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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本と中国両国の21世紀に向けた協力強化に関する共同プレス発表

[場所] 東京
[年月日] 1998年11月26日
[出典] 外交青書42号,353−356頁.
[備考] 
[全文]

 日中両国は、江沢民中華人民共和国主席の日本国への公式訪問の期間中、21世紀に向け協力を強化し、両国が平和と発展のための友好協力パートナーシップを積極的に推進することにつき共通認識に達し、次のプレス発表を行う。

1.二国間関係における協力

 双方は、両国間のハイレベル対話を強化するために、毎年交互に両国の指導者が相手国を訪問し、両政府間にホットラインを設置することを確認した。

 双方は、両国の経済関係が相互補完と平等及び互恵の基礎の上に大きく発展してきたことに留意し、引き続き貿易、投資等経済分野での両国の協力関係を拡充することで意見の一致をみた。

 中国側は、中国に投資する日系企業が中国経済の発展に果たす積極的な役割に留意し、日系企業の一層の対中国投資を促進するために努力したい旨表明した。日本側は、これを歓迎し、日中間の投資分野での協力の更なる発展を促進するために努力する旨表明した。

 日本側は、第4次対中円借款「後2年」分として、28案件のため3,900億円を目途とする円借款を供与することとした。中国側は、これを高く評価した。

 双方は、21世紀に向け、科学技術・産業技術の分野での協力と交流を拡充することは有益であると認識し、この分野における官民双方の協力を強化し、両国の産業会{前1文字ママ}が研究協力と技術移転を進展させることを支持することで意見の一致をみた。

 双方は、官民が協力して両国の産業界の中国の内陸部地域での経済開発に関する協力を積極的に推進することで意見の一致をみた。日本側は、政府及び産業界の密接な連携の下、この地域での産業協力を進めていく旨表明した。中国側は、インフラの整備、投資環境の改善等の面で積極的な努力を払っていく旨表明した。

 日本側は、中国の国有企業改革、中小企業振興及び流通システム合理化等に対して人材育成の面で協力する用意がある旨表明した。日本側は中小企業振興に係る施策、人的資源及び経験等を活用し、中国の中小企業発展に対して一連の協力を積極的に実施する用意がある旨表明した。中国側は、これを歓迎した。双方は、今後具体的な協力について検討を進めていく。

 日本側は、北京・上海高速鉄道について、技術面、運営面、資金面での積極的な協力を行いたい旨を改めて表明した。中国側は、北京・上海高速鉄道のプロジェクトの準備状況に基づき、日本が競争に参加することを歓迎する旨表明した。

 双方は、環境保護問題の重要性と両国の現在までのこの分野での協力の成果を改めて確認し、「日本国政府及び中華人民共和国政府による21世紀に向けた環境協力に関する共同発表」に基づき、この分野での協力を更に強化することで意見の一致をみた。

 双方は、21世紀におけるエネルギー問題の重要性を認識し、今後、発電所の建設等のエネルギー・インフラ整備促進、省エネルギー政策・対策及びクリーン・エネルギーの開発利用等の分野での協力を更に促進することで意見の一致をみた。両政府は、両国の産業界及び学術機構がエネルギー及びそれに関連する分野での共同研究を進めることを支持していく。

 双方は、農業分野、特に持続可能な農業技術で引き続き協力を強化していく。

 双方は、洪水被害の復旧及び洪水災害予防のための対策の重要性を認識し、早急に具体的な協力の進め方及び内容につき検討を進めていくことで意見の一致をみた。

 この関連で、双方は、植林造林・森林保全等の分野での官民双方による具体的な協力内容を早急に検討し、推進していくことで意見の一致をみた。

 双方は、日中青年交流が両国の相互理解及び両国関係の発展に果たす重要な役割を十分認識し積極的に評価し、「青少年交流の一層の発展のための日本国政府と中華人民共和国政府との間の枠組みに関する協力計画」の署名がこの交流の不断の深化と発展のために有益であることを認識した。双方は、1999年から2003年までに1万5千人規模の青年の相互訪問・交流の実現に向けて努力することで意見の一致をみた。

 双方は、両国の知的分野での交流を強化することが、両国の交流の質を高め、裾野を広げる上で積極的な意義を有していると考える。両政府は、民間におけるこのような活動に対し支援し協力していく。

 双方は、文化面での交流が両国国民の間の相互理解を深める上で重要な役割を果たしていることを認識し、これを一層推進していくことで意見の一致をみた。双方は、1999年に中国において「1999日中文化友好年」を実施することを検討し、日本において「日中文化協定締結20周年・中華人民共和国50周年記念中国映画名作特集1999」を実施することを計画している。

