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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 漁業に関する日本国と中華人民共和国との間の協定(中国との漁業協定,日中漁業協定)(1997年11月11日)

[場所] 
[年月日] 1997年11月11日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

漁業に関する日本国と中華人民共和国との間の協定

(略称)中国との漁業協定


平成 九年十一月十一日 東京で署名

平成 十年 四月三十日 国会承認

平成 十二年三月三十一日 効力発生のための公文の交換の閣議決定

平成 十二年三月三十一日 北京で効力発生のための公文の交換

平成 十二年四月五日 公布及び告示

           (条約第二号及び外務省告示第一五七号)

平成 十二年六月一日 効力発生


  漁業に関する日本国と中華人民共和国との間の協定


 日本国政府及び中華人民共和国政府は、

 千九百七十二年九月二十九日に発出された日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明を想起し、

 千九百七十五年八月十五日に署名された日本国と中華人民共和国との間の漁業に関する協定に基づく関係を含む漁業の分野における伝統的な協力関係を考慮し、

 千九百八十二年十二月十日に作成された海洋法に関する国際連合条約の趣旨に沿った新しい漁業秩序を両国の間に確立し、共に関心を有する海洋生物資源を保存し及び合理的に利用し並びに海上における正常な操業の秩序を維持するため、

 友好的な協議を経て、

 次のとおり協定した。


   第一条

 この協定が適用される水域(以下「協定水域」という。)は、日本国の排他的経済水域及び中華人民共和国の排他的経済水域とする。


   第二条

1 各締約国は、相互利益の原則に立って、この協定及び自国の関係法令に従い、自国の排他的経済水域において他方の締約国の国民及び漁船が漁獲を行うことを許可する。

2 各締約国の権限のある当局は、この協定の附属書Iの規定に基づき、他方の締約国の国民及び漁船に対し入漁に関する許可証を発給する。当該権限のある当局は、許可証の発給に関し妥当な料金を徴収することができる。

3 各締約国の国民及び漁船は、他方の締約国の排他的経済水域において、この協定及び当該他方の締約国の関係法令に従って漁獲を行う。


   第三条

 各締約国は、自国の排他的経済水域における資源状況、自国の漁獲能力、伝統的な漁業活動及び相互入会いの状況その他の関連する要因を考慮し、自国の排他的経済水域における他方の締約国の国民及び漁船の漁獲が認められる魚種、漁獲割当量、操業区域その他の操業の条件を毎年決定する。この決定は、第十一条の規定に基づいて設置される日中漁業共同委員会における協議の結果を尊重して行われる


   第四条

1 各締約国は、自国の国民及び漁船が他方の締約国の排他的経済水域において漁獲を行うときは、この協定の規定及び他方の締約国の関係法令に定める海洋生物資源の保存措置その他の条件を遵守することを確保するために必要な措置をとる。

2 各締約国は、他方の締約国に対し、自国の関係法令に定める海洋生物資源の保存措置その他の条件につき、遅滞なく通報を行う。


   第五条

1 各締約国は、自国の関係法令に定める海洋生物資源の保存措置その他の条件を他方の締約国の国民及び漁船が厳守することを確保するために、国際法に従い、自国の排他的経済水域において、必要な措置をとることができる。

2  拿捕又は抑留された漁船及びその乗組員は、適当な担保又はその他の保証の提供の後に速やかに釈放される。

3 各締約国の権限のある当局は、他方の締約国の漁船及びその乗組員を拿捕し又は抑留した場合には、とられた措置及びその後科された罰について、適当な経路を通じて他力の締約国に速やかに通報する。


   第六条

 第二条から前条までの規定は、協定水域のうち次の(a)及び(b)の水域を除く部分について適用する。

 (a)第七条1に定める水域

 (b)北緯二十七度以南の東海の協定水域及び東海より南の東経百二十五度三十分以西の協定水域(南海における中華人民共和国の排他的経済水域除く。)


   第七条

1 次に掲げる各点を順次に直線で結ぶ線によって囲まれる水域(以下「暫定措置水域」という。)においては、2及び3の規定を適用する。

 (a) 北緯三十度四十分、東経百二十四度十・一分の点

 (b) 北緯三十度、東経百二十三度五十六・四分の点

 (c) 北緯二十九度、東経百二十三度二十五・五分の点

 (d) 北緯二十八度、東経百二十二度四十七・九分の点

 (e) 北緯二十七度、東経百二十一度五十七・四分の点

 (f) 北緯二十七度、東経百二十五度五十八・三分の点

 (g) 北緯二十八度、東経百二十七度・一分の点

 (h) 北緯二十九度、東経百二十八度零・九分の点

 (i) 北緯三十度、東経百二十八度三十二・二分の点

 (j) 北緯三十度四十分、東経百二十八度二十六・一分の点

 (k) 北緯三十度四十分、東経百二十四度十・一分の点

2 両締約国は、第十一条の規定に基づいて設置される日中漁業共同委員会における決定に従い、暫定措置水域において、各締約国の伝統的な漁業活動への影響を考慮しつつ、海洋生物資源の維持が過度の開発によって脅かされないことを確保するため、適当な保存措置及び量的な管理措置をとる。

