データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 社会保障に関する日本国政府と中華人民共和国政府との間の協定(日・中社会保障協定)

[場所] 
[年月日] 2018年5月9日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

 日本国政府及び中華人民共和国政府は、

 日本国及び中華人民共和国(以下「両締約国」という。)の間の友好関係を一層発展させることを目的とし、

 社会保障の分野における相互の協力を促進することを希望して、次のとおり協定した。

  第一部 総則

   第一条 定義

1 この協定の適用上、

 (a) 「国民」とは、次の者をいう。

  日本国については、日本国の国籍に関する法律にいう日本国民

  中華人民共和国については、中華人民共和国の国籍を有する個人

 (b) 「法令」とは、次のものをいう。

  日本国については、次条1(b)に掲げる日本国の年金制度に関する日本国の法律及び規則中華人民共和国については、次条1(a)に規定する社会保険制度に関する法律、行政府及びその部門並びに地方の命令及び規則その他の法規

 (c) 「権限のある当局」とは、次のものをいう。

  日本国については、次条1(b)に掲げる日本国の年金制度を管轄する政府機関

  中華人民共和国については、人的資源社会保障部

 (d) 「実施機関」とは、次のものをいう。

  日本国については、次条1(b)に掲げる日本国の年金制度の実施に責任を有する保険機関(その連合組織を含む。)

  中華人民共和国については、人的資源社会保障部社会保険管理センターその他人的資源社会保障部が指定する機関

2 この協定の適用上、この協定において定義されていない用語は、それぞれの締約国の適用される法令において与えられている意味を有するものとする。

   第二条 この協定が適用される法令の範囲

1 この協定は、

 (a)中華人民共和国については、被用者基本老齢保険に関する法令について適用する。

 (b)日本国については、次の日本国の年金制度に関する法令について適用する。ただし、この協定の適用上、国民年金には、老齢福祉年金その他の福祉的目的のため経過的又は補完的に支給される年金であって、専ら又は主として国庫を財源として支給されるものを含めない。

  (i) 国民年金(国民年金基金を除く。)

  (ii) 厚生年金保険(厚生年金基金を除く。)

2 1に規定する法令には、一方の締約国と第三国との間で締結される社会保障に関する協定その他の国際約束及び当該協定その他の国際約束の個別の実施のためにのみ制定される法令を含めない。

   第三条 この協定が適用される者の範囲

 この協定は、一方の締約国の法令の適用を受けており、又は受けたことがある全ての者並びにこれらの者に由来する権利を有する家族及び遺族について適用する。

   第四条 待遇の平等

 この協定に別段の定めがある場合を除くほか、前条に規定する者であって一方の締約国の領域内に通常居住するものは、当該一方の締約国の法令の適用に際し、当該一方の締約国の国民と同等の待遇を受ける。ただし、この規定は、日本国の領域外に通常居住することに基づいて日本国民に対して認められる合算対象期間に関する日本国の法令の規定の適用を妨げるものではない。


  第二部 適用法令に関する規定

   第五条 一般規定

 この協定に別段の定めがある場合を除くほか、一方の締約国の領域内で被用者として就労する者については、その就労に関し、当該一方の締約国の法令のみを適用する。

   第六条 派遣される者

1 一方の締約国の法令に基づく制度に加入し、かつ、当該一方の締約国の領域内に事業所を有する雇用者に当該領域内で雇用されている者が、当該雇用者のために役務を提供するため、その被用者としての就労の一環として当該雇用者により他方の締約国の領域に派遣される場合には、その就労に関し、当該被用者がなお当該一方の締約国の領域内で就労しているものとみなして、その派遣の最初の五年間は当該一方の締約国の法令のみを適用する。

2 1に規定する派遣が五年を超えて継続される場合には、両締約国の権限のある当局又は実施機関は、当該派遣に係る被用者に対し、1に規定する一方の締約国の法令のみを引き続き適用することについて合意することができる。

   第七条 海上航行船舶又は航空機において就労する被用者

1 一方の締約国の旗を掲げる海上航行船舶において被用者として就労し、かつ、この協定がないとしたならば両締約国の法令が適用されることとなる者については、当該一方の締約国の法令のみを適用する。この規定にかかわらず、当該者が他方の締約国の領域内に通常居住する場合には、当該者については、当該他方の締約国の法令のみを適用する。

2 国際運輸に従事する航空機において被用者として就労し、かつ、この協定がないとしたならば両締約国の法令が適用されることとなる者については、その就労に関し、当該者の雇用者の所在する締約国の法令のみを適用する。

   第八条 外交使節団及び領事機関の構成員並びに公務員

1 この協定のいかなる規定も、千九百六十一年四月十八日の外交関係に関するウィーン条約又は千九百六十三年四月二十四日の領事関係に関するウィーン条約の規定に影響を及ぼすものではない。

