[文書名] 日中平和友好条約交渉(第12回会談)
極秘
総番号 (TA) R056332 5550 主管
78年 月06日00時58分 中国発
78年08月06日02時37分 本省着 ア局長
外務大臣殿 佐藤大使
日中平和友好条約交渉(第12回会談)
第1550号 極秘 大至急
(限定配布)
往電第1530号に関し、
5日午後3時半より5時20分まで1時間50分にわたり(4時から40分の休けい時間を含む。)第12回会談を行つたところ、概要次のとおり。
(会談の場所は、第1回会談に同じ。出席者は、ナカエ局長を除き第11回会談に同じ。)
1.冒頭本使より、「本日は私が会談を主さいする番であるが、韓副部長より先に御発言下さい」と述べたところ、韓副部長は、次のとおり述べた。
(1)昨日われわれは大使の発言と日本側の提出した今1つの新しい案文を詳細にちよう取した。真けんにかつ念入りに検討した結果、われわれは、日本側の新しい案文には少なからぬ問題が含まれており、良い案文とは考えない。
(2)日本側の新しい案文には、如何なる問題があるのか、私はいくつかの例を挙げて説明したい。
(イ)第1に、今までの交渉の中でわれわれは、双方とも条約の早期締結のために共通点を拡大し、意見の食い違いを縮小することに力を入れるべきであると考えてきた。われわれは、声明であれ条約であれ双方の共通点を反えいさせるべきであり、そのぎやくであつてはならないと考える。例えば、中日共同声明は、他でもなく中日双方の共通点を反えいした文書である。交渉中のこの条約も、双方の共通点を反えいすべきであることは、理の当然である。しかし、日本側の新しい案文は、何々と「解してはならない」と強調している。このような言い方が人々にどのような印象を与えるかは言うまでもないことと思う。従つて、われわれは、日本側の案文は取り上げることは出来ないものであると考える。
(ロ)第2に、大使は、昨日の発言の中で日中両国とも独自の外交政策を有しておりお互にそれを干渉しないことは、これまでの会談において双方で確認したところであると言われた。こうした意味のものは、双方の条約案文の平和共存5原則に関する条項の中に既に反えいされており、もし日本側の新しい案文のとおり単独のものとして条約の中に入れるとするとだ足になり、かえつて人々に中日間には何かのわだかまりがあるかのように思わせることとなるので、双方にとつて無益なことと考える。
(ハ)第3に大使は、昨日の発言の中で、日本側はは権反対がソ連に対するものではないというようなことは言つていないし、今後とも言う積りはないと言われた。大使の表明したこの態度に対しては、われわれは、それを留意し、標{前1文字ママ}価するものである。前にも触れたように双方ともそれぞれの外交政策を有しており、お互にそれに干渉しないこと自体は元々多言を要するものではない。日本側の新しい案文は、ソ連の思わくを気兼ねしている要素が依然として含まれていると思われても致し方ないように思う。われわれは、これは全く必要のないものと考える。
(ニ)第4に、われわれは日本側の新しい案文の表現は、解釈的な説明のような感じを帯びており、弁解のニュアンスさえも帯びているので、条文として条約の中に書き入れることは明らかに適切なものではないと考える。
われわれは、検討する過程で最近双方の提出した新しい案文をくり返して見較べてみた。われわれは、やはりわが方が8月2日に提出した案文こそ双方の意見を反えいしたものであり、双方共受け入れられるはずのものと考える。
われわれは、わが方の上述の案文は共同声明を基礎にし、政治的なかく度から事を運び、中日友好の大局に着がんし、厳しゅくかつしん重に検討を重ねた上で提出したものであることを真心を込めて再び日本の友人に申し上げたい。中国側から言えば、これは最大限に日本側の意見を考慮し、日本側の立場を十分配慮した確実に実行可能な案文である。これに比べ日本側の案文は、確かに問題が少なくない。私はここでちゆう心により8月2日に提出したわが方案文を日本側が再び真けんに検討し、早期妥結のために積極的に努力をつくすよう希望する。
2.ここで本使より休けいを提案し、約40分休けいの後、会談を再開し、本使より次の通り述べた。
