[文書名] 内閣総理大臣その他の国務大臣による靖国神社公式参拝についての後藤田内閣官房長官談話
一、戦後四十年という歴史の節目に当たる昨年八月十五日の「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に、内閣総理大臣は、気持ちを同じくする国務大臣とともに、靖国神社にいわゆる公式参拝を行った。これは、国民や遺族の長年にわたる強い要望に応えて実施したものであり、その目的は、靖国神社が合祀している個々の祭神と関係なく、あくまで、祖国や同胞等のために犠牲となった戦没者一般を追悼し、併せて、我が国と世界の平和への決意を新たにすることであった。これに関する昨年八月十四日の内閣官房長官談話は現在も存続しており、同談話において政府が表明した見解には何らの変更もない。
二、しかしながら、靖国神社がいわゆるA級戦犯を合祀していること等もあって、昨年実施した公式参拝は、過去における我が国の行為により多大の苦痛と損害を蒙った近隣諸国の国民の間に、そのような我が国の行為に責任を有するA級戦犯に対して礼拝したのではないかとの批判を生み、ひいては、我が国が様々な機会に表明してきた過般の戦争への反省とその上に立った平和友好への決意に対する誤解と不信さえ生まれるおそれがある。それは、諸国民との友好増進を念願する我が国の国益にも、そしてまた、戦没者の究極の願いにも副う所以ではない。
三、もとより、公式参拝の実施を願う国民や遺族の感情を尊重することは、政治を行う者の当然の責務であるが、他方、我が国が平和国家として、国際社会の平和と繁栄のためにいよいよ重い責務を担うべき立場にあることを考えれば、国際関係を重視し、近隣諸国の国民感情にも適切に配慮しなければならない。
四、政府としては、これら諸般の事情を総合的に考慮し、慎重かつ自主的に検討した結果、明八月十五日には、内閣総理大臣の靖国神社への公式参拝は差し控えることとした。
五、繰り返し明らかにしてきたように、公式参拝は制度化されたものではなく、その都度、実施すべきか否かを判断すべきものであるから、今回の措置が、公式参拝自体を否定ないし廃止しようとするものでないことは当然である。政府は引き続き良好な国際関係を維持しつつ、事態の改善のために最大限の努力を傾注するつもりである。
六、各国務大臣の公式参拝については、各国務大臣において、以上述べた諸点に十分配慮して、適切に判断されるものと考えている。