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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中平和友好条約交渉(第2回会談)

[場所] 北京
[年月日] 1978年7月22日
[出典] 情報公開法に基づき公開された外務省資料
[備考] 
[全文]

極秘

総番号 (TA) R052940  5285  主管

78年  月22日19時40分  中国発

78年07月22日21時30分  本省着  アジア局長

外務大臣殿  佐藤大使

日中平和友好条約交渉(第2回会談)

第1384号 極秘 大至急

(限定配布)

往電第1371号に関し

22日午後3時より5時まで約2時間(休けい時間も含む)にわたり第2回会談を行なつたところ、概要次のとおり。(会談の場所及び出席者は第1回会談に同じ)

1.先ず韓副部長はあらかじめ用意された原こうに基づき昨日の日本側の冒頭発言を詳細かつ真けんに検討したが、この日本側の考え方は今までにしばしば明らかにされたことであり、中国側にとつて新しい内容ではないが、日本側より再度日本側の考え方を明らかにしていただいたので、中国側も中国側の考え方を簡けつに述べるとして、次の2点を述べた。

(1)第1に私達は大使の発言において言及された日本の対外関係において日米関係は特別な地位にあるということを理解している。中国側は常に日米関係は第1のものであり、中日関係は第2のものであると言つている。私達は日米両国が平等の基礎の上に相互の関係を良くすることを期待し、当面の国際情勢の下で現実のきよういに直面する日本が国家の安全のために日米安保条約を必要とすることも理解している。日米関係に比べれば中日関係が第2のものであると私達は言つているが、このことは決して中日関係をとるに足りない地位において人に欲しいままに干渉され、かつ振り回されてもよいというものでもない。私達の考えでは、いかなる国の外交政策にも重点があるべきである。日本は米とソとの間において重点を置かなければならないし、中とソとの間にも等きよ離はあり得ないことである。いわゆる等きよ離外交は中国から見れば実際には不可能なことである。中日両国は、いずれも独立の主権国家である。双方はそれぞれ自主独立の外交政策をとつており、双方は、相手側の内政に干渉すべきでなく、人に押しつけることなどなお更問題になりない{前4文字ママ}ことであり、これは言うまでもないことである。

中国の外交政策は、確かに日本の外交政策と異なるところがあるが、これは共同声明を基礎にし、小異を残して大同を求め、両国の善りん友好的関係を絶えず前進させ、アジア・太平洋地域の情勢を改善するために両国が然るべきこうけんをすることをさまたげるものではない。条約交渉において重要なことは、双方の共通点をこう定することである。

中日両国がこの条約を締結し、両国の平和友好関係を強固にし発展させることは、第三国の利益を損うものではない。同時に如何なる第三国が両国間のことがらに横やりを入れ、干渉することも絶対に容認できない。これも自明の道理である。

(2)第2に、反は権条項の問題について述べる。日本政府のは権問題に関する立場は、共同声明第7項のとおり不動であるとの昨日の大使の発言を、私たちは非常に重要視している。中国政府は、共同声明を基礎にして1日も早くこの条約を締結し、両国関係を発展させることを一かんして主張している。反は権条項は、共同声明の重要な原則であり、両国政府の対外政策の共通点を反えいしている。反は権条項は、最も論理にかなつている。平和と友好を求める国であれば、どの国であつてもその国と友好的につきあわなければならないが、は権を求めるものに対して友好的につきあうことなど出来るであろうか。

これに対しては、反抗する他ない。昨日、大使の発言の中で言及されているように、世界には確かに極く1部の人がやつきになつて反は権条項に反対している。もし、は権を求めないのであれば、どうして他の人がは権に反対することを心配するのであろうか。それは、ただ彼ら自身がは権を求めておりまたは求めようとしていることをばくろしているにすぎない。