2 一方の締約国の公務員又は当該一方の締約国の法令において公務員として取り扱われる者が他方の締約国の領域内で就労するために派遣される場合には、その者については、当該一方の締約国の領域内で就労しているものとみなして当該一方の締約国の法令のみを適用する。

   第九条 例外

 両締約国の権限のある当局又は実施機関は、特定の者又は特定の範囲の者の利益のため、これらの特定の者又は特定の範囲の者にいずれか一方の締約国の法令が適用されることを条件として、第五条から前条までの規定の例外を認めることについて合意することができる。

   第十条 配偶者及び子

 日本国の領域内で就労する者であって、第六条、第八条2又は前条の規定により中華人民共和国の法令のみの適用を受けるものに同行する配偶者又は子については、社会保障に関する協定の実施に関する日本国の法令に定める要件を満たすことを条件として、第二条1(b)(i)に規定する日本国の年金制度に関する日本国の法令の適用を免除する。ただし、当該配偶者又は子が別段の申出を行う場合には、この規定は、適用しない。

   第十一条 強制加入

 第五条から第七条まで、第八条2及び前条の規定は、各締約国の法令における強制加入についてのみ適用する。


  第三部 雑則 

   第十二条 実施のための協力

1 両締約国の権限のある当局は、

 (a) この協定の実施のために必要な措置を規定する行政上の取決めを共同して作成する。

 (b) この協定の実施のために連絡機関を指定する。

 (c) 自国の法令の変更(この協定の実施に影響を及ぼすものに限る。)に関する全ての情報をできる限り速やかに相互に通報する。

2 両締約国の権限のある当局及び実施機関は、書面による要請に基づき、それぞれの権限の範囲内で、この協定の実施のために無償で情報及び援助を提供する。

   第十三条 証明書の発給

 一方の締約国の実施機関又は前条1(b)の規定に従い当該一方の締約国の権限のある当局によって指定された連絡機関は、申請に基づき、被用者が当該一方の締約国の法令の適用を受けていることを記載した証明書を発給する。

   第十四条 使用言語及び認証

1 この協定の実施に際し、両締約国の権限のある当局及び実施機関は、相互に、又は関係者に対して、日本語、中国語又は英語により、直接に連絡することができる。

2 この協定の実施に際し、一方の締約国の権限のある当局及び実施機関は、日本語、中国語又は英語で作成されていることを理由として申請書その他の文書の受理を拒否してはならない。

3 この協定の実施に当たって提出すべき文書(特に証明書)については、認証その他これに類する手続を要しない。

   第十五条 情報の秘密性

1 一方の締約国の権限のある当局又は実施機関は、当該一方の締約国の法令の下で収集された個人に関する情報(この協定の実施のために必要なものに限る。)を当該一方の締約国の法律及び規則に従って他方の締約国の権限のある当局又は実施機関に伝達する。

2 1の規定に従って一方の締約国により他方の締約国に伝達される個人に関する情報は、当該他方の締約国の法律及び規則により必要とされない限り、この協定を実施する目的のためにのみ使用する。当該他方の締約国が受領するこれらの情報は、個人に関する情報の秘密の保護のための当該他方の締約国の法律及び規則により規律される。

   第十六条 紛争の解決

 この協定の解釈又は適用に関する紛争は、両締約国の権限のある当局間又は関係当局間の協議により解決する。

   第十七条 見出し 

 この協定中の部及び条の見出しは、引用上の便宜のためにのみ付されたものであって、この協定の解釈に影響を及ぼすものではない。


  第四部 経過規定及び最終規定

 第十八条 効力発生前の派遣

 第六条1の規定の適用に当たっては、この協定の効力発生前から一方の締約国の領域内で就労していた者については、同条1に規定する派遣の期間は、この協定の効力発生の日に開始したものとみなす。

  第十九条 効力発生

両締約国は、この協定の効力発生のために必要な国内法上の手続の完了を通知する外交上の公文を交換する。この協定は、当該公文を交換した月の後四箇月目の月の初日に効力を生ずる。

  第二十条 有効期間及び終了

 この協定は、無期限に効力を有する。いずれの締約国も、外交上の経路を通じて他方の締約国に対し書面によりこの協定の終了の通告を行うことができる。この場合には、この協定は、終了の通告が行われた月の後十二箇月目の月の末日まで効力を有する。


以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けてこの協定に署名した。

 二千十八年五月九日に東京で、ひとしく正文である日本語、中国語及び英語により本書二通を作成した。解釈に相違がある場合には、英語の本文による。


日本国政府のために

 河野太郎

中華人民共和国政府のために

 王毅