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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中平和友好条約交渉(第7回会談−1)

[場所] 北京
[年月日] 1978年8月1日
[出典] 情報公開法に基づき公開された外務省資料
[備考] 
[全文]

極秘

総番号 (TA) R054921  5425  主管

78年  月01日00時30分  中国発

78年08月01日02時13分  本省着  アジア局長

外務大臣殿  佐藤大使

日中平和友好条約交渉(第7回会談)

第1464号 極秘 大至急

(限定配布)

往電第1448号に関し

 31日午後3時より5時20分まで2時間20分にわたり(3時45分より約35分間の休けいも含む)第7回会談を行つたところ、その概要次のとおり。

(場所及び出席者は、第1回会談に同じ)

1.冒頭、韓副部長は、本日の会談は私の主さいする番であるがどちらが先に発言するか相談したいと述べたので、本使より先に発言することを求め、別電の{前3文字○で囲む}のとおり述べた。

2.これに対し、韓副部長は、予め用意された原こうに基づき次のとおり述べた。

(1)条約交渉の開始以来、時間的には3年半経過した。今回の交渉も始まつてから本日で11日目である。私は、日本側の友人がこの交渉の妥結を希望していることを疑つたことはない。小川前大使からサトウ大使まで、また、外務省の同僚から北京の日本大使館の同僚のみな様方に至るまでこの条約の早期締結を希望していると信じている。

(2)今回の交渉が21日に開始されてから本日で11日目になる。これまで私たちは、5回の全体会談と1回の非公式会談を行つた。中日双方は、割合十分にそれぞれの観点と立場を表明し、相手側の意見を真けんに検討し、就中、反は権条項の問題において割合突つ込んだ意見のたん求と討議を行つた。これは、相互理解の増進に役立ち、条約交渉を更に深く討議することにとつても有益である。

(3)従つて、今までの会談は有意義であり、成果を収めたものであると言えるので、それをこう定すべきである。もち論、これは双方の努力の結果である。しかし、事実に基づいてぜを求めるという精しんから言えば反は権条項の問題における双方の意見の違いは、今なお非常の大きいものである。同時に双方の共通点もやはり少なくないことを見てとるべきである。

(4)大使は、28日の非公式会談で、双方の共通点を5つ列挙された。私は、ここで中国側が数日来の発言を検討し分せきした上で、これをまとめ、整理した双方の共通点を述べたい。

(イ)第1に、中日双方は、平和友好条約を締結し、両国間の平和友好関係を強固にし発展させることによつて第三国の利益を損うつもりはない。

(ロ)第2に、中日双方ともは権を求めず、いかなる第三国または国の集団がは権を求めることにも反対する。は権を求めるのもには、だれであろうと反対する。

(ハ)第3に、中日双方ともすべての国と善りん友好関係を維持し発展させる願望を持つているが、は権を求めるものに対しては反攻する他ない。

(ニ)第4に、中日双方ともそれぞれ独立自主の外交政策をとつており、相手側の内政に干渉しない。双方とも中日友好条約の締結をよろこばしく思わない外部勢力から影響されない。

(ホ)第5に双方とも現実のきよういが存在していることを感じ、こうしたきよういについては中国側は日本から来るものと思わないし、日本側も中国から来るものであるとは思わない。

(5)私たち双方がそれぞれまとめた共通点は、いずれも5点あるが、そのうち一部の内容からみると、双方の意見はまだ食い違いがある。一つの例をあげて説明すれば、日本側の第4点、すなわち、「この条約はソ連を名指すものではない」ことについては、中日共同声明にせよ、中日平和友好条約にせよ、ソ連という国名が出ていないし、如何なる国家も名指していないから、ソ連を名指しているということは話にもならないことではなかろうか。これは、私たち双方の共通点であるというより、これこそ私たち双方の意見の食い違いの存在する所であると言える。日本側のこの点は、私たちが同意できるものではない。

(6)私が27日の会談において述べたように、私たちは、双方の意見の食い違いが存在していることを認めていると同時に、双方の共通点をこう定する目的は、中日共同声明の基礎の上に立つて、大局から着がんし、共通点を拡大し、意見の相違点を縮少して解決策を見出すところにあるので、私たちは、日本側が引き続き確実に実行可能な新しい条約案を提出されるよう今も期待している。

