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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府と中華人民共和国香港特別行政区政府との間の協定

[場所] 
[年月日] 2010年11月9日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

 日本国政府及び中華人民共和国香港特別行政区政府は、

 所得に対する租税に関し、二重課税を回避し、及び脱税を防止するための協定を締結することを希望して、

 次のとおり協定した。

   第一条 対象となる者

 この協定は、一方又は双方の締約者の居住者である者に適用する。

   第二条 対象となる租税

1 この協定は、一方の締約者又は一方の締約者の地方政府若しくは地方公共団体のために課される所得に対する租税 (課税方法のいかんを問わない。)について適用する。

2 総所得又は所得の要素に対するすべての租税(財産の譲渡から生ずる収益に対する租税、企業が支払う賃金又は給料の総額に対する租税及び資産の価値の上昇に対する租税を含む。)は、所得に対する租税とされる。

3 この協定が適用される現行の租税は、次のものとする。

 (a) 香港特別行政区については、

  (i)利得税

  (ii)給与税

  (iii)不動産税

   (個人申告制度に基づいて課されるか否かを問わない。)

 (b) 日本国については、

  (i)所得税

  (ii)法人税

  (iii)住民税

4 この協定は、3に掲げる現行の租税に加えて又はこれに代わってこの協定の署名の日の後に課される租税であって、3に掲げる現行の租税と同一であるもの又は実質的に類似するもの並びに1及び2に規定する他の租税で将来課されるものについても、適用する。両締約者の権限のある当局は、各締約者の租税に関する法令について行われた重要な改正を相互に通知する。

5 この協定の適用上、「日本国の租税」及び「香港特別行政区の租税」とは、それぞれ日本国のために課される租税及び香港特別行政区のために課される租税であって、1から4までに規定するものをいい、それぞれの締約者の地方政府又は地方公共団体のために課される1から4までに規定する租税を含む。

   第三条 一般的定義

1 この協定の適用上、文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、

 (a)「香港特別行政区」とは、地理的意味で用いる場合には、中華人民共和国香港特別行政区の境界の内側を構成する陸地及び水域(香港島、九龍、新界及び香港の水域を含む。)並びに中華人民共和国香港特別行政区の租税に関する法令が適用される他の地域をいう。

 (b)「日本国」とは、地理的意味で用いる場合には、日本国の租税に関する法令が施行されているすべての領域(領海を含む。)及びその領域の外側に位置する区域であって、日本国が国際法に基づき主権的権利を有し、かつ、日本国の租税に関する法令が施行されているすべての区域(海底及びその下を含む。)をいう。

 (c)「一方の締約者」及び「他方の締約者」とは、文脈により、日本国又は香港特別行政区をいう。

 (d)「租税」とは、文脈により、日本国の租税又は香港特別行政区の租税をいう。

 (e)「者」には、個人、法人及び法人以外の団体を含む。

 (f)「法人」とは、法人格を有する団体又は租税に関し法人格を有する団体として取り扱われる団体をいう。

 (g)「企業」は、あらゆる事業の遂行について用いる。

 (h)「一方の締約者の企業」及び「他方の締約者の企業」とは、それぞれ一方の締約者の居住者が営む企業及び他方の締約者の居住者が営む企業をいう。

 (i)「国際運輸」とは、一方の締約者の企業が運用する船舶又は航空機による運送(他方の締約者内の地点の間においてのみ運用される船舶又は航空機による運送を除く。)をいう。

 (j)「国民」とは、日本国については、日本国の国籍を有するすべての個人、日本国の法令に基づいて設立され、又は組織されたすべての法人及び法人格を有しないが日本国の租税に関し日本国の法令に基づいて設立され、又は組織された法人として取り扱われるすべての団体をいう。

 (k)「権限のある当局」とは、次の者をいう。

  (i)香港特別行政区については、税務局長又は権限を与えられたその代理者

  (ii)日本国については、財務大臣又は権限を与えられたその代理者

  (1)「事業」には、自由職業その他の独立の性格を有する活動を含む。

2 一方の締約者によるこの協定の適用に際しては、この協定において定義されていない用語は、文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、この協定の適用を受ける租税に関する当該一方の締約者の法令において当該用語がその適用の時点で有する意義を有するものとする。当該一方の締約者において適用される租税に関する法令における当該用語の意義は、当該一方の締約者の他の法令における当該用語の意義に優先するものとする。

   第四条 居住者

1 この協定の適用上、「一方の締約者の居住者」とは、次の者をいう。

 (a) 香港特別行政区については、

  (i)香港特別行政区内に通常居住する個人(当該個人が、香港特別行政区内に実質的に所在し、又は恒久的住居若しくは常用の住居を有し、かつ、香港特別行政区に人的及び経済的関係を有する場合に限る。)

  (ii)香港特別行政区内に一賦課年度中に百八十日を超えて滞在し、又は連続する二賦課年度において三百日を超えて滞在する個人(当該個人が、香港特別行政区に人的及び経済的関係を有する場合に限る。)

  (iii)香港特別行政区内に事業の管理及び支配の主たる場所を有する法人

  (iv)香港特別行政区内に事業の管理及び支配の主たる場所を有するその他の者

 (b)日本国については、日本国の法令の下において、住所、居所、本店又は主たる事務所の所在地その他これらに類する基準により日本国において課税を受けるべきものとされる者(日本国内に源泉のある所得のみについて日本国において租税を課される者を除く。)

 (c)一方の締約者の政府及び一方の締約者の地方政府又は地方公共団体

2 1の規定により双方の締約者の居住者に該当する個人については、次のとおりその地位を決定する。

 (a) 当該個人は、その使用する恒久的住居が所在する締約者の居住者とみなす。その使用する恒久的住居を双方の締約者内に有する場合には、当該個人は、その人的及び経済的関係がより密接な締約者(重要な利害関係の中心がある締約者)の居住者とみなす。