3 各締約国は、暫定措置水域において漁獲を行う自国の国民及び漁船に対し、取締りその他の必要な措置をとる。各締約国は、当該水域において漁獲を行う他方の締約国の国民及び漁船に対し、取締りその他の措置をとらない。ただし、一方の締約国は、他方の締約国の国民及び漁船が第十一条の規定に基づいて設置される日中漁業共同委員会が決定する操業についての規制に違反していることを発見した場合には、その事実につき当該国民及び漁船の注意を喚起するとともに、当該他方の締約国に対し、その事実及び関連する状況を通報することができる。当該他方の締約国は、その通報を尊重して必要な措置をとった後、その結果を当該一方の締約国に対して通報する。


   第八条

各締約国は、自国の国民及び漁船に対し、航行及び操業の安全の確保、海上における正常な操業の秩序の維持並びに海上における事故の円滑かつ迅速な処理のため、指導その他の必要な措置をとる。

   第九条

1 いずれか一方の締約国の国民及び漁船が他方の締約国の沿岸において海難その他の緊急事態に遭遇した場合には、他方の締約国は、できる限りの援助及び保護を与えるとともに、当該一方の締約国の関係当局にこれらに関する状況を速やかに通報する。

2 いずれか一方の締約国の国民及び漁船は、荒天その他の緊急事態のため避難する必要がある場合には、この協定の附属書IIの規定に従って他方の締約国の関係当局に連絡した後、当該他方の締約国の港等に避難することができる。この場合において、当該国民及び漁船は、当該他方の締約国の関係法令及び関係当局の指示に従わなければならない。


   第十条

 両締約国は、漁業に関する科学的研究及び海洋生物資源の保存のための協力を行う。


   第十一条

 両締約国は、この協定の目的を達成するため、日中漁業共同委員会(以下「漁業委員会」という。)を設置する。漁業委員会は、両締約国の政府が任命するそれぞれ二人の委員で構成する。

2 漁業委員会の任務は、次のとおりとする。

 (1) 第三条の規定に関する事項及び第六条(b)の水域に関する事項について協議し、各締約国の政府に勧告する。これらの協議を行う事項には、次のものが含まれる。

  (a) 第三条に規定する他方の締約国の国民及び漁船の漁獲が認められる魚種、漁獲割当量その他の具体的な操業の条件に関する事項

  (b) 操業の秩序の維持に関する事項

  (c) 海洋生物資源の状況及び保存に関する事項

  (d) 両締約国間の漁業についての協力に関する事項

 (2) 第七条の規定に関する事項について協議し、決定する。

 (3) 必要に応じ、この協定の附属書の修正に関し、両締約国の政府に勧告する。

 (4) この協定の実施状況その他のこの協定に関する事項について検討する。

3 漁業委員会のすべての勧告及び決定は、双方の委員の合意によってのみ行う。

4 両締約国の政府は、2(1)の勧告を尊重し及び2(2)の決定に従って必要な措置をとる。

5 漁業員会は、毎年一回、日本国又は中華人民共和国で交互に会合する。漁業委員会は、必要に応じ、両締約国の間の合意により臨時に会合することができる。


   第十二条 

 この協定のいかなる規定も、海洋法に関する諸問題についての両締約国のそれぞれの立場を害するのとみなしてはならない。


   第十三条

1 この協定の附属書(2の規定に従って修正された後の附属書を含む。)は、この協定の不可分の一部を構成する。

2 両締約国の政府は、文書による合意により、この協定の附属書を修正することができる。


   第十四条

1 この協定は、その効力発生のために国内法上必要とされる手続がそれぞれの国において完了した後、両締約国の政府の間の公文の交換によって合意される日に効力を生ずる。この協定は、五年間効力を有する。その後は、2の規定に従ってこの協定が終了するまで効力を有する。

2 いずれの一方の締約国も、他方の締約国に対し、六箇月前に文書による予告を行えることにより、最初の五年の期間の満了の際又はその後いつでもこの協定を終了させることができる。

3 千九百七十五年八月十五日に署名された日本国と中華人民共和国との間の漁業に関する協定は、この協定の効力発生の日に効力を失う。


 千九百九十七年十一月十一日に東京で、ひとしく正文である日本語及び中国語により本書二通を作成した。


 日本国政府のために

  小渕恵三

 中華人民共和国政府のために

  徐敦信




附属書 I


 各締約国は、この協定の第二条2の規定に基づき、許可に関する次の措置をとる。

1 各締約国の権限のある当局は、他方の締約国の権限のある当局からこの協定の第三条に規定する決定についての書面による通報を受領した後、当該他方の締約国の権限のある当局に対し、当該他方の締約国の排他的経済水域において漁獲を行うことを希望する自国の国民及び漁船に対する許可証の発給のための申請を行う。当該他方の締約国の権限のある当局は、この協定及び自国の関係法令に従って、この許可証の発給を行う。

2 各締約国の権限のある島は、他方の締約国の権限のある当局に対し、入漁に関する手続規則(許可証の申請及び発給、漁獲に関する情報の提出、漁船の標識並びに操業日誌の記載に関する手続規則を含む。) を書面により通報する。