(1)われわれは、休けい前の韓念リユウ副部長の発言を注意深くうかがつた。中国側が昨日のわが方の新提案は、問題が多いと考えておられることは、まことに残念である。昨日の案は、本国政府とも十分に相談しつつ日中双方にとつて受け入れ可能な案として注意深く作り上げたものである。私としては、今後昨日のわが方の提案について中国側に再考をお願いして話し合う機会をもつことを強く希望する。
(2)なお、韓副部長は、「ソ連の思わくを気がねしているように思われる」と言われたが、中国側がこのような考え方からぬけ出していないということは、日本側として誠に残念である。どうかその点は条約締結の目的のために日本政府の政策を正しく理解していただきたいと心からお願いする。
3.本使より、以上の発言を終え、本日の会談をここまでにしたいと提案したところ、韓副部長は、「日本側の案文に対するわれわれの意見については、くり返して申し上げないが、このほかにも多くの問題があり、本日引き続いて話し合うことにつき大使の意見如何」と質問越した。これに対し、本使より、「第3条以外の問題についてのことか」と質したところ、韓副部長より次の通り述べた。
われわれは第3条第1文の問題以外についても相談する必要がある。先ず、反は権条項についてもわれわれは完全には問題を解決してはおらず、例えば、反は権条項の日本側案文では「両締約国は、そのいずれも、アジア・太平洋地域においても、または、他のいずれの地域においてもは権を求めるべきではなく、また、このようはな権を確立しようとする他のいかなる国または国の集団による試みにも反対であること(注:中国語;「ヤ(AFI)ゼ(ELE)反対的」)を表明する。」となつているが、この文の表現方法に対しても中国側は異つた考えを持つている。
中日共同声明の第7項の表現では、「両国のいずれも、アジア・太平洋地域においては権を求めるべきではなく、このようなは権を確立しようとする他のいかなる国あるいは国の集団による試みにも反対する。」となつている。それが日本側の案文では、この最後の部分を「反対である」と書き換え、表現を大いに弱めている。中国側はこれに同意できない。
もう一度述べれば、日本側の案文は、共同声明第7項に比べ2ヶ所違つている。即ち、「アジア・太平洋地域において・・・」が「アジア・太平洋地域においてもまたは他のいずれの地域においても・・・」となつている点と、「反対する。」が「反対である。」になつている点である。この2点について今日更に相談して解決したいが如何であろうか。
4.これに対し、本使より、「結構である」と述べ次のとおり発言した。
「反対である」に書き換える問題については、私の考え方は、既に述べたとおり、日本語のこの表現の方が事実に則しており、またこの表現の方が良いということであり、他方、中国語の表現を変える積りはない。地域の問題についても何度も説明したとおり、は権反対についてはアジア・太平洋地域に特にメンションした上で、世界全体に対しても適用されるべきであるので、新しい案文のように「他のいずれの地域においても」という表現を取り入れたものである。この地域の問題については中国側はどう考えるか。
5.これに対し韓副部長は、次のとおり述べた。
この問題については、私が既に説明したとおり、中国側案の反は権条項の第2文は中日共同声明第7項の表現を引用している。この表現をそのまま引用した理由は簡単である。それは、中日両国は共にアジア・太平洋地域に属しており、は権反対は先ずアジア・太平洋地域において強調されるべきであると考えるからだ。日本側はアジア・太平洋地域のほかに「他のいずれの地域においても」と付け加えたいという要望をもつている。これについては、私たちは考慮できる。日本側は「他のいずれの地域においても」との字くを付け加える理由を述べたし、中国側もこれに関する意見を述べた。この点については、中国側は譲歩しても構わない。即ち、「アジア・太平洋地域においても」の後に「他のいずれの地域においても」という表現を付け加えても構わない。
しかし、「反対である。」という表現はダメである。「反対する。」でなければならない。この問題は単に文字上の表現問題ではなく、中国語にしても日本語しても「反対する」と「反対である」の表現はやはり違いがある。語調に強弱の違いがある。それ故「反対する」を「反対である」に書き換えることには同意できない。
6.これに対し、本使より、次のとおり述べた。
