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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 原子力の平和利用における協力のための日本国政府と中華人民共和国政府との間の協定(略称‐中国との原子力平和的利用協力協定)

[場所] 東京
[年月日] 1985年7月31日
[出典] 日中関係基本資料集、677‐681頁.
[備考] 
[全文]

 日本国政府及び中華人民共和国政府は、

 原子力の平和的利用における両国間の協力を促進することを希望して、

 次のとおり協定した。

   第一条

 この協定の適用上、

(1)「両締約国政府」とは、日本国政府及び中華人民共和国政府をいう。

(2)「認められた者」とは、いずれか一方の締約国政府の管轄の下にある個人又は法人その他の団体であって核物質、資材、設備及び施設を供給し若しくは受領すること又はコンサルタントの役務その他の役務を提供し若しくは受領することを当該締約国政府により認められた者をいい、日本国政府及び中華人民共和国政府を含まない。

(3)「設備」とは、原子力活動における使用のために特に設計され又は製造された機械、プラント若しくは器具又はこれらの主要な構成部分であって、この協定の附属書BのA部に掲げるものをいう。

(4)「資材」とは、原子炉用の資材であってこの協定の附属書BのB部に掲げるものをいい、核物質を含まない。

(5)「核物質」とは、次に定義する「原料物質」又は「特殊核分裂性物質」をいう。

i 「原料物質」とは、次の物質をいう。

ウランの同位元素の天然の混合率から成るウラン同位元素ウランニ三五の劣化ウラン

トリウム

金属、合金、化合物又は高含有物の形状において前記のいずれかの物質を含有する物質

 他の物質であって両締約国政府が文書により認める含有率において前記の物質の一又は二以上を含有するもの

 両締約国政府が文書により認めるその他の物質

ii 「特殊核分裂性物質」とは、次の物質をいう。

プルトニウムニ三九

ウランニ三三

ウラン二三五

同位元素ウランニ三三又は二三五の濃縮ウラン

前記の物質の一又は二以上を含有する物質

両締約国政府が文書により認めるその他の物質

「特殊核分裂性物質」には、「原料物質」を含めない。

(6)「施設」とは、原子力活動における使用のために特に設計され又は建設された建物又は構築物をいう。

(7)「回収され又は副産物として生産された特殊核分裂性物質」とは、この協定に基づいて供給された核物質、資材、設備又は施設の使用から一又は二以上の処理により生ずる特殊核分裂性物質をいう。

   第二条

 両締約国政府は、この協定並びにそれぞれの国において効力を有する関係法令及び許可要件に従うことを条件として、両国における原子力の平和的利用のため、次の方法により協力する。

 (1)両締約国政府は、専門家の交換によるそれぞれの管轄内にある組織の間における協力を助長する。日本国の組織と中国の組織との間におけるこの協定に基づく取決め又は契約の実施に伴い専門家の交換が行われる場合には、両締約国政府は、それぞれこれらの専門家の自国の領域への入国及び自国の領域における滞在を容易にする。

 (2)両締約国政府は、供給者と受領者との間において合意によって定める条件で報道を交換することを容易にする。

 (3)一方の締約国政府又はその認められた者は、供給者と受領者との間の合意によって定める条件で、核物質、資材、設備及び施設を他方の締約国政府又はその認められた者に供給し又はこれらから受領することができる。

 (4)一方の締約国政府又はその認められた者は、この協定の範囲内において、提供者と受領者との間の合意によって定める条件で、他方の締約国政府又はその認められた者にコンサルタントの役務その他の役務を提供し又はこれらからコンサルタントの役務その他の役務の提供を受けることができる。

 (5)両締約国政府が適当と認めるその他の方法

   第三条

 第二条に規定する協力は、次に掲げる分野において行うことができる。

(1)放射性同位元素及び放射線の研究及び応用

(2)ウラン資源の探鉱及び採掘

(3)軽水炉及び重水炉の設計、建設及び運転

(4)軽水炉及び重水炉の安全上の問題

(5)放射性廃棄物の処理及び処分

(6)放射線防護及び環境監視

(7)両締約国政府が合意するその他の分野

   第四条

1 この協定に基づく協力は、平和的目的に限って行う。

2 この協定に基づいて受領された核物質、資材、設備及び施設並びに回収され又は副産物として生産された特殊核分裂性物質は、いかなる核爆発装置の開発又は製造のためにも、また、いかなる軍事的目的のためにも使用してはならない。

3 2の規定の遵守を確保するため、両締約国政府は、この協定に基づいて受領された核物質、資材、設備及び施設並びに回収され又は副産物として生産された特殊核分裂性物質に関し、それぞれの異なる立場に従い、国際原子力機関に対して、それぞれの管轄内において保障措置を適用することを要請する。

   第五条

 この協定に基づいて受領された核物質、資材、設備及び施設並びに回収され又は副産物として生産された特殊核分裂性物質は、他方の締約国政府の文書による事前の同意がある場合を除き、一方の締約国政府の管轄の外に移転してはならない。