 (b)その重要な利害関係の中心がある締約者を決定することができない場合又はその使用する恒久的住居をいずれの締約者内にも有しない場合には、当該個人は、その有する常用の住居が所在する締約者の居住者とみなす。

 (c)その常用の住居を双方の締約者内に有する場合又はこれをいずれの締約者内にも有しない場合には、両締約者の権限のある当局は、合意により当該事案を解決する。

3 1の規定により双方の締約者の居住者に該当する者で個人以外のものについては、両締約者の権限のある当局は、合意により、この協定の適用上その者が居住者とみなされる締約者を決定する。両締約者の権限のある当局による合意がない場合には、その者は、この協定により認められる特典(第二十三条及び第二十四条の規定により認められる特典を除く。)を要求する上で、いずれの締約者の居住者ともされない。

   第五条 恒久的施設

1 この協定の適用上、「恒久的施設」とは、事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っているものをいう。

2 「恒久的施設」には、特に、次のものを含む。

 (a)事業の管理の場所

 (b)支店

 (c)事務所

 (d)工場

 (e)作業場

 (f)鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場その他天然資源を採取する場所

3 建築工事現場又は建設若しくは据付けの工事については、これらの工事現場又は工事が十二箇月を超える期間存続する場合には、恒久的施設を構成するものとする。

4 1から3までの規定にかかわらず、次のことを行う場合は、「恒久的施設」に当たらないものとする。

 (a) 企業に属する物品又は商品の保管、展示又は引渡しのためにのみ施設を使用すること。

 (b) 企業に属する物品又は商品の在庫を保管、展示又は引渡しのためにのみ保有すること。

 (c) 企業に属する物品又は商品の在庫を他の企業による加工のためにのみ保有すること。

 (d) 企業のために物品若しくは商品を購入し、又は情報を収集することのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。

 (e) 企業のためにその他の準備的又は補助的な性格の活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。

 (f) (a)から(e)までに規定する活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。ただし、当該一定の場所におけるこのような組合せによる活動の全体が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。

5 1及び2の規定にかかわらず、企業に代わって行動する者(6の規定が適用される独立の地位を有する代理人を除く。)が、一方の締約者内で、当該企業の名において契約を締結する権限を有し、かつ、この権限を反復して行使する場合には、当該企業は、その者が当該企業のために行うすべての活動について、当該一方の締約者内に恒久的施設を有するものとされる。ただし、その者の活動が4に規定する活動(事業を行う一定の場所で行われたとしても、4の規定により当該一定の場所が恒久的施設であるものとされないようなもの)のみである場合は、この限りでない。

6 企業は、通常の方法でその業務を行う仲立人、問屋その他の独立の地位を有する代理人を通じて一方の締約者内で事業を行っているという理由のみによっては、当該一方の締約者内に恒久的施設を有するものとはされない。

7 一方の締約者の居住者である法人が、他方の締約者の居住者である法人若しくは他方の締約者内において事業(恒久的施設を通じて行われるものであるか否かを問わない。)を行う法人を支配し、又はこれらに支配されているという事実のみによっては、いずれの一方の法人も、他方の法人の恒久的施設とはされない。

   第六条 不動産所得

1 一方の締約者の居住者が他方の締約者内に存在する不動産から取得する所得(農業又は林業から生ずる所得を含む。)に対しては、当該他方の締約者において租税を課することができる。

2 「不動産」とは、当該財産が存在する締約者の法令における不動産の意義を有するものとする。「不動産」には、いかなる場合にも、不動産に附属する財産、農業又は林業に用いられる家畜類及び設備、不動産に関する一般法の規定の適用がある権利、不動産用益権並びに鉱石、岩石、水その他の天然資源の採取又は採取の権利の対価として料金(変動制であるか固定制であるかを問わない。)を受領する権利を含む。船舶及び航空機は、不動産とはみなさない。

3 2に規定する財産又は権利は、土地、立木、鉱石、岩石、水その他の天然資源が存在する場所又はこれらの天然資源の採取が行われる場所に存在するものとする。

4 1の規定は、不動産の直接使用、賃貸その他のすべての形式による使用から生ずる所得について適用する。

5 1及び4の規定は、企業の不動産から生ずる所得についても、適用する。

   第七条 事業利得

1 一方の締約者の企業の利得に対しては、その企業が他方の締約者内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約者内において事業を行わない限り、当該一方の締約者においてのみ租税を課することができる。一方の締約者の企業が他方の締約者内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約者内において事業を行う場合には、その企業の利得のうち当該恒久的施設に帰せられる部分に対してのみ、当該他方の締約者において租税を課することができる。

2 3の規定に従うことを条件として、一方の締約者の企業が他方の締約者内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約者内において事業を行う場合には、当該恒久的施設が、同一又は類似の条件で同一又は類似の活動を行う別個のかつ分離した企業であって、当該恒久的施設を有する企業と全く独立の立場で取引を行うものであるとしたならば当該恒久的施設が取得したとみられる利得が、各締約者において当該恒久的施設に帰せられるものとする。

3 恒久的施設の利得を決定するに当たっては、経営費及び一般管理費を含む費用であって当該恒久的施設のために生じたものは、当該恒久的施設が存在する締約者内において生じたものであるか他の場所において生じたものであるかを問わず、控除することを認められる。

4 2の規定は、恒久的施設に帰せられるべき利得を企業の利得の総額の当該企業の各構成部分への配分によって決定する慣行が一方の締約者にある場合には、租税を課されるべき利得をその慣行とされている配分の方法によって当該一方の締約者が決定することを妨げるものではない。ただし、用いられる配分の方法は、当該配分の方法によって得た結果がこの条に定める原則に適合するようなものでなければならない。

5 恒久的施設が企業のために物品又は商品の単なる購入を行ったことを理由としては、いかなる利得も、当該恒久的施設に帰せられることはない。

6 1から5までの規定の適用上、恒久的施設に帰せられる利得は、毎年同一の方法によって決定する。ただし、別の方法を用いることにつき正当な理由がある場合は、この限りでない。

