データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中平和友好条約交渉(第6回会談)

[場所] 北京
[年月日] 1978年7月28日
[出典] 情報公開法に基づき公開された外務省資料
[備考] 
[全文]

極秘

総番号 (TA) R054413  5379  主管

78年  月28日20時40分  中国発

78年07月28日22時09分  本省着  アジア局長

外務大臣殿  佐藤大使

日中平和友好条約交渉(第6回会談)

第1448号 極秘 大至急

(限定配布)

往電第1434号に関し

 28日、午後3時より5時50分まで2時間50分(45分の休けい時間を含む)にわたつて第6回会談を行つたところ、概要次のとおり。(出席者:当方;本使、ナカエ、{約6文字黒塗り}。先方;韓念リュウ、王ギョウウン、王効ケン(通訳))

1.最初に本使より、これまでの会談において合意に達した点として(1)この条約は同盟条約ではなく、また、第3国の利益を損うものでないこと、(2)日中両国はは権を求めないこと、(3)は権を求めようと試みる国があれば、それがだれであれ、そのような試みには反対の立場をとること、(4)この条約はソ連を名指すものではないこと、(5)日本は中国の対ソ政策を承知しており、中国は日本の対ソ政策を承知しているが、お互いの政策に干渉しないこと、の五点をあげて、「双方の意見の分かれているのは、上記実質問題のうち、「何を」「どのように」表現するか、あるいは、表現しないか、についてであると思う」とのべ、この認識について先方の意見を求めたが、韓副部長は、更に本使の発言継続を促したので、本使より、別の問題点として、韓副部長が「特定の第3国」を「ソ連」と読み替えて、「は権反対のこの条約はソ連に対して向けられたものではない」と言おうとしていると考えておられる点が自分と一番考えの異なる点なりと指摘して、自分らはそういうつもりで書いた訳ではない、とのべた。

2.これに対し、韓副部長は、この数日間くり返している通り、「第三国に」であつても「特定の第三国に」であつても中国は賛成できない、とのべたので、本使より、「第三国に」というのと、「特定の第三国に」というのとの相異点、更に「特定の第三国」としたからといつて、「は権反対はソ連に対して向けられたものではない」ということをこの条項で意味しようとは全く考えていない、ソ連をも対象としうる面があるけれどもソ連のみを指定して対象とするものではないゆえんを説いた。

3.しかし韓副部長は、「特定の」という語を加えることにより、ますます「ソ連」ということを指していると考えているということがわかつたので、本使より、そこに考え方の違いがあることがハッキリしたが、われわれの方にその考えのないことを解つていただく他にし方がない、とのべたところ、韓副部長は、今回の交渉で解決しなければならないのは正にこの条項で、他の条項は割合簡単だが・・・と述べたので、本使より、解決すべき点はこの条項であることは百も承知だが、その相違点は、この条約が第三国に対抗するものでないことは解つているから、書かなくてもいい、というのが中国の立場だと思うが、わが方は書いたつていいじやないか、といつているわけだ、と述べたところ、韓副部長は、それが双方の相異点なり、と確認した。

4.そこで、本使より、更に、現在の国際情勢に対する認識だけから条約をつくるのではなく、将来のことも考慮に入れると、は権反対条項をハツキリ条約に入れておいた方がよいが、ソ連にだけ限らぬ方がよい、と重ねて述べたところ、韓副部長は、何もソ連を名指していない、日中双方はいずれもは権を求める国があればこれには反対する意思を表明したところ、日本が今度「特定の」という字を考え出したのは面白いと思うと述べつつも、日本語の「特定の」というのはよくわからぬので英語にして見るとSPECIFICとなり、具体的なものを指すからよくない、つまり、日本がますますソ連のことを気がねしていることになる、と述べた。これに対して、本使よりわれわれはあくまでもソ連のことを考えたためではない、と反論した上、「何れにせよ、日本側もそろそろ東京に報告しなければならないので、考え方の違いがハツキリしたことは有益だつたと思う。東京でも考えると思うが、中国側も考えてもらいたい」と述べたところ、韓副部長は、この交渉の重要性、この条項のもつ意義、経緯を長々と述べた後、「自分の希望としては、大使が本国に報告されるに当つても、また、当地で検討されるにしても、れいせいに取り扱つていただきたい、非常に厳しゆくな問題であり、大変重大なし事である」「日中双方が満足するようなものでなければならない」と強調した。

5.その後、王ギョウウン次長が発言し、そもそも共同声明発出当時問題でなかつたものが、日本側からいろいろ問題が出てきて、ここ数年間日本の報道機関が(日本政府とはいわなかつた)広はんな日本人民に「特定の第三国」は「ソ連」であるという印象を与えてしまつたのが問題で、かかる状況の下では「特定の第三国」という文字を書き入れることは不適当である。

中国側からは、反は権をソ連に限つてはいない、中国案も中国側の説明もソ連に限つているのではない、と述べた。

6.本使より、日本の立場は共同声明ができたときと、現在とで何ら変つておらず、中国の立場との間に相違はあるが、共同声明から後退してはいない、双方でその間をつめて行かぬことには解決できない、しかし全く解決できないとは思わぬ、と述べ、また王ギョウウン次長の発言に関しては、日中間に考え方の相違のないことがハツキリしたのだから中国の方でも表現を考えてもらいたい、とのべた。

7.次いで本使より、第3条以外の条項についての中国側の問題点を指摘してくれれば審議促進に役立つ所以をのべたが、先方は「貴方がそう言われる気持は十分理解できるが、他の問題は難かしくなく相談できる問題である。もち論意見の相違がないという訳ではない。しかし第3条に比べて解決し易い」とのべるにとどまつたので、重ねてナカエより「第3条の解決が重要なことはわかるが、いずれ他の条項も交渉しなければならないから、どういう点が問題か示していただければ今後の交渉に好都合である。貴方は”・・・もち論意見の相違がない訳ではない”といわれるが、まだ意見の交換もしていないのだから、中国側では、どこの点に意見の相違がありうると考えているのか示してもらいたい」とのべたが、先方は回答せず休けいに入つた。

8.休けい後、韓副部長は、今次交渉の現在まで収めた成果を高く評価した後、は権反対条項は日本側が複雑にしてしまつたとはいえ、この交渉は非常に重要で歴史的意義をもつので時間と精力を注いで立派になし遂げたいとのべた後、サトウ大使は反は権で一つの共通した表現を求めようということをいわれたが、具体的にどういう表現がいいか大使の意見をきかせてほしい、また大使は意見の相違点として「書くか書かないか」の問題があるといわれたが、そこで自分はこう考える、といつて次のようにのべた。

「例えば双方の意見の食い違いのある第3条第1項を条約案から削除することを考えられないか、ということです。こういうふうにすれば、双方のギャツプを縮め、早期妥結ができるのではないか、と思います。」

更に第3条以外の条項についての問題点については、日中双方の案をじつくり照らし合わせればわかるはずである、とのみ答えた。

9.これに対し本使より、日本側が複雑にしたという点は納得できないと反ばくした後、表現の問題を考えてくれといわれたが、中国の方でも考えてもらいたい、また削除の問題については「日本側の考え方にはそわないので、賛成し難いが、せつかくの御示さなので東京に取り次いで見よう」とのみのべておいた。

10.次回の会合については、わが方から特に開催を申し込まない限り明29日(土)は休会とし、いずれにせよ31日(月)午後3時には開催することに合意された。なお本日の会談は極めて機微な点を多々含んでいることにかんがみ、その取扱いには厳に御留意ありたく重ねて特にお願い申し上げる。

(了)