データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中平和条約交渉(第10回会議−2)

[場所] 北京
[年月日] 1978年8月3日
[出典] 情報公開法に基づき公開された外務省資料
[備考] 
[全文]

極秘

総番号 (TA) R055745  5502  主管

78年  月03日18時50分 中国発

78年08月03日20時07分 本省着  ア局長

外務大臣殿  佐藤大使

日中平和友好条約交渉(第10回会議)

第1513号 極秘 大至急

(限定配布)

往電第1512号別電

 本日は、既に第十回目の会談を迎えた。現在日本側も中国側もこの交渉を成功させるために真けんに努力を続けている。昨日の第九回会談において、韓副部長は更に一つの新しい提案を提示された。われわれは、中国側のこのような積極的な態度を評価する。われわれは、中国側のこの新しい提案を真けんにかつじゆう分に検討致した。しかし、われわれの結論は、残念ながら、この提案に同意できないということである。

 私は、以下にわれわれの考え方を若干御説明したいと思う。

 まず第一に、反は権条項の第1文を「両締約国がこの条約に基づいて平和友好関係を強固にし発展させることは、第三国に対するものではない。」と書き代えるとの提案については、われわれは、この案は、1975年の中国側条約案第2条第1文と基本的に何ら変つていないと考えざるを得ない。

 私は、従来より、この条約自体が全体として何れかの国を敵視してその利益を害するものではないことをはつきりいう必要があると一再ならず申し述べて来た。日本側のこの考え方は、現在でも基本的には全く変りがない。しかるに、中国側の新しい提案は、このような考え方が反えいされていない。日本側としては、上述のような考え方を反えいした条文を条約の中に入れることが必要であると考えている。われわれは、中国側もこの条約を何れかの国を敵視し、その国に対抗するものと考えているのではないと理解している。従つて、このような考え方を反えいした条文をお互いに努力し、工夫して考え出したいと強く希望するものである。

 日本側はこのような希望に基づいて、第八回会談において日本側の新しい案文を提出したのである。それは、共同声明の精しんから後退していないばかりか、共同声明の趣旨にちゆう実に沿つたものであると考える。もし中国側が、日本側提案の「何れかの第三国」という表現に同意出来ないというのであれば、上述の考え方に沿つた中国側の受入れ可能な新しい案文をぜ非考え出していただきたく重ねて中国側にお願いする。われわれも、更に考えて見たいと思う。

 第二に、中国側は、日本側条約案の第1条を削除しなければならないと言われた。日本側条約案の第1条は、日中共同声明第8項に明記されている平和友好条約の目的をそのまま規定したものである。条約本文の冒頭において、既に合意されている条約の目的を明確に規定することは極めて自然であり、公明正大なものであり、かつ日中双方の共通点を反えいするものでもある。従つて、この条項を削除するということには、われわれは同意できない。

 昨日も申し上げたとおり、日中双方は21日以来の会談において、既に相当大きな成果を上げた。日中双方の基本的考え方は極めて多くの点で一致している。従つて、私は現在問題のしよう点となつている反は権条項についても、日中双方が受入れ可能な条文が双方の努力によりさがし出せないはずはないと考える。交渉を促進させ、一日も早い条約締結を実現させるとの見地から、上述の日本側の考え方に対し中国側の理解が得られるよう期待する。

(了)