[文書名] 李鵬総理主催歓迎宴における竹下内閣総理大臣の挨拶
李鵬総理閣下,令夫人
並びに中国の友人の皆様
本夕は,私どものために,かくも盛大な歓迎宴を催していただき,またただいまは李鵬総理閣下より心のこもった歓迎のお言葉を頂戴いたしました。一行を代表して厚く御礼申し上げます。また本席で,古い友人,新しい友人の皆様にお目にかかる機会を得まして大変嬉しく存じます。更に,今回の私どもの貴国訪問に当たり,種々お骨折りいただいた中央・地方の関係者の皆様に対して心から感謝いたします。
ご在席の皆様
今回の私の貴国訪問最大の目的は,総理としてはじめて李総理閣下との間で十分に意見交換を行うことにあります。私は,閣下が四年前に来日された時お目にかかっておりますが,先ほどまで行われた隔意のない首脳会談を通じ,私達は既にお互いに心が打ち明けられる友人になったと自負しております。
会談において李鵬総理閣下にも申し上げたところでありますが,今回の訪中に当たり,私が貴国指導者と国民の皆様に申し上げたいことは,次の諸点であります。
すなわち,まず,日中関係を良好かつ長期にわたり安定的に維持・発展させることは我が国の重要な政策であり,日中共同声明,日中平和友好条約及び日中関係四原則の精神に則って,両国関係の前進のため全力を尽くすとの方針は不変であるということであります。私は,体制を異にする両国がこの精神で共に協力し合うならば,両国間に生起するいかなる問題も解決できないものはないと確信いたしております。
また,我が国は貴国の近代化政策遂行へのご努力を高く評価し,今後ともできる限りの協力を続けてまいる方針であります。
更に,日中関係を将来に向けて揺るぎないものとし,新たな飛躍を図るため,従来の両国間の政治・経済関係の発展に加え,文化面の交流についてもこれを充実させたいと思います。私は,こうしてこそ真に調和のとれた両国関係の構築が可能になると考えます。
本年は日中平和友好条約締結十周年であります。多くの先人のたゆみないご努力の積み重ねを基礎として,この条約を締結して以来,日中関係は良好に保たれ,大きく発展してまいりました。また,そのような両国関係が,これまでアジア・太平洋地域の平和と繁栄に大きく貢献してきたことは衆目の一致するところでありましょう。日中関係は両国の利益のみで完結されるには余りに重要でありますし,今後両国が世界の平和と繁栄のために更に積極的に協力し貢献すべき分野は極めて大きいと思うのであります。
ご在席の皆様
このたびの訪中は私にとって五回目のものであります。最初の訪中は一九七二年の国交正常化の直前であり,その時お目にかかった故周恩来総理の日中関係発展を思うお言葉は,今なお私の胸中深く刻み込まれております。しかし,実は私と貴国とのかかわりは更に古く,一九五〇年代に私がまだふるさと島根県の青年団の団長をしていた頃,来日された呉学謙副総理や楊振亜大使とお目にかかった時からであります。爾来三十年,私は貴国の動きを注視し,絶えず貴国と我が国との関係のあり方について考え,また直接・間接に日中関係に深くかかわってまいりました。
とはいえ,貴国のように悠久の歴史と広大な国土をもち,かつ絶えず発展を続けている国を,全体として正しく理解することは決して容易ではありません。「温故知新」という言葉がありますが,今回の訪問を通じ私は,国をあげて近代化の大事業に取り組んでおられる各地の状況を実地に見聞させていただくと同時に,長い歴史を経て今に伝えられている貴重な文化遺産に直接触れたいと念願いたしております。
これまで私は,北京,上海は何度か訪れたことがあります。しかし,今回訪問をご準備いただいた敦煌,西安は初めての地であり,家内ともども喜びはひとしおのものがあります。私は,永年憧れてきたシルクロードの風光,莫高窟の壁画,そして古都長安の文化遺産を実地に拝見するとともに,各地の方々が歴史と文化を含めたそれぞれの特色を生かしつつ,いかに近代化を進めておられるかをこの眼で確かめたいと存じております。
これまで日中両国民の間に築かれてきた心の繋がり,人と人との絆が今後一層拡大・強化されて,両国間に平和にして友好的な関係が永続することこそ両国民全体の願いであります。私のこのたびの訪問が,それに役立つものとなることを切望してやみません。
それでは李鵬総理閣下のおもてなしに対するお礼の言葉を終えるに当たり,
ご主人の盃をお借りして,
中華人民共和国の益々のご繁栄のために,
日中両国の新たなる二〇〇〇年の友好のために,
李鵬総理閣下ご夫妻及びご在席の皆様のご健康のために,
乾杯いたしたいと存じます。
乾杯!