7 他の条で別個に取り扱われている所得が企業の利得に含まれる場合には、当該他の条の規定は、この条の規定によって影響されることはない。

   第八条 国際運輸

1 一方の締約者の企業が船舶又は航空機を国際運輸に運用することによって取得する利得に対しては、当該一方の締約者においてのみ租税を課することができる。

2 第二条の規定にかかわらず、一方の締約者の企業は、船舶又は航空機を国際運輸に運用する場合において、香港特別行政区の企業であるときは日本国の事業税、日本国の企業であるときは日本国の事業税に類似する税で香港特別行政区において今後課されることのあるものを免除される。

3 1及び2の規定は、共同計算、共同経営又は国際経営共同体に参加していることによって取得する利得についても、適用する。

   第九条 関連企業

1 次の(a)又は(b)の規定に該当する場合であって、そのいずれの場合においても、商業上又は資金上の関係において、双方の企業の間に、独立の企業の間に設けられる条件と異なる条件が設けられ、又は課されているときは、その条件がないとしたならば一方の企業の利得となったとみられる利得であってその条件のために当該一方の企業の利得とならなかったものに対しては、これを当該一方の企業の利得に算入して租税を課することができる。

 (a) 一方の締約者の企業が他方の締約者の企業の経営、支配又は資本に直接又は間接に参加している場合

 (b) 同一の者が一方の締約者の企業及び他方の締約者の企業の経営、支配又は資本に直接又は間接に参加している場合

2 一方の締約者が、他方の締約者において租税を課された当該他方の締約者の企業の利得を1の規定により当該一方の締約者の企業の利得に算入して租税を課する場合において、両締約者の権限のある当局が、協議の上、その算入された利得の全部又は一部が、双方の企業の間に設けられた条件が独立の企業の間に 設けられたであろう条件であったとしたならば当該一方の締約者の企業の利得となったとみられる利得であることに合意するときは、当該他方の締約者は、その合意された利得に対して当該他方の締約者において課された租税の額について適当な調整を行う。この調整に当たっては、この協定の他の規定に妥当な考慮を払う。

3 1の規定にかかわらず、締約者は、1に規定する条件がないとしたならば当該締約者の企業の利得として更正の対象となったとみられる利得に係る課税年度の終了時から七年を経過した後は、1に規定する状況においても、当該締約者の当該企業の当該利得の更正をしてはならない。この3の規定は、不正に租税を免れた利得については、適用しない。

   第十条 配当

1 一方の締約者の居住者である法人が他方の締約者の居住者に支払う配当に対しては、当該他方の締約者において租税を課することができる。

2 1に規定する配当に対しては、これを支払う法人が居住者とされる一方の締約者においても、当該一方の締約者の法令に従って租税を課することができる。その租税の額は、当該配当の受益者が他方の締約者の居住者である場合には、次の額を超えないものとする。

 (a)当該配当の受益者が、当該配当の支払を受ける者が特定される日をその末日とする六箇月の期間を通じ、当該配当を支払う法人の議決権のある株式の十パーセント以上を直接又は間接に所有する法人である場合には、当該配当の額の五パーセント

 (b)その他のすべての場合には、当該配当の額の十パーセント

この2の規定は、当該配当を支払う法人のその配当に充てられる利得に対する課税に影響を及ぼすものではない。

3 2(a)の規定は、日本国における課税所得の計算上受益者に対して支払う配当を控除することができる法人によって支払われる配当については、適用しない。

4 この条において、「配当」とは、株式その他利得の分配を受ける権利(信用に係る債権を除く。)から生ずる所得及びその分配を行う法人が居住者とされる締約者の租税に関する法令上株式から生ずる所得と同様に取り扱われる他の所得をいう。

5 1及び2の規定は、一方の締約者の居住者である配当の受益者が、当該配当を支払う法人が居住者とされる他方の締約者内において当該他方の締約者内にある恒久的施設を通じて事業を行う場合において、当該配当の支払の基因となった株式その他の持分が当該恒久的施設と実質的な関連を有するものであるときは、適用しない。この場合には、第七条の規定を適用する。

6 一方の締約者の居住者である法人が他方の締約者内から利得又は所得を取得する場合には、当該他方の締約者は、当該法人の支払う配当及び当該法人の留保所得については、これらの配当及び留保所得の全部又は一部が当該他方の締約者内において生じた利得又は所得から成るときにおいても、当該配当(当該他方の締約者の居住者に支払われる配当及び配当の支払の基因となった株式その他の持分が当該他方の締約者内にある恒久的施設と実質的な関連を有するものである場合の配当を除く。)に対していかなる租税も課することができず、また、当該留保所得に対して租税を課することができない。

   第十一条 利子

1 一方の締約者内において生じ、他方の締約者の居住者に支払われる利子に対しては、当該他方の締約者において租税を課することができる。

2 1に規定する利子に対しては、当該利子が生じた一方の締約者においても、当該一方の締約者の法令に従って租税を課することができる。その租税の額は、当該利子の受益者が他方の締約者の居住者である場合には、当該利子の額の十パーセントを超えないものとする。

3 2の規定にかかわらず、一方の締約者内において生ずる利子であって、次のいずれかの場合に該当するものについては、他方の締約者においてのみ租税を課することができる。

 (a)当該利子の受益者が、当該他方の締約者の政府、当該他方の締約者の地方政府若しくは地方公共団体、当該他方の締約者の中央銀行又は当該他方の締約者の政府が全面的に所有し、若しくは出資する機関である場合

 (b)当該利子の受益者が当該他方の締約者の居住者であって、当該利子が、当該他方の締約者の政府、当該他方の締約者の地方政府若しくは地方公共団体、当該他方の締約者の中央銀行又は当該他方の締約者の政府が全面的に所有し、若しくは出資する機関によって保証された債権、これらによって保険の引受けが行われた債権又はこれらによる間接融資に係る債権に関して支払われる場合