 日本側は、日中間の人的往来の拡大の観点から、中国人団体観光旅行の受入れを開始する用意がある旨表明し、中国側は、これを歓迎した。

 双方は、近年における二国間安保対話及びARF等の多国間の協力の進展を積極的に評価する。今後、防衛・国防大臣間の相互訪問を含め、この分野での交流を漸進的に拡充すること、艦艇の相互訪問について引き続き調整を進めることを確認した。

 日本側は、化学兵器禁止条約に基づき、中国における日本の遺棄化学兵器の問題に誠実に取り組み、責任をもって可能な限り早期に実際的措置をとってこれらの遺棄化学兵器を廃棄していくことを改めて表明した。中国側は、化学兵器禁止条約に基づき適切な協力を行うことを表明した。

 双方は、本年8月に両国が俳他的経済水域{前7文字ママ}、大陸棚の境界画定等海洋法に関連する問題について協議を開始したことを歓迎し、かつ、次回協議を明年早期に開催することで意見の一致をみた。

 双方は、海洋法に関する国際連合条約を踏まえ、新しい漁業秩序を両国間に確立し、共に関心を有する海洋生物資源を保存し及び合理的に利用し並びに海上における正常な操業の秩序の維持を目的とする日中漁業協定をできるだけ早期に発効させ、これに基づき秩序ある操業を行うことにつき意見の一致をみた。

 双方は、責任を有する漁業国として、国際的な漁業の分野において協力を行うことで意見の一致をみた。

 双方は、ユーラシア大陸に広がるシルクロード文化遺跡を保存することが、人類共通の遺産の保護として重要であることで一致した。双方は、その遺跡保護につき協力し、具体的な保護事業を行うことについて意見の一致をみた。

 双方は、次世代の情報通信技術の発展を促進することは、両国の社会経済発展に対して多大なインパクトを与えるものであるとの認識を共有した。双方は、マルチメディア技術の応用等情報通信分野での協力を強化するとともに、情報システムのモデル・プロジェクトを共同で研究・開発することで意見の一致をみた。

 双方は、稀少で絶滅の危機に瀕している鳥類トキの保護のために協力を引き続き進めることで意見の一致をみた。このため、中国側は、日中友好の証として、一対のトキを日本側に贈り、日本側はこれに感謝の意を表した。

2.国際分野における協力

 双方は、国連が来世紀に一層効果的な役割を果たすためには、国連の改革が必要であるとの認識を共有した。双方は、安保理改革、財政改革、開発分野の改革等を含む国連改革の実現に向け、協議を強化することで意見の一致をみた。

 双方は、地域問題につき協調と協力を強化し、地域の平和と安定のために積極的な役割を果たすことで意見の一致をみた。両国は、朝鮮半島の平和と安定を維持することは、アジア太平洋地域の平和と安定にとり極めて重要であると認識し、関係各方面がこのために積極的な努力を払うことを支持する。

 双方は、人権の普遍性を確認し、各国は相互交流を通じて共通認識を増進し、相違点を減らすべきであるとの認識で一致した。双方は、日中人権協議を積極的に評価し、平等と相互尊重の基礎の上に、人権問題について引き続き意見を交換していくこととした。

 双方は、「核兵器不拡散条約」、「生物兵器禁止条約」及び「化学兵器禁止条約」の締約国として、これらの条約により負っている義務を遵守し続けていくこと、大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散防止並びに関連する国際協力に尽力することを確認した。

 双方は、多角的貿易体制の重要性を確認した。中国側は、WTOへの早期加盟に向けて引き続き努力していくことを重ねて表明した。日本側は、これに対し引き続き支持し協力していくことを表明した。

 双方は、本年9月に実施された東アジア経済問題に関するハイレベル協議が有益であったことを確認し、今後、必要に応じ引き続き同様の協議を行っていくことで意見の一致をみた。

 双方は、東アジアから中央アジアを経て欧州を結ぶユーラシア・ランド・ブリッジ構想が、ユーラシア大陸全体の平和と安定に対し積極的な意義を有すると考える。双方は、東アジアから中央アジアに至る交通・物流の整備を進めていくことの重要性を認識し、今後、この分野での協力を進めていくことで意見の一致をみた。

 双方は、銃器、密航、マネー・ローンダリング、金融経済犯罪、ハイテク犯罪等の各種の国際犯罪対策の面で協力を強化することで意見の一致をみ、かつ、必要に応じてこれにつき関係部門間の協議及び人的交流を強化することで一致した。

 双方は、薬物犯罪の取締りにつき引き続き協力し、国際的な薬物禁止のための協力に積極的に参加し、国際的な薬物禁止の分野で積極的な役割を果たしていくことで意見の一致をみた。