   第六条

1 両締約国政府は、それぞれその管轄内にあるこの協定に基づいて受領された核物質及び回収され又は副産物として生産された特殊核分裂性物質に対し、この協定の附属書Aに定める指針の示すところに沿って、適切な防護の措置をとる。

2 この協定に基づいて受領された資材、設備及び施設は、必要な場合には、それぞれの国において効力を有する関係法令に従って防護する。

   第七条

1 両締約国政府は、この協定に基づく協力を促進するため、いずれか一方の締約国政府の要請に基づき、この協定に基づく協力の進展及び結果について検討すること並びに相互に関心を有する事項について討議することができる。

2 この協定の解釈又は実施から問題が生じた場合には、両締約国政府は、いずれか一方の締約国政府の要請に基づき、相互に協議する。

3 2に規定する協議又は両締約国政府の合意するその他の方法により問題が解決されない場合には、両締約国政府は、その問題を調停手続に付託することができる。

   第八条

 両締約国政府は、いずれか一方の締約国政府による第四条、第五条又は第六条の規定に対する違反があるときは、他方の締約国政府の要請に基づき、直ちに相互に協議を行い、第四条、第五条又は第六条の規定の遵守を確保するための適切な措置をとる。

   第九条

 この協定の附属書は、この協定の不可分の一部を成す。この協定の附属書は、両締約国政府の文書による合意により、この協定を改正することなく修正することができる。

   第十条

1 この協定は、その効力発生のために国内法上必要とされる手続がそれぞれの国において完了したことを確認する外交上の公文が交換された日に効力を生じ、かつ、十五年間効力を有する。この協定は、いずれか一方の締約国政府がそれぞれの期間の満了の日の少なくとも六箇月前に他方の締約国政府に対してこの協定を終了させることを文書によって通告しない限り、自動的に五年の期間ずつ延長される。

2 この協定の終了の後においても、この協定に基づいて受領された核物質、資材、設備及び施設並びに回収され又は副産物として生産された特殊核分裂牲物質に関し、これらが関係締約国政府の管轄の下にある間又は両締約国政府により別段の合意が行われるまでの間、この協定の第一条及び第四条から第八条までの規定は、引き続き効力を有する。

3 両締約国政府は、いずれか一方の締約国政府の要請に基づき、この協定を改正するかしないかについて相互に協議するものとし、かつ、改正に合意することができる。

 このような改正は、その効力発生のために国内法上必要とされる手続がそれぞれの国において完了したことを相互に通告した日に効力を生ずる。

 以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けてこの協定に署名した。

 一九八五年七月三十一日に東京で、ひとしく正文である日本語、中国語及び英語により本書二通を作成した。解釈に相違がある場合には、英語の本文による。

  日本国政府のために 安倍晋太郎

  中華人民共和国政府のために 呉学謙

(附属書A・B及び付表は略す)

   合意された議事録

 本日署名された原子力の平和的利用における協力のための日本国政府と中華人民共和国政府との間の協定(以下「協定」という)に関し、下名は、次の了解をここに記録する。

1 協定第二条(3)に関し、供給締約国政府は、核物質、資材、設備及び施設のそれぞれの移転につき、受領締約国政府に対し、船積みの前に文書によって通報することが確認される。

2 協定第三条(7)に規定する協力に関し、濃縮、再処理及び重水製造のための技術の分野並びにそれらのための設備及び施設の移転の分野又はプルトニウムの移転の分野における協力については、いかなる場合にも両締約国政府の間の別個の取極が必要とされることが確認される。

3 協定第四条3に関し、中華人民共和国政府は、受領締約国政府となる場合には、協定に基づいて受領された核物質、資材、設備及び施設並びに回収され又は副産物として生産された特殊核分裂性物質に関し、自発的に提起することによりできる限り速やかに国際原子力機関との間で同機関による保障措置の適用のための協定を締結することを確認する。

 日本国に関し、一九七七年三月四日に署名された核兵器の不拡散に関する条約第三条1及び4の規定の実施に関する日本国政府と国際原子力機関との間の協定は、協定第四条3に定める要件を満たすことが確認される。

4 協定第四条3により要求される保障措置の維持は、協定第二条(3)に定める協力の条件であることが確認される。協定第四条3に定める保障措置がいずれか一方の締約国政府の管轄内において国際原子力機関により適用されない場合には、両締約国政府は、いずれか一方の締約国政府の要請に基づき、直ちに相互に協議を行い、協定第四条2の規定の遵守を確保するための相互に受諾可能な取極を行う。

 日本国政府のために 安倍晋太郎

 中華人民共和国政府のために 呉学謙

(参考)

 この協定は、原子力の平和的利用における日中両国間の協力のため、専門家及び情報の交換、核物質等の供給並びに役務の提供につき協力すること等を規定している。

昭和六十年(一九八五年)七月三十一日に東京で署名

昭和六十一年(一九八六年)七月十日に効力発生