[文書名] 日中平和友好条約交渉(第3回会談−その2)
極秘
総番号 (TA) R053161 5303 主管
78年 月24日22時20分 中国発
78年07月24日23時51分 本省着 アジア局長
外務大臣殿 佐藤大使
日中平和友好条約交渉(第3回会談−その2)
第1398号 極秘 大至急
(限定配布)
往電第1396号に関し
1.本使の発言終了後、韓副部長は休けいを提案したので、双方ともそれぞれの休けい室に入つた。(休けい時間35分)
2.休けい後、韓副部長は大使の発言を詳細に聞いたが本日はこの発言に触れず後日中国側の意見を提出する、ただし一部の問題についてはこれからの発言において触れることになるかも知れないと前置きの上、用意された原こうに基づき次のとおり述べた。
(1)日本側の新しい条約草案に対する中国側の正式な意見を述べる前に日本側が交渉の2日目に新しい草案を提出されたことにしよう賛の意を表すとともに、日本側の協力的な態度に感謝する。
(2)中国側は日本側の新草案とそれに対するサイトウ課長の説明を真けん、かつ詳細に検討した。日本側の新草案は最も重要な反は権条項の問題において依然として中日共同声明の精しんと実質を正確に反えいしておらず、共同声明に比べれば日本側が言うように「基本的に同様である」のではなくて、甚だしくかけ離れている。従つて私達としては日本側の新草案の第3条の反は権条項に関する表現に対しては中国側は同意できないとはつきりと申し上げざるを得ない。もち論私達は新草案のその他の点、例えば第2条の平和共存5原則などの点においては、今までの案文に比較すると確かに共同声明の表現をより多くきゆう収していることに留意している。従つて双方の案文がこれらの点においては一層接近したと言えるし、この点については評価すべきであると考える。
(3)21日の第1回会談において私が発言したように、この条約交渉が遅々として進展を見せなかつた原因は主として反は権条項の問題にある。日本側の新草案を検討した後、私達は当面交渉が直面しているかん心な問題はやはりこの問題であるという感を一層深めた。もち論条約のその他の方面においては既に双方が全く一致しており問題が無くなつたという訳でもない。
(4)しかし双方が先ず反は権条項について合意できれば恐らく他の問題も解決し難いものではなかろう。そこで交渉を進展させるために双方は先ず精力を集中して反は権条項の問題について討議を行うことを提案する。
(5)ただ今から、日本側新草案第3条に重点を置いて私達の考えを述べる。
中国側が再三明らかにしたとおり、反は権条項は、中日共同声明の1つの重要な原則であり、中日関係を発展させる政治的基礎である。国際情勢の発展は、ますますは権反対の原則に非常に重要な現実的意義があることを実証している。反は権条項は極めて簡けつ、かつ明確なものであり、非常に論理にかなつたものである。従つて、それをそのまま条約の案文にもり込むべきであり、それをいささかなりとも弱めたりしてはならない。
(6)先ず、第三国に対するものではないという問題についての私の意見を述べる。日本側新草案第3条第1文では、「この条約は、特定の第三国に対して向けられたものではない。」となつている。前回の会談で、日本側から共同声明の「国交正常化は」との字くは、条約の中においてはそのまま使う訳にいかないので「この条約は」と修正したとの説明があつた。「国交正常化」は既に実現されて6年近くにもなるので、その字くをそのまま条約の中にもり込む必要がないことは当然である。中日共同声明を発表したのが、両国の国交正常化を実現するためのものであつたと同様に、中日平和友好条約を締結することは、「両国間の平和友好関係を強固にし発展させるため」である。従つて、「国交正常化」に対応する言ばは、疑いもなく「平和友好関係を強固にし発展させる」という言ばでなければならず、「この条約」という言ばではない。率直に言えば、ここで問題になつているのは、単に1つの文章の表現上の問題ではなく反は権条項の精しんと実質に関連する問題である。
反は権条約は、第三国に対するものではないという面もあれば、対するものでもあるという面もある。先ず、私たちは、決してこちらから進んで人に向けることはしない。相手がは権を求めなければそれに向けないどころか、それとむつまじくつき合わなければならない。しかし、もし相手がは権を求めようとするならば、こちらは反対せざるをえない。この意味から言えば、反は権条項は、他の者に対するものでもある。即ち、は権を求めており、あるいは求めようとするものに向けている。一言で言えば、は権を求める者に対しては、だれであろうとそれに反対する。は権に反対する以上、私たち中日双方をこう束する他には、自然に第三者という対象の問題が出てくる。一方では権反対を言いながら、他方でそれがだれにも向けられたものではないというのは、自家どう着した言い方ではなかろうか。従つて、「この条約は、第三国に対して向けられたものではない」というのは論理に合わないし、ただ反は権条項の精しんと実質を弱めあるいはほねぬきにするだけのものである。