4 3の規定の適用上、「中央銀行」及び「政府が全面的に所有し、若しくは出資する機関」とは、次のものをいう。

 (a) 香港特別行政区については、香港金融管理局

 (b) 日本国については、

  (i)日本銀行

  (ii)株式会社日本政策金融公庫

  (iii)独立行政法人国際協力機構

  (iv)独立行政法人日本貿易保険

 (c)一方の締約者の政府が全面的に所有し、又は出資するその他の類似の機関で両締約者の政府が随時合意するもの

5 この条において、「利子」とは、すべての種類の信用に係る債権(担保の有無及び債務者の利得の分配を受ける権利の有無を問わない。)から生じた所得、特に、公債、債券又は社債から生じた所得(公債、債券又は社債の割増金及び賞金を含む。)及び他の所得で当該所得が生じた締約者の租税に関する法令上貸付金から生じた所得と同様に取り扱われるものをいう。前条で取り扱われる所得は、この協定の適用上利子には該当しない。

6 1から3までの規定は、一方の締約者の居住者である利子の受益者が、当該利子の生じた他方の締約者内において当該他方の締約者内にある恒久的施設を通じて事業を行う場合において、当該利子の支払の基因となった債権が当該恒久的施設と実質的な関連を有するものであるときは、適用しない。この場合には、第七条の規定を適用する。

7 利子は、その支払者が一方の締約者の居住者である場合には、当該一方の締約者内において生じたものとされる。ただし、利子の支払者が、一方の締約者内に恒久的施設を有する場合において、当該利子の支払の基因となった債務が当該恒久的施設について生じ、かつ、当該利子が当該恒久的施設によって負担されるものであるときは、当該支払者がいずれかの締約者の居住者であるか否かを問わず、当該利子は、当該恒久的施設の存在する当該一方の締約者内において生じたものとされる。

8 利子の支払の基因となった債権について考慮した場合において、利子の支払者と受益者との間又はその双方と第三者との間の特別の関係により、当該利子の額が、その関係がないとしたならば支払者及び受益者が合意したとみられる額を超えるときは、この条の規定は、その合意したとみられる額についてのみ適用する。この場合には、支払われた額のうちその超過する部分に対しては、この協定の他の規定に妥当な考慮を払った上で、各締約者の法令に従って租税を課することができる。

   第十二条 使用料

1 一方の締約者内において生じ、他方の締約者の居住者に支払われる使用料に対しては、当該他方の締約者において租税を課することができる。

2 1に規定する使用料に対しては、当該使用料が生じた一方の締約者においても、当該一方の締約者の法令に従って租税を課することができる。その租税の額は、当該使用料の受益者が他方の締約者の居住者である場合には、当該使用料の額の五パーセントを超えないものとする。

3 この条において、「使用料」とは、文学上、芸術上若しくは学術上の著作物(映画フィルム及びラジオ放送用又はテレビジョン放送用のフィルム又はテープを含む。)の著作権、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式若しくは秘密工程の使用若しくは使用の権利の対価として、又は産業上、商業上若しくは学術上の経験に関する情報の対価として受領されるすべての種類の支払金をいう。

4 1及び2の規定は、一方の締約者の居住者である使用料の受益者が、当該使用料の生じた他方の締約者内において当該他方の締約者内にある恒久的施設を通じて事業を行う場合において、当該使用料の支払の基因となった権利又は財産が当該恒久的施設と実質的な関連を有するものであるときは、適用しない。この場合には、第七条の規定を適用する。

5 使用料は、その支払者が一方の締約者の居住者である場合には、当該一方の締約者内において生じたものとされる。ただし、使用料の支払者が、一方の締約者内に恒久的施設を有する場合において、当該使用料を支払う債務が当該恒久的施設について生じ、かつ、当該使用料が当該恒久的施設によって負担されるものであるときは、当該支払者がいずれかの締約者の居住者であるか否かを問わず、当該使用料は、当該恒久的施設の存在する当該一方の締約者内において生じたものとされる。

6 使用料の支払の基因となった使用、権利又は情報について考慮した場合において、使用料の支払者と受益者との間又はその双方と第三者との間の特別の関係により、当該使用料の額が、その関係がないとしたならば支払者及び受益者が合意したとみられる額を超えるときは、この条の規定は、その合意したとみられる額についてのみ適用する。この場合には、支払われた額のうちその超過する部分に対しては、この協定の他の規定に妥当な考慮を払った上で、各締約者の法令に従って租税を課することができる。

   第十三条 譲渡収益

1 一方の締約者の居住者が第六条に規定する不動産であって他方の締約者内に存在するものの譲渡によって取得する収益に対しては、当該他方の締約者において租税を課することができる。

2 一方の締約者の居住者が法人の株式又は組合若しくは信託財産の持分の譲渡によって取得する収益に対しては、その法人、組合又は信託財産の資産の価値の五十パーセント以上が第六条に規定する不動産であって他方の締約者内に存在するものにより直接又は間接に構成される場合には、当該他方の締約者において租税を課することができる。ただし、当該譲渡に係る株式又は持分と同じ種類の株式又は持分(以下「同種の株式等」という。)が公認の有価証券市場において取引され、かつ、当該一方の締約者の居住者及びその特殊関係者が所有する同種の株式等の数が同種の株式等の総数の五パーセント以下である場合は、この限りでない。

3(a)次の(i)及び(ii)に該当する場合において、一方の締約者の居住者が(ii)に規定する株式を譲渡((i)の資金援助が最初に行われた日から五年以内に行われる譲渡に限る。)することによって取得する収益に対しては、他方の締約者において租税を課することができる。

  (i)当該他方の締約者(日本国については、預金保険機構を含む。以下この3において同じ。)が、金融機関の差し迫った支払不能に係る破綻{綻に たん とふりあがなあり}処理に関する当該他方の締約者の法令に従って、当該他方の締約者の居住者である金融機関に対して実質的な資金援助を行うこと。