3 許可を受けた漁船は、許可証を操舵室の見やすい場所に掲示し、他方の締約国の定める漁船の標識を明確に表示しなければならない。



附属書 II


 この協定の第九条2の規定の実施に関しては、次に定めるところによる。

1 日本国政府が指定する連絡先は、避難する港等を管轄する海上保安庁の各管区海上保安本部とする。中華人民共和国政府が指定する連絡先は、関係港を管轄する港務監督部門とする。

2 具体的な連絡方法については、この協定の第十一条の規定に基づいて設置される日中漁業共同委員会において相互に通報する。

3 一方の締約国の漁船が他方の締約国の指定する連絡先に連絡する内容は次のとおりとする。

船名、識別信号、現在位置(緯度、経度)、船籍港、総トン数及び全長、船長の氏名、乗組員数、避難の理由、避難を求める目的地、到着予定時刻並びに通信連絡の方法



合意された議事録


 日本国政府代表及び中華人民共和国政府代表は、本日署名された漁業に関する日本国と中華人民共和国との間の協定(以下「協定」という。)の関係条項に関連し、次の事項を記録することに合意した。

1 両政府は、両国の排他的経済水域及び大陸棚の境界画定に関する協議を誠実に継続し、双方に受入れ可能な合意が得られるよう努めることを表明した。また、両政府は、協定第七条1に規定する暫定措置水域の設定に関し、双方の排他的経済水域及び大陸棚の境界画定に関する立場を損なうものとみなしてはならないことを表明した。

2 両政府は、両国の伝統的かつ協力的な漁業関係にかんがみ、協定の実施及び第三国との漁業関係の構築に際し、双方が協定第七条1に規定する水域の北側の境界線以北の東海の一部水域において現有の漁業活動を尊重し、他方の国の伝統的操業及び当該水域の資源状況に配慮し、当該他方の国の当該水域における漁業の利益が不当に損なわれることのないようにする意向を表明した。

 千九百九十七年十一月十一日に東京で


 日本国政府のために

  小渕恵三

 中華人民共和国政府のために

  徐敦信



(漁業に関する日本国と中華人民共和国との間の協定第六条(b)の水域に関する書簡)


   (日本側書簡)

 本大臣は、本日署名された漁業に関する日本国と中華人民共和国との間の協定に言及するとともに、次のとおり申し述べる光栄を有します。

 日本国政府は、日中両国が同協定第六条(b)の水域における海洋生物資源の維持が過度の開発によって脅かされないことを確保するため協力関係にあることを前提として、中国国民に対して、当該水域において、漁業に関する自国の関係法令を適用しないとの意向を有している。

 本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに閣下に向かって敬意を表します。

  千九百九十七年十月十一日に東京で


       日本国外務大臣 小渕恵三

 日本国駐在中華人民共和国

  特命全權大使 徐教信閣下



   (中国側書簡)

(訳文)

 本使は、本母署名された漁業に関する日本国と中華人民共和国との間の協定に言及するとともに、次のとおり申し述べる光栄を有します。

 中華人民共和国政府は、日中両国が同協定第六条(b)の水域における海洋生物資源の維持が過度の開発によって脅かされないことを確保するため協力関係にあることを前提として、日本国民に対して、当該水域において、漁業に関する自国の関係法令を適用しないとの意向を有している。

 本使は、以上を申し進めるに際し、ここに閣下に向かって敬意を表します。

  千九四九十七年十一月十一日に東京で

     日本国駐中華人民共和国

      特命全權大使 徐敦信

 日本国外務大臣 小渕恵三閣下



   (中国のいか釣りの実績に関する日本側番簡)

 本大臣は、本日署名された漁業に関する日本国と中華人民共和国との間の協定に言及するとともに、次のとおり申し述べる光栄を有します。

1 同協定第三条の規定に基づき、中華人民共和国政府は、協定の発効後五年の間、中国のいか釣り漁船が日本海及び北太平洋の日本国の排他的経済水域において操業ができること、入漁費用が免除されること並びに操業隻数及び漁獲量は千九百九十六年の実際の数量を超えないものとされるべきことを要望した。

2 日本国政府は、中国側の要望に留意するとともに、これを原則的に受け入れ、当該水域における漁業資源の状況を踏まえつつ、同協定第十一条の規定に基づいて設置される日中漁業共同委員会において具体的実施方法につき協議し及び確定する意向である。

 本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに閣下に向かって敬意を表します。

  千九百九十七年十一月十一日に東京で


     日本国外務大臣 小渕恵三

 日本国駐在中華人民共和国

  特命全權大使 徐敦信閣下


 (参考)

 この協定は、日中両国について平成八年に発効した国連海洋法条約の趣旨を踏まえ、原則として沿岸国が自国の排他的経済水域において海洋生物資源の管理を行うことを基本とする新たな漁業秩序を日中間に確立するため締結したものであり、昭和五十年八月十五日に署名された中国との漁業協定(昭和五十年二国間条約集及び条約集第二五一四号参照)に代わるものである。