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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 江沢民・中国総書記歓迎晩餐会における宮澤内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1992年4月6日
[出典] 宮沢内閣総理大臣演説集,142ー144頁.
[備考] 
[全文]

 江沢民総書記閣下

 並びに御列席の皆様

 時は春,百花咲き出づる季節であります。しかも,本年は日中国交正常化二十周年という日中両国にとって記念すべき年であります。このような時に総書記閣下を我が国にお迎えし,旧交を温めることができましたことは,私の喜びとするところであります。日本政府と国民を代表して,閣下とそのご一行のご来日を心から歓迎申し上げます。

 御列席の皆様

 日中関係は,この二十年間で目を見張るばかりの進展を遂げ,今や安定した友好協力関係の基礎が築かれるに至りました。これは,日中双方の熱意と努力の賜物でありますが,この間にあって多大の努力を払ってこられた両国の諸先輩に私は心からの敬意を表するものであります。

 本夕,この席にも,長年に亘り日中友好のために献身されて来られた方々が多数出席しておられます。私は,このような諸先輩のご努力を引継ぎ,二十一世紀に向けて両国の関係を一層成熟したものにしたいという決意を新たに致しております。

 この点に関して私が特に強調したいと思いますのは,今や日中関係は単に日中二国間ないし地域的な関係に止まらず,「世界の中の日中関係」と認識されるべき時代に至っているということであります。ソ連邦が崩壊し,新たな国際秩序が再構築されつつある現在,日中両国は国際社会の平和と安定の分野でも重要な役割を果たしていくことが要請されております。このような観点から,我が国としては,貴国と協力しつつ,アジア・太平洋地域の平和な環境造りに貢献し,各国の経済,社会発展の努力をさらに積極的に支援してまいる所存であります。これと同時に,今後とも貴国との間で軍備管理・軍縮や地球環境といった国際社会の共通の問題について政策対話を深め,「世界に貢献する日中関係」の実現を目指してまいりたいと念じております。

 かかる基本的考え方を踏まえつつ,私はつい先ほどまで,来日されたばかりの総書記閣下との間で忌憚のない意見交換を行い,極めて実りのある成果を挙げることができました。また,この会談を通じて,総書記閣下が内外情勢に関して卓越した洞察力を示され,また日中関係の発展にかける強い情熱を改めて確認されたことに対し,深く感銘を受けております。

 総書記閣下

 去る三月初め,貴国の党中央政治局全体会議において改革・開放の速度をさらに加速するとの決定がなされ,この度開催された全国人民代表大会において,その具体的方策につき真剣な討議が行われたと伺っております。貴国が今後とも政治・経済両面に亘る改革・開放を一層推進され,長期安定的発展を実現させることを期待いたしますと共に,我が国としてはそのような貴国の近代化の努力に引き続きできうる限りの協力を行っていくということを改めて明確にお約束したいと思います。

 総書記閣下

 東京の上野動物園には,現在,貴国からいただいた親パンダ二頭のほか,日本で生まれた子パンダが二頭おりますが,このたび中国政府のご好意によって,我が国で生まれた姉さんパンダの童々(トントン)に中国から新たにお婿さんを迎え,そのかわりに弟パンダの悠々(ユウユウ)を中国に里帰りさせることとなりました。日中両国の友好親善関係を象徴するように,パンダたちも子々孫々までいよいよ繁栄できることになりましょう。総書記閣下の特別のご好意に感謝し,御列席の皆様にご報告いたします。

 総書記閣下は,天皇陛下とのご引見をはじめ,記念講演等の重要日程を終えられたあと,関西,山陽,九州などを視察されると承っております。これらの地方は,いずれも古来貴国との交流が最も頻繁だったところであります。現地では,皆様をお待ち申し上げているでありましょう。ご一行が我が国の陽春の風光を心ゆくまでお楽しみいただけることを祈ります。

 それでは,最後にこのたびの閣下のご訪日が,日中友好関係に新たなはずみをつけ,次の二十年に向けての力強い出発点になるよう祈念して,ここに杯を上げ,

 日中両国の一層の繁栄のために,

 日中両国の平和友好関係の一層の増進のために,

 江沢民総書記閣下の御健勝とご列席の皆様の益々のご発展のために,

 乾杯致したいと存じます。

 乾杯。