  (ii)当該一方の締約者の居住者が当該他方の締約者から当該金融機関の株式を取得すること。

 (b) (a)の規定は、当該一方の締約者の居住者が、当該金融機関の株式を当該他方の締約者から、この協定の効力発生前に取得した場合又はこの協定の効力発生前に締結された拘束力のある契約に基づいて取得した場合には、適用しない。

4 2及び3の規定にかかわらず、一方の締約者の企業が他方の締約者内に有する恒久的施設の事業用資産を構成する財産(不動産を除く。)の譲渡から生ずる収益(当該恒久的施設の譲渡又は企業全体の譲渡の一部としての当該恒久的施設の譲渡から生ずる収益を含む。)に対しては、当該他方の締約者において租税を課することができる。

5 一方の締約者の企業が国際運輸に運用する船舶若しくは航空機又はこれらの船舶若しくは航空機の運用に係る財産(不動産を除く。)の譲渡によって当該企業が取得する収益に対しては、当該一方の締約者においてのみ租税を課することができる。

6 1から5までに規定する財産以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、譲渡者が居住者とされる締約者においてのみ租税を課することができる。

   第十四条 給与所得

1 次条、第十七条及び第十八条の規定が適用される場合を除くほか、一方の締約者の居住者がその勤務について取得する給料、賃金その他これらに類する報酬に対しては、勤務が他方の締約者内において行われない限り、当該一方の締約者においてのみ租税を課することができる。勤務が他方の締約者内において行われる場合には、当該勤務について取得する給料、賃金その他これらに類する報酬に対しては、当該他方の締約者において租税を課することができる。

2 1の規定にかかわらず、一方の締約者の居住者が他方の締約者内において行う勤務について取得する報酬に対しては、次の(a)から(c)までに規定する要件を満たす場合には、当該一方の締約者においてのみ租税を課することができる。

 (a)当該課税年度において開始し、又は終了するいずれの十二箇月の期間においても、報酬の受領者が当該他方の締約者内に滞在する期間が合計百八十三日を超えないこと。

 (b)報酬が当該他方の締約者の居住者でない雇用者又はこれに代わる者から支払われるものであること。

 (c)報酬が雇用者の当該他方の締約者内に有する恒久的施設によって負担されるものでないこと。

3 1及び2の規定にかかわらず、一方の締約者の企業が国際運輸に運用する船舶又は航空機内において行われる勤務に係る報酬に対しては、当該一方の締約者において租税を課することができる。

   第十五条 役員報酬

 一方の締約者の居住者が他方の締約者の居住者である法人の役員の資格で取得する役員報酬その他これに類する支払金に対しては、当該他方の締約者において租税を課することができる。

   第十六条 芸能人及び運動家

1 第七条及び第十四条の規定にかかわらず、一方の締約者の居住者が演劇、映画、ラジオ若しくはテレビジョンの俳優、音楽家その他の芸能人又は運動家として他方の締約者内で行う個人的活動によって取得する所得に対しては、当該他方の締約者において租税を課することができる。

2 一方の締約者内で行う芸能人又は運動家としての個人的活動に関する所得が当該芸能人又は運動家以外の者に帰属する場合には、当該所得に対しては、第七条及び第十四条の規定にかかわらず、当該芸能人又は運動家の活動が行われる当該一方の締約者において租税を課することができる。

   第十七条 退職年金及び離婚扶養料

1 次条2の規定が適用される場合を除くほか、一方の締約者の居住者が受益者である退職年金その他これに類する報酬に対しては、当該一方の締約者においてのみ租税を課することができる。

2 離婚扶養料その他これに類する生計のための金銭の支払であって、一方の締約者の居住者から他方の締約者の居住者に支払われるものに対しては、当該一方の締約者においてのみ租税を課することができる。ただし、これらの支払が、当該一方の締約者において当該支払を行う個人の課税所得の計算上控除することができない場合には、いずれの締約者においても租税を課することができない。

   第十八条 政府職員

1 政府の職務の遂行として一方の締約者の政府又は一方の締約者の地方政府若しくは地方公共団体に対し提供される役務につき、個人に対し、当該一方の締約者の政府又は当該一方の締約者の地方政府若しくは地方公共団体によって支払われる給料、賃金その他これらに類する報酬に対しては、当該一方の締約者においてのみ租税を課することができる。もっとも、当該役務が他方の締約者内において提供され、かつ、当該個人が当該他方の締約者の居住者であって、専ら当該役務を提供するため当該他方の締約者の居住者となった者でない場合には、その給料、賃金その他これらに類する報酬に対しては、当該他方の締約者においてのみ租税を課することができる。

2 1の規定にかかわらず、一方の締約者の政府又は一方の締約者の地方政府若しくは地方公共団体に対し提供される役務につき、個人に対し、当該一方の締約者の政府若しくは当該一方の締約者の地方政府若しくは地方公共団体によって支払われ、又は当該一方の締約者の政府若しくは当該一方の締約者の地方政府若しくは地方公共団体が設立し、若しくは拠出した基金から支払われる退職年金その他これに類する報酬に対しては、当該一方の締約者においてのみ租税を課することができる。

3 一方の締約者の政府又は一方の締約者の地方政府若しくは地方公共団体の行う事業に関連して提供される役務につき支払われる給料、賃金、退職年金その他これらに類する報酬については、第十四条から前条までの規定を適用する。

   第十九条 学生

 専ら教育を受けるため一方の締約者内に滞在する学生であって、現に他方の締約者の居住者であるもの又はその滞在の直前に他方の締約者の居住者であったものがその生計又は教育のために受け取る給付(当該一方の締約者外から支払われるものに限る。)については、当該一方の締約者においては、租税を課することができない。

   第二十条 匿名組合

 この協定の他の規定にかかわらず、匿名組合契約その他これに類する契約に関連して匿名組合員が取得する所得及び収益に対しては、当該所得及び収益が生ずる締約者において当該締約者の法令に従って租税を課することができる。

