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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 天皇皇后両陛下と邦人記者との御懇談

[場所] 
[年月日] 1992年10月27日
[出典] 日中関係基本資料集、796−797頁.
[備考] 
[全文]

 記者 天皇陛下は歴代天皇としては初めて中国を訪問され、無事日程を終えられましたが、率直な御感想をお聞かせください。

 天皇陛下 中華人民共和国主席閣下をはじめ、中国政府の心のこもったおもてなしを受け、中国の人々と交わり、また中国への理解を深めることができたと思います。

 中国の多くの人々が両国の国民の友好を願っていることを感じました。

 記者 天皇陛下は晩餐会で「我が国が中国国民に対し多大の苦難を与えた不幸な一時期がありました。これは私の深く悲しみとするところであります」と述べられましたが、中国の人々への思いは尽くされたとお考えですか。

 天皇陛下 晩餐会においては、中国の人々に対する気持ちを率直に述べました。

 記者 天皇陛下は今回の御訪中に先立って、「多くの人々と交わり、相互理解を深め、友好関係の増進に資するように努めていきたい」と抱負を述べられましたが、その目的は達成されたとお考えですか。

 天皇陛下 そのことを常に念頭に置き、努めてきたつもりですが、どのような時でも十分ということはありません。人の心と心は誠意をもって接すれば、国境を超えて通じるものと考えています。

 記者 両陛下の外国御訪問は政府が決めるものですが、御自身として行ってみたい国、興味がある地域はおありですか。

 天皇陛下 ないわけではありませんが、口にすべきこととは思いません。

 皇后陛下 私も同じです。

 記者 北京、西安、上海と各地で歓迎を受けられ、また、各地で学者、文化人、学生、幼稚園児ら各界、各層の人々と接する機会が多くありましたが、特に印象深い思い出はおありですか。

 天皇陛下 日本と中国の間には永きにわたるさまざまな関係があったわけですが、そのような中で友好関係の増進に尽くした多くの人々によって、現在の友好関係が築かれてきたことへの思いを深くしました。

 皇后陛下 各地で受けた子供たちのかわいい歓迎と、日中の関係を長く心にかけてきた人々との出会いが心に残りました。

 記者 両陛下は、各地で日中交流の永い歴史を示すような史跡や文化財を多く御覧になりました。どのように感じられましたか。

 天皇陛下 日本は古くから中国の文物を取り入れてきましたが、日本が正倉院をはじめとしてそれを保存してきたということに、改めて思いを致しています。恵まれた日本の歴史と平和の重要性を感じています。

 皇后陛下 日本文化、とりわけ古代文化が中国から受けた大きな影響を思うとともに、文化移入の折に行われた取捨選択を通し、日本文化の特性を考えてみるのも面白いのではないかと感じました。