[文書名] 天皇陛下の楊尚昆国家主席主催晩餐会における答辞
楊尚昆国家主席閣下、ならびに御列席の皆様
今夕は、私共のために、このような宴を催していただき、また、ただ今は楊尚昆主席閣下から、心温まるお言葉をいただき、厚くお礼申し上げます。
貴国と我が国との交流の歴史は古く、特に、七世紀から九世紀にかけて行われた遣隋使、遣唐使の派遣を通じ、我が国の留学生は長年中国に滞在し、熱心に中国の文化を学びました。両国の交流は、そのような古い時代から長い間平和裡に続き、我が国民は、長年にわたり貴国の文化に対し深い敬意と親近感を抱いてきました。私自身も年少の頃より中国についての話を聞き、また、本で読むなどして、自然のうちに貴国の文化に対する関心をもってきました。子供向きに書かれた三国志に興味を持ち、その中に出てくる白帝城についての「朝辞白帝彩雲間」に始まる李白の詩を知ったのも、少年時代のことでありました。
また、今世紀に入ってからは、貴国の有為の青年が数多く我が国を訪れるようになり、人的交流を含む相互の交流は一層活発なものとなりました。私は、このような両国民間の交流の伝統をかけがえのない、貴いものと考えます。
このような深い関係にある貴国を、この度、主席閣下のお招きにより訪れることができましたことは、私共の深く喜びとするところであります。
しかし、この両国の関係の永きにわたる歴史において、我が国が中国国民に対し多大の苦難を与えた不幸な一時期がありました。これは私の深く悲しみとするところであります。戦争が終わった時、我が国民は、このような戦争を再び繰り返してはならないとの深い反省にたち、平和国家としての道を歩むことを固く決意して、国の再建に取り組みました。爾来、我が国民は、世界の諸国との新たな友好関係を築くことに努力してまいりましたが、貴国との間においては、両国の先人たちをはじめとする多くの人々の情熱と努力によって、将来にわたる末長い平和友好を誓い合う関係が生まれ、広範な分野での交流が深まりつつあります。私はこのような両国民間の関係の進展を心から喜ばしく思うとともに、この良き関係がさらに不動のものとなることを望んでやみません。
今日、国際社会は、人類の平和と繁栄の達成という崇高な理想に向けて共同の努力を行っておりますが、この中にあって、日中両国民の友好親善関係の進展は、大きな意義を持つものと信じます。
本年は、日中国交正常化二十周年という両国間の関係における大きな節目の年にあたっており、両国民の間で、相互理解と友好親善を目指して様々な行事が行われております。貴国からは、江沢民総書記閣下ならびに万里委員長閣下が我が国を御訪問になり、両国間のきずなをより太くより強いものとすることに貢献されました。この度の私共の貴国訪問が、このようなきずなに結ばれた両国民にとり、お互いに良き隣人として将来に向かって歩む契機となれば誠に喜ばしく思います。
私共は北京のほか西安と上海を訪れることになっております。西安では、かつて我が国から、航海の危険を冒しつつ唐に渡り、長安で中国の文化を学んだ遣唐使や留学生の苦労をしのびつつ、貴国の歴史に触れたいと思います。また、上海では、貴国の新たな発展の息吹に触れることができるでありましょう。私共は、このたびの訪問において、できるだけ多くの若い人々にも接する機会を得たいと考えております。両国の若い世代は必ずやこれまでの伝統的な交流の歴史を継承し、これをさらに豊かな心の交流として発展させていくにちがいありません。
北京の秋の美しさは多くの人によって語られてまいりました。この美しい季節にこの地を訪れる機会をえましたことを私共は心よりうれしく思っております。
楊尚昆国家主席閣下、ならびに御列席の皆様
ここに日中両国民間の友好親善の発展を念じますとともに、楊尚昆主席閣下の御健勝と貴国の繁栄、そして貴国民の幸せを祈って杯を挙げたいと思います。