データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第12回北京-東京フォーラム開幕における元国務委員唐家セン氏の挨拶

[場所] 日本・東京
[年月日] 2016年9月27日
[出典] 中華人民共和国駐日本国大使館
[備考] 唐家セン氏のセンは王へんに旋
[全文] 

 尊敬する福田康夫先生

 尊敬する明石康委員長

 尊敬する蒋建国副部長

 ご来賓の皆さま、ご在席の皆さま

 おはようございます。

 お招きを受け第12回「北京-東京フォーラム」に出席できますことをうれしく思います。4年ぶりに東京で古くからの友人に会い、とても親しさをおぼえました。昨年、フォーラムは両国主催者の入念な計画の下、2度目の10年の新たな発展期に入りました。

 今回のフォーラムのメーンテーマは「世界やアジアの平和、発展に向けた中日の役割と協力」です。このメーンテーマは両国関係の現状および対外的な影響に符合しており、深い意味合いに富んでいます。中日はアジアと世界の重要な国家であり、両国関係の寒暖の変化は、終始地域ひいては世界の平和的発展のプロセスに関わります。中日関係の長期的な健全で、安定した発展を実現することは、両国と両国人民の利益に合致し、国際社会の普遍的期待にも合致するものです。中日両国は、早期に困難を克服し、手を携えて協力し、互恵・ウインウインを追求し、共同発展の明るい未来、アジアと世界の繁栄と安定を守っていくべきです。

 ご在席の皆さま

 現在、国際情勢は引き続き深く変化しており、経済のグローバル化は深く発展し、国際的な枠組みと秩序の変化は加速し、アジア地域協力は発展の途上にあって勢いがあり、インターコネクションが引き続き推し進められています。同時に、世界経済の大きな調整、地政学的危機の頻発、一部国家の経済や社会の矛盾の激化、局地的不安定と衝突の相次ぐ発生、持続可能な発展、テロリズム、エネルギー安全保障、気候変動、難民など多くのグローバルな試練がより高度化していることを見なければいけません。こうした背景の下、中日両国は二つの大国として、世界の平和的発展を擁護するより大きな責任を担っており、国際社会と地域国家のさらに高い期待を背負っています。

 この数年来、さまざまな要素の影響を受け、中日関係は絶えず困難や障害に遭遇し、いわゆる一難去ってまた一難の状態にあり、いまだに完全に正常な発展の軌道には戻っていません。こうした不健全な状態は中日協力に影響し、東アジア地域一体化のプロセスを遅らせ、地域の平和と安定を巻き添えにしています。皆さまが「和すれば共に栄え、戦えば共に傷つく」とよく言いますが、事実上、両国関係の変化による影響はもはや二国間の枠を超えており、地域と国際社会に異なった程度で波及し、両国各界はみなこれについての対応に憂慮と緊迫感を強めるべきです。本日、私は多年にわたる対日外交経験と結び付け、共に議論し励まし合うために、いかに中日関係を発展させるか、在席の皆さまにいくつかの感想を述べ交流したいと思います。

 ――中日関係の発展には、共通認識を順守し、政治的基礎を守らなければなりません。中日間には歴史感情のもつれがあり、また現実の利益対立もあり、極めて複雑で敏感です。ですから、われわれは終始歴史的責任感と長い戦略的視野を持ち続け、両国と両国人民の根源的利益に立脚し、しっかりと両国の平和、協力、発展の正しい方向を把握することが必要です。中日関係は数十年の発展を経験し、双方はすでに四つの政治文書など重要な綱領的文書に合意しており、両国関係の発展に政治的「ルール」を確立しています。「ルールがなければ何事もうまくいかない」として「ルール」を作ったなら、われわれは「ルール」に照らして物事を行い、両国関係が終始「脱線」しないよう確保しなければなりません。

 先ごろ習近平主席は、G20杭州サミット期間中に安倍晋三首相と二国間会談を行った際に、中日の四つの政治文書は両国関係を発展させる「バラスト」であり、2014年末に双方が合意した四つの原則的共通認識は両国関係改善の「安全弁」であると強調しました。双方は関連原則と共通認識を厳守し、古い問題をしっかり管理し、新しい問題の発生を防止し、両国関係の政治的基礎を揺るがせないことを確保しなければなりません。これらができれば、中日関係の引き続く改善には根本的保証が得られるのです。