   第二十一条 その他の所得

1 一方の締約者の居住者が受益者である所得(源泉地を問わない。)であって前各条に規定がないもの (以下この条において「その他の所得」という。)に対しては、当該一方の締約者においてのみ租税を課することができる。

2 1の規定は、一方の締約者の居住者であるその他の所得(第六条2に規定する不動産から生ずる所得を除く。)の受益者が、他方の締約者内において当該他方の締約者内にある恒久的施設を通じて事業を行う場合において、当該その他の所得の支払の基因となった権利又は財産が当該恒久的施設と実質的な関連を有するものであるときは、当該その他の所得については、適用しない。この場合には、第七条の規定を適用する。

3 1に規定する一方の締約者の居住者と支払者との間又はその双方と第三者との間の特別の関係により、その他の所得の額が、その関係がないとしたならば当該居住者及び当該支払者が合意したとみられる額を超えるときは、この条の規定は、その合意したとみられる額についてのみ適用する。この場合には、支払われた額のうちその超過する部分に対しては、この協定の他の規定に妥当な考慮を払った上で、各締約者の法令に従って租税を課することができる。

   第二十二条 二重課税の除去

1 香港特別行政区外において納付される租税を香港特別行政区の租税から控除することに関する香港特別行政区の法令(この条に規定する一般原則に影響を及ぼさないものに限る。)の規定に従い、香港特別行政区の居住者である者が日本国内の源泉から取得する所得につき、日本国の法令及びこの協定の規定に従い直接に又は源泉徴収によって納付される日本国の租税は、当該所得について納付される香港特別行政区の租税から控除する。ただし、認められる控除の額は、香港特別行政区の租税に関する法令に従って当該所得について算定される香港特別行政区の租税の額を超えないものとする。

2 日本国以外の国において納付される租税を日本国の租税から控除することに関する日本国の法令の規定に従い、日本国の居住者がこの協定の規定に従って香港特別行政区において租税を課される所得を香港特別行政区内から取得する場合には、当該所得について納付される香港特別行政区の租税の額は、当該居住者に対して課される日本国の租税の額から控除する。ただし、控除の額は、日本国の租税の額のうち当該所得に対応する部分を超えないものとする。

3 1及び2の規定の適用上、一方の締約者の居住者が受益者である所得であってこの協定の規定に従って他方の締約者において租税を課されるものは、当該他方の締約者内の源泉から生じたものとみなす。

   第二十三条 無差別待遇

1 香港特別行政区内に居住する権利を有する者若しくは香港特別行政区内に設立された者又は日本国の国民は、他方の締約者において、租税又はこれに関連する要件であって、特に居住者であるか否かに関し同様の状況にある者(当該他方の締約者が香港特別行政区である場合には、香港特別行政区内に居住する権利を有する者若しくは香港特別行政区内に設立された者又は当該他方の締約者が日本国である場合には、日本国の国民である者)に課されており、若しくは課されることがある租税若しくはこれに関連する要件以外のもの又はこれらよりも重いものを課されることはない。この1の規定は、第一条の規定にかかわらず、いずれの締約者の居住者でもない者にも、適用する。

2 一方の締約者の居住者である無国籍者は、いずれの締約者においても、租税又はこれに関連する要件であって、特に居住者であるか否かに関し同様の状況にある者(香港特別行政区内に居住する権利を有する者又は日本国の国民である者)に課されており、若しくは課されることがある租税若しくはこれに関連する要件以外のもの又はこれらよりも重いものを課されることはない。

3 一方の締約者の企業が他方の締約者内に有する恒久的施設に対する租税は、当該他方の締約者において、同様の活動を行う当該他方の締約者の企業に対して課される租税よりも不利に課されることはない。この3の規定は、一方の締約者に対し、家族の状況又は家族を扶養するための負担を理由として当該一方 の締約者の居住者に認める租税上の人的控除、救済及び軽減を他方の締約者の居住者に認めることを義務付けるものと解してはならない。

4 第九条1、第十一条8、第十二条6又は第二十一条3の規定が適用される場合を除くほか、一方の締約者の企業が他方の締約者の居住者に支払った利子、使用料その他の支払金については、当該一方の締約者の企業の課税対象利得の決定に当たって、当該一方の締約者の居住者に支払われたとした場合における条件と同様の条件で控除するものとする。

5 一方の締約者の企業であってその資本の全部又は一部が他方の締約者の一又は二以上の居住者により直接又は間接に所有され、又は支配されているものは、当該一方の締約者において、租税又はこれに関連する要件であって、当該一方の締約者の類似の他の企業に課されており、若しくは課されることがある租税若しくはこれに関連する要件以外のもの又はこれらよりも重いものを課されることはない。

6 第二条の規定にかかわらず、この条の規定は、締約者又は当該締約者の地方政府若しくは地方公共団体によって課されるすべての種類の租税に適用する。

   第二十四条 相互協議手続

1 一方の又は双方の締約者の措置によりこの協定の規定に適合しない課税を受けたと認める者又は受けることになると認める者は、当該事案について、当該一方の又は双方の締約者の法令に定める救済手段とは別に、自己が居住者である締約者の権限のある当局に対して申立てをすることができ、また、当該事案が前条1の規定の適用に関するものである場合には、香港特別行政区内に居住する権利を有し若しくは香港特別行政区内に設立される者は香港特別行政区の権限のある当局に対して、又は日本国の国民は日本国の権限のある当局に対して、当該事案について申立てをすることができる。当該申立ては、この協定の規定に適合しない課税に係る措置の最初の通知の日から三年以内に、しなければならない。

2 権限のある当局は、1に規定する申立てを正当と認めるが、自ら満足すべき解決を与えることができない場合には、この協定の規定に適合しない課税を回避するため、他方の締約者の権限のある当局との合意によって当該事案を解決するよう努める。成立したすべての合意は、両締約者の法令上のいかなる期間制限にもかかわらず、実施されなければならない。

