともに,歩を進めたいと考えております。

 趙総理閣下。貴国には古くより「一年の計は,穀を樹うるに如くは莫し。十年の計は,木を樹うるに如くは莫し。終身の計は,人を樹うるに如くは莫し。」という格言があると聞いております。趙総理閣下の指導の下に進められている中国の近代化政策は,まさに,十年,百年の先をも見通し,単に経済の発展のみならず広範な人材の育成をめざす壮大な計画であると申せましょう。

 私は,閣下が,豊かで繁栄した国家の建設に向け,引き続き立派な業績を収められるようお祈りいたしますとともに,貴国のかかる御努力に対し,我が国としても出来る限り協力していくということをここに改めて明確にお約束するものであります。

 閣下は,我が国におきましても,今日の中国を担う英知と行動力に溢れた指導者としてつとに知られております。今般の御来日の前にも,貴国国務院の機構改革という大事業に取り組まれ,これを立派に遂行されてきたと伺っております。私自身,我が国の行財政改革に全力を挙げて取り組んでいる身であり,閣下の英断と実行に大いにならいたいと考えている次第であります。

 今宵,こうして中国の友人の皆様をお迎えし,私の眼前に去来いたしますのは,一昨年貴国を訪れた際,中国の友人からうけた暖かいおもてなしぶりと各地の美しい風物であります。就中,景勝桂林の山水は,いまも私の心を捕えて離さないものがあります。今年秋には再び貴国を訪問させていただくこととしておりますが,世界に冠たる北京の秋をいまから楽しみにしている次第であります。

 それでは,ここに杯をあげて中華人民共和国の一層の繁栄のために日中両国間の平和友好関係の一層の発展のために趙紫陽総理閣下の御健康のために御在席の皆様の御健康のために乾杯したいと思います。

 乾杯!