3.以上の韓副部長の発言の後、双方とも休けいすることとし、約35分間休けいした。

4.会談再開後、韓副部長は、中国側から発言するとして次のとおり述べた。

(1)先程のサトウ大使の発言の中に日本の外交政策の思想を、この条約の中に入れる必要があると言われたが、私たちから見れば、両国間の声明であれ条約であれ、いずれも双方の共通点または一致点を反えいするものでなければならない。もしそうではなく一方が自らの外交政策を条約の中に反えいさせることを要求し、他方も自らの政策を反えいさせることを要求するならば、問題を複雑にするだけである。

(2)例えば、1972年9月29日に発表された中日共同声明は、中日双方の共通点を反えいする文書であり、われわれは真に共同声明の原則をけん持し、共同声明を基礎とすることさえするならば、問題は解決し難いものではない。

(3)大使が、日本の外交政策の思想を条約の中に入れることを必要とすると言われた以上、ここで私が質問したことは、日本側に何か新しい具体的な考えあるいは具体的な意見があるということなのであろうか。

5.これに対し、本使より、次のとおり述べた。

(1)ただ今の韓副部長の発言に対し、私から申し上げたいことは2点ある。第1に、韓副部長は、日本の「外交政策」と言われたが、私が先程発言したのは「日本外交のし勢から出てくるものである」と述べたのである。従つて外交政策そのものを押しつけるというような意味ではない。しかしそのし勢を韓副部長は日本の願望として理解する旨述べられており、ここから出てくる考え方について中国側と話をしたいということを申し上げたわけである。

(2)第2の問題は、韓副部長が何か新しい提案を日本側から提出するつもりであるかと言われたが、私の方から言えば今回の交渉において、日本側から理想的なものと考える草案を既に提出したので、先程私の方からお願いしたように、こういう形なら中国側が受け入れられるというような提案を中国側からしていただきたいと希望する。

(3)それから恐らく気付かれたと思うが、先程の私の発言の中に、「このような(第3条第1文のような)思想を条文のどこかに入れることを必要とする」と述べたことに御留意願いたい。

6.これに対し韓副部長は、次のとおり述べた。

(1)私が提起した問題は、1つだけである。先程大使閣下が「日本の外交政策の思想を条約の中に書き入れることが必要である」旨述べられたが、もしも条約の中に何かを反えいさせるというのなら、日中双方のものを反えいさせなければならない。例えば日中共同声明は少なくとも私たち双方の意見の共通点を反えいしており、共同声明が発表されて以来この文書の原則と基礎に基づき両国関係を処理してきたのと同じでなければならない。

(2)もち論私は、大使の言われたこの条約の中に日本の政策を反えいさせたいということは中国側の意見を反えいさせないということではないと理解する。

(3)私はどういうふうに反えいさせたらいいかにつき大使の方に何か具体的な考えあるいは具体的な意見があるかということをたずねているのである。

7.これに対し本使より次のとおり答えた。

先ほど韓副部長は「日本の外交政策」という言ばを使われたが、「外交政策」という言ばは当らない。いずれにせよ日本の考え方を反えいしたものを条約の中に書き入れるということは当然中国側が同意しない限りできない。日本としても中国側の考えの中でわれわれが同意できるものは当然条約に書き入れることができるわけだ。従つてこの点を書き入れるか否かということで中国側が、いやだというものを押しつけるつもりは全然ない。日本側とすれば何かあつた方がいいので中国側はどういうものなら同意を得られるかうかがいたい。

8.これに対し韓副部長は次のとおり述べた。

(1)日本側が「外交し勢」と言われたことについては分つた。つまり、これを条約の中に書き入れるということについては双方がそれぞれ自この外交政策を実行し、それぞれの内政に干渉しないということであれば問題ないと思う。双方の外交政策を平等かつ同様に条約の中に反えいさせる。このようなことであろうか。

(2)先ほど大使は外交し勢を反えいさせると言われた。(ここで「し勢」とは英語で何というのかと問うたのでPOSTUREだと答えた。)従つてもし何か具体的な考え方があればお聞きしたい。

9.これに対し本使より、「先ほど私は、わが方として理想的だと考える草案を出したのであるから今度は中国側から出していただきたい。中国側は日本側案に対しこれでは具合が悪いと言うのであるから、それではどのような形にすればよいのか中国側の考えを聞きたい」と述べたところ、韓副部長は次のとおり述べた。