(7)日本側のいわゆる「特定の第三国」という表現については、私は、この前の発言においても率直に中国側の考えを明らかにした。
日本側が「特定の」という言ばを付け加えたことは「節でないところにえだをつけた様なもの」でその必要は全くないと思う。反は権条項は、ある特定の国家を名指してはいない。スネにきずをもつものがあろうことかとび出してきてそれをとやかく言うのは、全く理くつが成立たない。私たちは、どうしてそれを相手にする必要があるだろうか。中日両国は、ともに独立自主の主権国家である。私たちの間のことがらには、決して局外者に勝手にぼう害されることを許してはならない。この条約を締結する私たちの目的は、公明正大なものものであり、私たちのけん持する原則は、全く正当なもので、とがめられる余地のないものである。中国側は再三、両国がこの条約を締結することは主として政治的かく度からことを進め、大局に着がんして努力をともにしてこの条約交渉のし事をより良く行い、両国人民の切なる期待に応えるべきであり、アジア・太平洋地域と全世界人民及び広はんな友人の期待に応えるべきであるといつている。
(8)次は、反は権条項の地域的範囲の問題についてである。私たちの意見では「アジア・太平洋地域」という表現を維持する方がよいと思う。その理由としては、第1に、中日両国は、地理的に、アジア・太平洋地域にあるので、この地域を明確にとり上げることは、歴史的かく度からいつても、現実的かく度からいつても、理の当然でありは権反対がアジア・太平洋地域に限られるという問題は存在しない。第2に、「アジア・太平洋地域」という表現は、中日共同声明の中で使つた表現であるから、これを修正しない方がよいと思う。
(9)最後に「反対である」と「反対する」という問題についてである。第1に、これは決して日本語テキストのみに関係する問題ではない。この両者には、はつきりした区別がある。文法上及び構文上において両者は異るのみならず、より重要なのは、その含まれる意味も完全に同じではない。従つて、こうした修正は中国語テキストと関連がないとは言えない。第2に、中日共同声明の「は権を確立しようとする他のいかなる国あるいは国の集団による試みにも反対する」という一くは、中日双方が厳しゆくかつ真けんな討議を加えた結果、決めたものであるから更にこれを修正すべきではないと思う。
(10)中国側の上述の意見を日本代表団において検討願うと同時に、更に新しい案を出されることを希望する。
3.これに対し、本使より、次のとおり述べた。
先ず第1に、われわれの提出した条約案に対して中国側の反応をかくも早く出していただいたことに交渉を早く進ちよくさせるとの見地からかん迎する。反は権条項、即ちわが方の条約案で言えば第3条に関して同意がえられなかつたことは誠に残念なことである。ただ今、韓副部長よりわれわれの努力を主として第3条の討議に集中するという御提案があつたが、私は結構であると思う。韓副部長のただ今の発言に関するわれわれの考え方は、次の会談で述べることと致したい。(これに対して韓副部長は、結構である。この次討論しようと述べた。) また、この次の会談ではいよいよ条約全体の話に入るわけであるから、第3条の討議の問題と同時に条約の討議のやり方についても、われわれの考えを述べさせていただきたいと思う。私の発言は以上であるが、次回会談をどうするか。わが方としては、明日の午後でも結構である。
4.次いで韓副部長より、次のように述べた。
先程の私の発言においてはつきりと指摘したように、中国側は日本側が新条約草案を提出したことをかん迎する。しかし、日本側の草案にはいくつかの問題があり、私たちは同意できない。研究する必要がある。同時に反は権条項問題以外にその他の若干の問題についても相談する必要がある。ただ、それは先程の発言の中で解決しにくいものではないと指摘した。主要な問題は、反は権条項の問題である。先程私が最後に述べたとおり、私は日本側代表団に私の意見を詳細に検討するよう要請するとともに、わが方が更に一歩進んで検討できるよう新しい案文を提出されることをかん迎する。
5.最後に、第4回会談については、明日午後3時より行うことに双方合意した。
(了)
写手交済(25日00時11分)