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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本の歴史教科書についての「人民日報」の短評,この教訓はしっかりとおぼえておかねばならない

[場所] 
[年月日] 1982年7月20日
[出典] 日本外交主要文書・年表(4),619−620頁.「人民日報」7月20日.
[備考] 
[全文]

 日本文部省は先頃,小中学校の教科書を審査した際,日本の中国侵略の史実について「戦争責任をぼかす」(日本新聞用語)修正を加えた。例えば1937年の日本軍による非人道的な,あの南京大虐殺について,文部省は,その責任をあたかも侵略に抵抗した中国軍のせいであったかのように言い,事件が起きたのは,中国軍の激しい抵抗にあって日本軍が大きな損害を受けたため,多くの中国軍民を殺害することになったなどと言っている。文部省はまた「中国の犠牲者は20万人という多数にのぼった」とある部分や,「日本軍が強姦,略奪,放火を行い,国際的な非難を受けた」という部分などは,削除している。日本軍の「華北侵略」「中国に対する全面的な侵略」など,とにかく「侵略」と書かれている字句は一切削ってしまい,それを「進撃」と書き改めている。文部省の審査官たちは,世界中をあっといわせた程の9・18事変さえ,日本軍が南満州鉄道を爆破しただけである,と軽く書き流している。日本文部省のこうした教科書の書き改めは,中国人民の大きな憤りをまき起こさないではおかないだろう。文部省の書き変えは,日本の東南アジアなどに対する侵略の史実の中にも現れていることを指摘しておかねばならない。

 報道によると,文部省がこうしたのは,もはや過ぎ去ったことだから今日の日本と中国や東南アジア諸国との友好に暗い影をもたらすとは思えないということにある。もし本当に文部省がそう考えるのならとんでもない考え違いである。

 日本軍国主義の侵略・拡張政策は,中国人民,東南アジア各国人民および日本人民に深刻な災害をもたらしており,この歴史の事実を絶対に書き改めることはできない。歴史の事実を尊重することによって初めて,日本人民と中国人民,東南アジア各国人民とが「前の事を忘れず,後のいましめにする」ことができるし,日本と中国,東南アジア諸国との友情の発展を有利にすることができる。さもなければ,いきおい人々は,日本政府の中には軍国主義の亡霊にしがみついている人がいるのではないかと疑いを持つようにもなる。

 青少年にどんな思想を注入し,どのような影響を与えるかは,中日両国の友好の発展に重大な意義をもっている。1972年の中日国交正常化に当たって,当時,周恩来首相は「日本軍国主義者の中国侵略によって中国人民は重大な災いを被ったが,同時に日本国民も深い痛手を負った。前の事を思い起こし,後のいましめとすること−われわれはこの教訓を忘れてはならない」と述べている。

 中日関係が新しい局面を迎えている今日,われわれは互いに歴史を大事に扱い,子々孫々に至るまで,この教訓を覚えておき,末長く仲好く付き合っていけるようにすべきである。