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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 中曾根内閣総理大臣の中国訪問関連文書,中国側歓迎晩餐会における中曾根内閣総理大臣スピーチ

[場所] 北京 
[年月日] 1986年11月8日
[出典] 外交青書31号,375−377頁.
[備考] 
[全文]

 胡耀邦総書記閣下,

並びに御在席の友人の皆様,

 本日,胡総書記閣下のお招きにより貴国を訪問して,日中青年交流センターの定礎式に出席する機会を得ましたことは,私の大きな喜びであります。また,今夜は私どものためにかくも盛大な晩餐会を御開催いただき,さらに只今は閣下から心暖まる歓迎のお言葉を賜りました。ここに厚く御礼申し上げます。

御在席の皆様,

私は,先程,胡総書記閣下と2年半ぶりに親しくお話しいたしました。私が閣下にお目にかかるのは今回が4度目でありますが,閣下の溢れるような親しみのこもった笑みは,いつも私の心をなごませるのであります。

しかし同時に,私は,胡総書記閣下が,この会談中,時にふと見せられる厳しい表情に,閣下が中国の最高指導者として,10億の民の喜怒哀楽を背負いつつ,たくましい社会と豊かな経済を建設するため,日夜全力を傾注しておられる御日常を垣間見る思いがいたしました。

近時,貴国においては,「中華振興」を標語とした近代化のための大改革が進められており,最近は精神文明の建設にも力が注がれていると聞いております。このような物心両面にわたる発展と飛躍は,貴国の洋々たる未来を保証するものであると思います。しかし,改革には困難が伴うのが常であり,さまざまの障害に遭うことは避けられません。我が国も,国際性豊かな国家への脱皮を目指し,行政,財政,税制,教育等各分野で改革を進め,更に現在は経済構造の調整に取り組んでおりますが,種々の困難を体験しています。しかし,両国が進めているこれらの改革は,形態こそ違え,共に21世紀に向けての新たな国造りの基礎を固めることを目指すものであり,我々は,共に勇断をもってこれに臨まなければなりません。

御在席の皆様,

翻って世界を見るに,私が前回貴国を訪れてから今日までの2年半に,国際情勢は激動し,アジア・太平洋地域においても,様々な変化が生じておりますし、また,今後更に変動を生むような情勢も展開されつつあります。しかしながら,私は,日中両国の指導者,友人の皆様に対し常々申し上げているとおり,雨が降ろうが風が吹こうが,日中両国が「平和友好,平等互恵,相互信頼,長期安定」の4原則を実践し,固く結合していることが,アジア・太平洋地域の安定の基礎であり,世界平和確立の基本であると思うのであります。

皆様御記憶の通り,昨年来,両国間にはいくつかの問題が生じました。それは,私にとって少なからぬ痛みの伴う試練でありました。しかし,容易ならざる問題であればあるほど,相互に主権と独立を守り,国民感情を尊重しつつ友好を増進し,安定を更に確実なものとするよう,長期的視野に立ってその解決に努め,そのために自らが飛沫を浴びることを厭わず,また自らの犠牲において敢えて取り組むのが政治家の使命であります。私は,両国関係を律する基本的諸原則の着実な実施のため,全力をふるって努力いたしております。胡総書記閣下におかれても,我が国との友好的かつ安定的な真の協力関係を維持するために,国内に様々な事情を抱えられながら,必要あり時は自らを乗り出して,懸命に努力されたことを,私はよく承知いたしております。

貴国の古き賢人は次のように述べております。

「君子は憂えず懼れず,内に省みて疚しからずんば,夫れ何をか憂え何をか懼

れん」(君子不憂不懽,内省不疚,夫何憂何懼──論語,顔淵)

御在席の皆様,

日中両国関係を更に揺るぎないものにするには,百の言葉よりも,両国民間の真の友情と信頼に基づく実行が必要であり,特に,両国の指導者間の決定的な友情と信頼に基づいた行動が不可欠であります。幸い胡総書記閣下と私との間には,強固な相互信頼に裏打ちされた揺るぎない友情が厳然と存在しております。私は,これを生涯大事にしていきたいと念じております。

次代の青年に日中将来の夢を託して日中青年交流センターが定礎されたこの記念すべき日に,我々は,両国が両国関係の基本原則を守り,お互いの友情と尊敬を大切にして,日中関係の輝ける将来のため,お互いに力のかぎり尽力することを改めて誓い合いたいと思います。

それでは最後に,御主人の杯をお借りし,

中華人民共和国の一層の繁栄のために,

日中友好協力関係の発展のために,

胡耀邦総書記閣下の御健康のために,

御在席の皆様の御健康のために,

乾杯致したいと思います。

乾杯!