3 両締約者の権限のある当局は、この協定の解釈又は適用に関して生ずる困難又は疑義を合意によって解決するよう努める。両締約者の権限のある当局は、また、この協定に定めのない場合における二重課税を除去するため、相互に協議することができる。

4 両締約者の権限のある当局は、2及び3に規定する合意に達するため、直接相互に通信すること(両締約者の権限のある当局又はその代表者により構成される合同委員会を通じて通信することを含む。)ができる。

5(a)一方の又は双方の締約者の措置によりある者がこの協定の規定に適合しない課税を受けた事案について、1の規定に従い、当該者が一方の締約者の権限のある当局に対して申立てをし、かつ、

 (b)当該一方の締約者の権限のある当局から他方の締約者の権限のある当局に対し当該事案に関する協議 の申立てをした日から二年以内に、2の規定に従い、両締約者の権限のある当局が当該事案を解決するために合意に達することができない場合において、

 当該者が要請するときは、当該事案の未解決の事項は、仲裁に付託される。ただし、当該未解決の事項についていずれかの締約者の裁判所又は行政審判所が既に決定を行った場合には、当該未解決の事項は仲裁に付託されない。当該事案によって直接に影響を受ける者が、仲裁決定を実施する両締約者の権限のある当局の合意を受け入れない場合を除くほか、当該仲裁決定は、両締約者を拘束するものとし、両締約者の法令上のいかなる期間制限にもかかわらず実施される。両締約者の権限のある当局は、この5の規定の実施方法を合意によって定める。

   第二十五条 情報の交換

1 両締約者の権限のある当局は、この協定の規定の実施又は両締約者若しくはそれらの地方政府若しくは地方公共団体が課するすべての種類の租税に関する両締約者の法令(当該法令に基づく課税がこの協定の規定に反しない場合に限る。)の規定の運用若しくは執行に関連する情報を交換する。情報の交換は、第一条の規定による制限を受けない。

2 1の規定に基づき一方の締約者が受領した情報は、当該一方の締約者がその法令に基づいて入手した情報と同様に秘密として取り扱うものとし、1に規定する租税の賦課若しくは徴収、これらの租税に関する執行若しくは訴追又はこれらの租税に関する不服申立てについての決定に関与する者又は当局(裁判所及び行政機関を含む。)に対してのみ、開示される。これらの者又は当局は、当該情報をそのような目的のためにのみ使用する。これらの者又は当局は、当該情報を公開の法廷における審理又は司法上の決定において開示することができる。当該情報は、いかなる目的のためにも、他の者又は当局(両締約者外にあるものを含む。)に開示することはできない。

3 1及び2の規定は、いかなる場合にも、一方の締約者に対し、次のことを行う義務を課するものと解してはならない。

 (a)当該一方の締約者又は他方の締約者の法令及び行政上の慣行に抵触する行政上の措置をとること。

 (b)当該一方の締約者又は他方の締約者の法令の下において又は行政の通常の運営において入手することができない情報を提供すること。

 (c)営業上、事業上、産業上、商業上若しくは職業上の秘密若しくは取引の過程を明らかにするような情報又は公開することが公の秩序に反することになる情報を提供すること。

4 一方の締約者は、他方の締約者がこの条の規定に従って当該一方の締約者に対し情報の提供を要請する場合には、自己の課税目的のために必要でないときであっても、当該情報を入手するために必要な手段を講ずる。一方の締約者がそのような手段を講ずるに当たっては、3に定める制限に従うが、その制限は、いかなる場合にも、当該情報が自己の課税目的のために必要でないことのみを理由としてその提供を拒否することを認めるものと解してはならない。

5 3の規定は、提供を要請された情報が銀行その他の金融機関、名義人、代理人若しくは受託者が有する情報又はある者の所有に関する情報であることのみを理由として、一方の締約者が情報の提供を拒否することを認めるものと解してはならない。

   第二十六条 減免の制限 

 所得が生ずる基因となる権利又は財産の設定又は移転に関与した者が、第十条2、第十一条2、第十二条2、第十三条6又は第二十一条1に規定する特典を受けることを当該設定又は移転の主たる目的とする場合には、当該所得に対しては、これらの規定に定める租税の軽減又は免除を与えられない。

   第二十七条 租税上の特権

 この協定のいかなる規定も、国際法の一般原則又は特別の協定に基づく租税上の特権(領事機関の構成員の租税上の特権を含む。)に影響を及ぼすものではない。

   第二十八条 見出し

 この協定中の条の見出しは、引用上の便宜のためにのみ付されたものであって、この協定の解釈に影響を及ぼすものではない。

   第二十九条 効力発生

1 各締約者の政府は、他方の締約者の政府に対し、この協定の効力発生のために必要とされる内部手続が完了したことを確認する通告を行う。この協定は、遅い方の通告が受領された日の後三十日目の日に効力を生ずる。

2 この協定の規定は、次のものについて適用する。

 (a)香港特別行政区については、香港特別行政区の租税に関しては、この協定が効力を生ずる年の翌年の四月一日以後に開始する各賦課年度分のもの

 (b)日本国については、

  (i)源泉徴収される租税に関しては、この協定が効力を生ずる年の翌年の一月一日以後に租税を課される額

  (ii)源泉徴収されない所得に対する租税に関しては、この協定が効力を生ずる年の翌年の一月一日以後に開始する各課税年度の所得 

  (iii)その他の租税に関しては、この協定が効力を生ずる年の翌年の一月一日以後に開始する各課税年度の租税

   第三十条 終了

 この協定は、一方の締約者によって終了させられる時まで効力を有する。いずれの一方の締約者も、その政府が、この協定の効力発生の日から五年の期間が満了した後に開始する各暦年の末日の六箇月前までに、他方の締約者の政府に対し終了の通告を行うことにより、この協定を終了させることができる。この場合には、この協定は、次のものにつき適用されなくなる。