 ――中日関係を発展させるには、正しく認知し、良い相互作用を形成しなければなりません。正しい認識は、正しい行動を導きます。近年、中国は大きな発展の業績を挙げ、国際社会で、どのように中国の発展を捉えるべきかという議論をも引き起こしています。中には、中国が強国になれば覇権を必ず唱えるという古い道を歩むのではないかと心配する人もいますが、これは完全に杞憂です。「新型大国関係」の構築を打ち出すのも、「親(親睦)・誠(誠意)・恵(互恵)・容(寛容)」の周辺外交理念も、いずれも平和的な発展を求め、善隣友好を固めようとするわれわれの一貫した目標を表しています。地球温暖化に対応するため排出削減の約束をするのも、国際平和維持に積極的に貢献するのも、いずれも国際システムに溶け込み、大国の責任を引き受けるというわれわれの固い決心を表しています。「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」の提唱も、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立も、いずれも開放と包容を堅持し、発展のボーナスをシェアし、互恵・ウインウインをはかるというわれわれの協力の思考を表しています。ひと言で言えば、中国の発展がアジアと世界にもたらすのは決して脅威ではなく、プラス材料とチャンスであるということです。

 日本は中国にとって最大の隣国の一つであり、両国は異なる発展段階にあって、相互補完の優位性は明らかで、協力の潜在力は非常に大きなものです。われわれは中日関係を重視しており、両国関係の発展の推進に尽力したいという考えは誠実なもので、この点は一切変化がありません。中国の発展が日本の生存や発展の空間を押しつぶすことはなく、すでに、そしてこれからも引き続き日本の発展にボーナスをもたらし、逆に日本側としてもこのようにあるべきです。日本がわれわれと向き合い、中国の発展を客観的に認識し、共同発展の決心と信念をしっかりと抱き、中日の4つ目の政治文書にある「互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない」という態度を政策に反映させ、行動に移すことを希望しています。

 ――中日関係を発展させるには、伝統を継承し、友好の理念を発揚しなければなりません。両国民の代々の友好と「中日不再戦」は戦後中日関係の起点であり、両国の独特な友好の伝統にとっての思想的な原動力の源でもあります。時勢がどのように変化しても、戦後の中日関係の起点を忘れることはできず、中日友好の理念をなくすことはできず、中日友好の大旗を倒すことはできません。来年は中日国交正常化45周年、再来年は中日平和友好条約締結40周年です。われわれは重要な歴史の契機をつかみ、中日関係の安定と改善、発展を推し進めるべきです。同時に、重要なタイミングに立って、未来の中日友好が進む方向を考え、時代の発展に適応し、友好に新たな内容を加え、新たな生命力を与えることはキーポイントです。このプロセスの中で、双方が「相互援助、相互信頼、相互理解、相互参考」の実現に努力する必要があります。

 相互援助とは、中国の四川汶川大地震や日本の東日本大震災の時に、両国民が互いに支援し、共に難関を越えた貴重な精神を大いに発揚し、自然災害や社会の難題に直面する時には、同じ船に乗って共に助け合い、手を携えて対応するということです。相互信頼とは、憂患と危機意識に基づいて、相互信頼の欠如という短所を補うことに着目し、次の世代における理解と信頼関係の構築を怠ることなく堅持し、代々の友好の延長のために土台を築くということです。相互理解とは、平等の精神に基づき、率直に誠意を持って交流を行い、相手の核心的利益と重大な関心の在りかを的確に理解・尊重し、両国の友好のために障害を取り除き、人為的に問題や妨害を起こさないようにするということです。相互参考とは、両国が歴史上、友好的な往来を通じて互いに学び、共に発展してきたことを指しています。新時代においては、相手のアドバンテージと特長をさらに借りて、互いに長所を取り入れ短所を補い、共同の発展を促進していくべきです。

 ご在席の皆さま

 中日関係の処理には、歴史を尊重し、現実に立脚し、同時に未来に目を向ける必要があります。現状から言えば、双方が新旧の問題を適切に管理・処理し、同時に実務的な交流と協力を着実に推進し、中日関係の持続的で安定な改善と発展を促進すべきです。私はこれに関していくつかの考えと提案を申し上げたいと思います。