昨日、大使が参考までに日本政府の対ソ政府に言及したので、私もここで参考までに中国側の意見を述べたい。私たちは、従来から日本がソ連とコレクトな関係を維持することには反対していない。すべての国家と友好関係を維持し発展させようとする日本の願望は理解する。しかし客観的事物は、すべてが人々の主観的な願望で決定できるものではない。昨日の大使の発言にもあつたように、第2次世界大戦後既に30余年も過ぎた今日でも、ソ連が依然として日本の北方4島を不法占拠し日本の正当な要求を拒絶している。そればかりではなく、ソ連の空軍と海軍は絶えず日本に軍事的きよういを与えている。日本政府がソ連のかかるきよう暴で理不じんなやり方に反対することは全く正当なものである。私たちは一かんして日本政府と人民のこのような正義の闘争を断固として支持しているし、私たちのこのような態度は全く中日共同声明の精しんに合致するものと考えている。

ソ連がこの条約の締結の問題において絶えず日本に対して種々様々なおどしや恐かつを行ない、いろいろな圧力をかけてきている。これはソ連の常とう手段である。私たちがなが年ソ連とつき合つて引き出した結論は他でもなくソ連が態度の弱い者をいじめ、態度の強い者を恐れることである。この点について小川前大使に何回も話したことがある。ソ連に対してはえん慮すればするほどますますあなどられるハメになるが、少し強い態度で立ち向うとどうということはない。

昨日の大使の発言の中に何回も「特定の第三国」という言ばがあつたが、ズバリと言えばそれはソ連のことを指している。私たちの条約はソ連を名指していない。大使も昨日だれであれは権を求める試みがあれば反対であると言われたがこれは正しい。従つて「特定の第三国」という代名しを使用するいかなる必要もない。私の発言はこの位にして日本側の御検討を願う。

2.以上の韓副部長の発言に対し、本使より「私の方からただ今の韓念リュウ副部長の発言に対しお答えすることは両国の立場をますます明確に理解するため有益であると思う。これだけよく検討された御発言に対し早急な反応をするのはむしろれいぎを失するのではないかと考える。私も週末ゆつくり考えこの次の会議でただ今の発言に対する回答を行ないたいと思う」と述べ、次いで「昨日約束したように、わが方から条約案を提出したいと思うが、大分時間がたつので10分か15分休けいしたいと思う」と提案し約25分間の休けいに入つた。

3.4時15分ごろ会談を再開し、本使より本省で用意した「日本側新条約案提案についての説明」の冒頭発言部分をほぼそのまま読み上げた後、中国側に対し日本側新条約草案の日本文及び中国文を配布し引き続きサイトウ条約課長より、配布済みの条約文を読み上げつつ、上記の本省作成の「説明」に基づき各条毎の説明を行つた。

4.説明終了後、本使より中国側に対し日本側の説明につき質問があればよろこんで答える。中国側が日本側草案を真けんに検討し、次回の会合においてでも中国側の考えをうかがえれば幸いである旨述べたところ、韓副部長より、日本側の草案に対する説明をちよう取したが、「草案に対する中国側の見方と意見は詳細に草案を検討した上で次回の会合において述べたい。本日の会議はここまでにしたい」と提案した。

5.これに対し本使より、「日本側は、代表団が東京より来ているので、出来れば次の会合を月よう(24日)に行いたい」と提案したところ、韓副部長は「出来るだけ早く次回の会合を開催したいが、具体的日取りは双方の連絡係を通じて決めたらどうか」と回答するに留まつたので、本使より更に「もし新条約草案に対する中国側の見解表明の準備が間に合わなくとも本日の韓副部長の発言に対する日本側の考え方を述べたいので、次回の会合は月よう日に開いていただきたい」と申し入れたところ、韓副部長は、「それでは『暫定的に』次回会合は月ように開催することとしよう。お互いに意見交換を重ねることはいいことだ」と述べた。

6.最後に本使より、再び新聞発表について相談したい旨申し入れ、「昨日と同様本日も会議の内容には触れないが、日本側が本日条約草案を中国側に提出したことは言わざるを得ない」と述べたところ、先方は「結構である」と答えた。以上をもつて本日の会議を終了した。

(了)