私たちは日本側の草案を検討すると同時に中国側の考えをまとめ日中双方とも理想的と考えられる草案を提出することは問題ないと思う。ただ現在頭のいたいやつかいな、しよう点となつている問題は、日本側条約草案第3条第1文の「この条約は特定の国に対して向けられたものではない」との字くにつき双方の意見が食い違つている点であり、これが主要な問題点となつている。

10.これに対し本使より、「日本側もそれが主要点であるということについては全く同感である。従つて条約のどこも、ここもという訳ではなく、その点について中国側としてこれなら同意できるという提案をしていただきたいと思う」と述べたところ、韓副部長は、再び「問題は日本側草案の第3条第1文にある。」とくり返した上「日本側のこのような表現方法は既に何回も述べたとおり同意できない。もしこの表現方法をとらないで、どんな方途(注:出路)をさがし出せるかは互に相談すればよい」と述べた。

11.これを受けて本使より次のとおり述べた。

みようなたとえ話をするが、学校の生とが先生に答案を提出したとする。生ととしては一番よいと考えるものを出したのに先生は、これではダメだからもう一度新しいのを出せという。こう言われても生とにとつては新しい答案を出すことは無理である。先生のほうからどこが悪いかを言わぬと生とは自分が一番よいと思つて作つているから無理である。

12.これに対し韓副部長は、少し付け加える点があるとして次のとおり述べた。これは私の提案または一つの考え方である。「この条約は特定の第三国に対し向けられたものではない」という反は権条項第1文の問題は、単にこの数日来論争してきたものではなく、ここ数年来論争してきたものである。ただ最近違つた点はこの条項に「特定の」という言ばが入つたことである。ここ数日来、双方ともその発言の中でくり返し「は権を求めるものがあれば、だれであれ反対する」と言つており、これは双方の一致した立場であると思う。逆に言えば、は権を求めない国あるいは国の集団に対し向けられたものではないということである。しかし、は権を求める国あるいは国の集団に対し向けられたものであると言うことである。日本側草案第3条第1文の表現は、双方がこのように一致した観点を反えいしていない。

もしも日本側が「この条約は」を主語とすることをけん持したいというのであれば、われわれはこれをは権反対条項の後方に置くことを提案する。すなわち「双方は両国のいずれもアジア・太平洋地域においては権を求めるべきではなく、このような、は権を確立しようとする他のいかなる国あるいは国の集団による試みにも反対することを重ねて表明する。」との元々の中国案のこの文を「本条約は」を主語とする文の前に持つて来るという提案である。そして「この条約は」を主語とする文は「この条約はは権を求めない第三国に対し向けられたものではない。(本条約不ゼ針対不謀求は権的第三国)」と改めてはどうであろうか。

13.これに対し本使より、「御発言を感謝する。これは新らしい話であるし、重大な提案でもあるので十分検討し、明日の会談ででもわれわれの回答を行ないたい」と述べたところ、韓副部長は「結構である」と答えたので、本使より更に「反は権条項以外の問題を討論することにつき中国側の考えを聞きたい」旨を質した。

14.これに対し韓副部長は次のとおり述べた。

私が先回の発言の中で述べたように主要な問題は反は権条項にあり、その他の問題は意見の相違がないという訳ではないが、解決しにくいものではない。言い換えれば解決し易い問題であるということである。

双方の共通点は、「は権を求めるものがあればわれわれはそれがだれであれ反対する。」ということであると考える。これは実際に即しちゆう実に中日共同声明の精しんを表現している。これは日本側も同意した共通点である。従つて日本案の第3条第1文は条約のどこに現われても共同声明の原則と実質を損なうものであり、われわれは同意できない。もしそうすれば、共同声明の基礎から後退することになる。

15.これに対し本使より、「反は権条項以外の問題を討議したいとの点については同意が得られなかつたので、これ以上申し上げない」と述べたところ、韓副部長は、「反は権条項以外の問題は今後討議したい。いずれにしろ明日は日本側から本日の中国側の提案に対する回答をいただきたい。」との発言があつたので、最後に本使より「本日の休けい前の中国側の発言及び休けい後の中国側提案につき明日の会談において回答したい。」と述べ、双方とも明日3時に第8回目の会談を行うことに同意し本日の会談を終了した。

(了)

写手交済(1日02時40分)