 (a)香港特別行政区については、香港特別行政区の租税に関しては、終了の通告が行われた年の翌年の四月一日以後に開始する各賦課年度分のもの

 (b)日本国については、

  (i)源泉徴収される租税に関しては、終了の通告が行われた年の翌年の一月一日以後に租税を課される額

  (ii)源泉徴収されない所得に対する租税に関しては、終了の通告が行われた年の翌年の一月一日以後に開始する各課税年度の所得

  (iii)その他の租税に関しては、終了の通告が行われた年の翌年の一月一日以後に開始する各課税年度の租税

 以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けてこの協定に署名した。

 二千十年十一月九日に香港で、ひとしく正文である日本語、中国語及び英語により本書二通を作成した。解釈に相違がある場合には、英語の本文による。

  日本国政府のために

    隈丸優次

  中華人民共和国香港特別行政区政府のために

   K・C・チャン


議定書

 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府と中華人民共和国香港特別行政区政府との間の協定(以下「協定」という。)の署名に当たり、日本国政府及び中華人民共和国香港特別行政区政府は、協定の不可分の一部を成す次の規定を協定した。

1 協定第三条1(d)の規定に関し、「租税」には、協定の適用を受ける租税に関連する日本国又は香港特別行政区の法令に基づいて課される附帯税又はこれに相当するものを含めないことが了解される。

2 協定第三条1(e)の規定に関し、「法人以外の団体」には、信託財産及び組合を含むことが了解される。

3 協定第四条1(a)(iii)及び(iv)の規定に関し、「事業の管理及び支配の主たる場所」とは、法人又はその他の者の役員及び上級管理者が当該法人又はその他の者のための戦略上、財務上及び運営上の方針について日々の重要な決定を行い、かつ、当該法人又はその他の者の従業員がそのような決定を行うために必要な日々の活動を行う場所をいうことが了解される。

4 協定第十三条2の規定に関し、「公認の有価証券市場」とは、次のものをいうことが了解される。

 (a)香港証券取引所により設立された有価証券市場

 (b)日本国の金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)に基づき設立された金融商品取引所又は認可金融商品取引業協会により設立された有価証券市場

 (c)同条2の規定の適用上、両締約者の権限のある当局が公認の有価証券市場として合意するその他の有価証券市場

5 協定第十七条1の規定に関し、「退職年金その他これに類する報酬」には、過去の雇用又は自営につき支払われる退職年金その他これに類する報酬及び社会保障制度に基づく退職年金を含むことが了解される。

6 協定第二十四条5の規定に関し、

 (a)両締約者の権限のある当局は、事案によって直接に影響を受ける者の作為若しくは不作為が当該事案の解決を妨げる場合又は両締約者の権限のある当局及び当該者が別に合意する場合を除くほか、同条5に規定する仲裁の要請から二年以内に仲裁決定が実施されることを確保する手続を合意によって定める。

 (b)仲裁のための委員会は、次の規則に従って設置される。

  (i)仲裁のための委員会は、国際租税に関する事項について専門知識又は経験を有する三人の仲裁人により構成される。

  (ii)それぞれの締約者の権限のある当局は、それぞれ一人の仲裁人を任命する。両締約者の権限のある当局が合意する手続に従い、両締約者の権限のある当局が任命する二人の仲裁人は、仲裁のための委員会の長となる第三の仲裁人を任命する。

  (iii)すべての仲裁人は、いずれの締約者の税務当局の職員であってはならず、同条1の規定に従って申し立てられた事案にこれまで関与した者であってはならない。

  (iv)両締約者の権限のある当局は、仲裁手続の実施に先立って、すべての仲裁人及びその職員が、それぞれの権限のある当局に対して送付する書面において、協定第二十五条2及び両締約者において適用される法令に規定する秘密及び不開示に関する義務と同様の義務に従うことに合意することを確保する。

  (v)それぞれの締約者の権限のある当局は、自らが任命した仲裁人に係る費用及び自らが仲裁に関与する費用を負担する。仲裁のための委員会の長の費用その他の仲裁手続の実施に関する費用については、両締約者の権限のある当局が均等に負担する。

 (c)両締約者の権限のある当局は、すべての仲裁人及びその職員に対し、仲裁決定のために必要な情報を不当に遅滞することなく提供する。

 (d)仲裁決定は、協定第二十四条5の規定、この6の規定又はこの6の規定に従って決定される手続規則のいずれかに違反すること(仲裁決定に影響を及ぼしたものとして相当と認められるものに限る。)により、当該仲裁決定がいずれか一方の締約者の裁判所において無効であるとされる場合を除くほか、確定する。仲裁決定は、その違反によって無効であるとされる場合には、行われなかったものとする。

 (e)仲裁決定は、先例としての価値を有しない。

 (f)仲裁の要請が行われた後で、かつ、仲裁のための委員会がその決定を両締約者の権限のある当局及び仲裁の要請を行った者に送達する前に、両締約者の権限のある当局が仲裁に付託されたすべての未解決の事項を解決した場合には、当該事案は同条2の規定に従って解決されたものとし、仲裁決定は行われない。

7 協定第二十五条1の規定に関し、一方の締約者は、両締約者の政府が公文の交換により合意するまでは、協定の規定の実施又は他方の締約者の法令の規定の運用若しくは執行のために協定第二条の規定により協定の対象となる租税以外の租税に関する情報を交換することを義務付けられるものではない。当該合意は、効力発生のために必要とされる各締約者の法令上の手続が完了した後に、効力を生ずる。

8 協定第二十五条5の規定に関し、一方の締約者は、弁護士その他の法律事務代理人がその職務に関してその依頼者との間で行う通信に関する情報であって、当該一方の締約者の法令に基づいて保護されるものについては、その提供を拒否することができることが了解される。

 以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けてこの議定書に署名した。

 二千十年十一月九日に香港で、ひとしく正文である日本語、中国語及び英語により本書二通を作成した。 解釈に相違がある場合には、英語の本文による。

  日本国政府のために

   隈丸優次

  中華人民共和国香港特別行政区政府のために

   K・C・チャン