 一つ目は、歴史的な根源を正視することです。中日間には2000年の友好と50年の対立があり、友好が主流です。両国には非常に長く輝かしい人文交流史があり、振り返るに耐えない戦争の記憶があり、さらにこの数十年における二国間関係の目覚ましい発展もあります。歴史は中日共同の財産であり、われわれは歴史から伝統を継承し、共同の思想・文化の財産を掘り起こし、友好交流の人文的きずなを強固にするべきです。歴史から教訓を汲み取って反省し、「歴史を鑑とし、未来に向かう」ようにし、悲劇の再演を避けるべきです。歴史から偉大な精神を伝承し、両国の何代もの指導者の政治的勇気と英知を追想し、現在の中日関係の発展の成果を大切にし、さらに素晴らしい未来を切り開くべきです。

 二つ目は海洋の平和を維持することです。中日両国は海を隔てて向き合い、この海域は双方が協力する試験田であるべきで、衝突し対抗する格闘場ではない。国際海洋権益が注目を集める背景の下、中日の間では度々海洋問題をめぐる対立が際立ち、両国関係に障害をもたらしています。東海問題において、双方は大局に着目し、関連する了解とコンセンサスに遵守し、対話を通じて小異を残して大同を求め、メカニズムを通じて危機を管理・制御し、協力を通じて共通利益を享受し、着実に衝突と潜んでいる問題を防止し回避し、関係海域の平和と安定を確保しなければならない。南海問題においては、政治的意図がある煽りや介入は単に問題を複雑化し、日本側が直接当事者が平和的な交渉を通じて問題を解決する努力を支持するよう希望しています。

 三つ目は、互恵協力を開拓・発展させることです。世界第二、第三の経済体として、中日は協力を強化し、責任を履行し、地域と世界の発展の参加者と推進者にならなければなりません。二国間関係において、双方は省エネ・環境保護、財政・金融、社会保障・医療、ハイテク分野に重点をおいて協力の潜在力を発掘することができます。地域関係においては、双方はアジア運命共同体の構築に着目し、積極的に自由貿易のプロセスに参与し、インターコネクションとインフラ整備を促進すべきです。双方は悪質な競争を回避し、第三国における協力を模索すべきです。国際関係においては、双方は協調を強化し、地球温暖化、エネルギーの安全保障、テロ対策などの課題をめぐる協力行動を取り、共同利益の支点を拡大し、他国のために模範的な効果を示すことができます。

 四つ目は国民交流を拡大することです。国の交わりは国民同士の相互親睦にあり、国民同士の相互親睦は心が通じ合うことにあります。現在、両国の国民感情の疎遠の状況は憂慮され、これが双方各界が背負う国民感情を導く責任に対して現実的な課題を提起しています。同時に、双方が積極的に条件整備をすれば、両国民衆の相互往来の巨大な潜在力を引き出すことができ、中日関係はかつてない国民交流の時代を迎えることが期待できます。双方はこうした情勢を生かして、さらに青少年、地方、草の根レベルの交流を強化し、人の心を動かし、共鳴を呼ぶ交流活動を行い、さらに多くの民間友好の担い手を育成し、より多くの民衆が中日関係に関心を持ち支持するように導き、中日関係の改善のために社会的基礎をしっかりと固めなければなりません。

 ご在席の皆さま

 「北京-東京フォーラム」は中日関係を宣伝し検討し促進する重要な世論プラットホームです。現在の情報化と「全民メディア」の新時代に、メディア・世論の変化は国民感情をけん引し、中日関係の雰囲気に影響し、両国関係の改善に深くかかわっています。ご在席の皆さまは全て各界のエリート、あるいは社会的影響力を持つ方々であり、報道分野の方も少なくありません。皆さまのご主張とご意見は両国民衆の中日関係に対する認識に方向性を与える重要な役割を果たされています。このフォーラムとご参加の皆さまが社会的責任と国際的な視野をしっかり持って、勇気を持って取り組み、正しい気風を導き、客観的、積極的な声を伝達し、理性的で知恵ある思考を提唱し、中日関係が汚水を洗い流し清水を入れるよう推進し、両国関係における積極的で有利な要素を不断に拡大することを、心から期待しております。

 最後に、中国外文局と日本言論NPOの今回のフォーラムの開催に向けて果たされたご苦労とご努力に感謝の気持ちをお伝えさせていただき、第12回「北京-東京フォーラム」のご成功を心から祈念申し上げます。