「反対である」と書き換えることは、第1にこれが日本語の問題であること、第2に「反対する」という表現を使つた場合、日本語によれば何らかの行動を意味するようなことになるとの問題がある。既に申し上げたとおり、この表現は英語で「TO BE OPPOSED」あるいは「EACH IS OPPOSED」と訳されており、日本語の感じでは「反対である」というふうに訳せるし、日本語と英語との表現を一かんしたものにしたい。
わが方の考え方は以上であるが、韓副部長がただ今述べられたことは東京に報告する。
7.更に本使より、「これ以外の条文で更に何かうかがうことがあれば聞きたい」と述べたところ、韓副部長は、「更に有る」と答え、次のとおり述べた。
これまでの会談で述べたように反は権条項以外にいくつかの問題が残つている。しかしこれらの問題の解決は困難ではないと言つている。
(注:ここで王ギョウウン次長が韓副部長にミミ打ちしたが、それは当方団員によれば「反は権条項の問題を先にかた付けるべきであり、この続きは次の会談ということでよいのではないか」という如きささやきであつたところ、これに対し韓副部長は「時間に限りがある。急がねばならないだろう。」と答えていた由。更に王のりん席のテイミンより紙へんが回されて韓副部長にとどいたところ、これは後述の韓副部長の発言より推察して、地域の問題と「反対する」の問題をバーゲンにすべしとのリマインドを行なつたもののように感じられた。)
8.本使より、「もし本日時間が十分でなければ月ように会談を開き、中国側の考えを聞きたい」と述べたところ、韓副部長は「第3条における2つの問題に関し、中国側の意見を再びくり返し述べたい」として次のとおり述べた。
(1)もし日本側が「反対する」という言ばを使い「反対である」という言ばを使わないことに同意するなら、われわれは「アジア・太平洋地域においても、または他のいずれの地域においても」という地域範囲の問題について、日本側が提出した案文のように「アジア・太平洋地域においても」の後に「また他のいずれの地域においても」との表現を付け加えても構わない。
(2)今までの討議は第3項の第1文についてのみ行なわれたが、第2文についても双方に食い違いがある。先ほど私が述べたように、この問題の解決についても、やはりお互いに相談する必要がある。中日共同声明にない表現、つまり「他のいずれの地域においても」という表現を付け加えることには譲歩できるが、「反対する」を「反対である」に書き換えることには同意できない。このことから見ても反は権条項の問題において、われわれ双方は未だ意見の完全な一致がない。大使が先ほど言われたように、このことを東京に報告して欲しい。
(3)本日の会談は、これまでにし、来週月よう日3時半に会談を開きたい。
9.これに対し本使より、「これで本日の会談を終了することに同意するが、その前に一点だけ申し上げたい。」と述べた上、次のとおり述べた。
「反対する」を「反対である」に変えないことに日本側が同意するのであれば、「他のいずれの地域においても」という表現を付け加えることについて譲歩しても良いとの先ほどの中国側の発言については、地域の問題と「反対する」「反対である」という問題とは、それぞれ性質の違う別の問題であり、これはからめるべきではないから、自分としては次のように理解する。すなわち中国側は「地域」の問題では譲歩できるが、「反対する」「反対である」の問題については日本側の案に同意できないということとして自分は、東京に報告する。
10.これに対し韓副部長は次のとおり述べた。
(1)反は権条項についてお互いに相談し合う必要がある。既に述べたように、日本側のいわゆる「新らしい案文」は中国側はこれは好ましい提案ではないと考えている。また私たちは8月2日に中国側が提出した案文は中日双方の利益と双方の意見に最も合致した良い案文と考えるので、これをけん持する。また地域の問題では、中国側は譲歩するが、「反対である」の表現には同意できない。
(2)月よう日の会談では、反は権条項全体についての日本側の見解を聞きたい。この問題において意見の一致をみてから他の条項を討論したいと考える。
11.最後に本使より、「この段階においては東京とも相談せねばならないので、月よう日の午後会談を行なうか否かについては月よう日の朝に中国側に連絡したい」と述べたところ、韓副部長はこれに同意し、以上をもつて本日の会談を終了した。
(了)