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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中平和友好条約交渉(第2回外相会談)

[場所] 北京
[年月日] 1978年8月10日
[出典] 情報公開法に基づき公開された外務省資料
[備考] 
[全文]

極秘

総番号 (TA) R057275  5644  主管

78年  月10日03時30分 中国発

78年08月10日05時57分 本省着   ア局長

外務大臣殿  佐藤大使

日中平和友好条約交渉(第2回大臣会談)

第1608号 極秘 大至急

(限定配布)

第2回会談は9日午後4時20分より午後5時20分まで(休けい15分)行なわれたところ、その記録次のとおり。(出席者は第1回会談休けい後と同じ)

1.冒頭コウ華部長より、貴大臣の午前中の発言に続き中国側の態度を表明したいとして次のように述べた。

(1)平和友好条約のは権条項は、先ず中日双方をこう束する。中日双方は既には権を求めないことを宣言している。現在のみならず将来経済が発展しても然り。中国のこのような態度はアジア及び世界の人民に知れわたつている。条約にこのことを書き入れるのも、は権を求めぬ中国の決意の表れである。

(2)午前中の外相閣下の発言中、東南アジア諸国の態度に言及があつたが、確かに東南アジア諸国はこの条約交渉に関心を寄せ、条約の締結を願つている。条約締結をかん迎するのはソ連社会帝国主義の現実のきよういがあるからであり、次に歴史的経験より日本に疑念をいだいているからである。東南アジア諸国は中国と同じく帝国主義の侵略を受け損害をこうむつている。そのためソ連に対し警かい心をもち、中国の反は権に理解をもつている。日本については率直に言えば日本軍国主義の再現に対してはやはり不安をもつている。そのため中国は、一再ならず日本の友人のみな様に反は権条項を含む条約の締結は、日本に対する印象を改めるために有利であるといつてきた。これが実際に則した言い方であるとともに、日本に対する友好的立場から申し上げている。

(3)貴大臣は日本国民の見方についても触れられた。閣下は共同声明発出以来反は権は国民の中に定着していると言われた。われわれは閣下のこの言い方は、反は権の原則が広く日本国民によりよう護されていることを表わすと考える。われわれは共同声明の基礎の上に条約を早期締結することは両国民の願望と利益に合致すると考えている。しかし日本の一部がこれに反対していることも知つている。世界中どこでも良いこと、正しいことが一部の人に反対されるのは不思議ではない。しかしこれに反対するのはひとにぎりの人でしかない。正直にいつて彼らは、条約の締結にではなく中日友好、国交正常化そのものに反対している。彼らは両国民の意思を代表していない。もし日本の為政者がこれらの人を代表するなら国民多数の意思に反することとなる。一にぎりの人にくつすることは多くの人をうら切ることとなる。

(4)外相閣下が就任以来一かんして条約の締結に積極的態度をとつてきたことはよく知つている。閣下は午前中再び条約締結への情熱を表明された。中国側は閣下のこの努力を称さんする。サトウ・韓念リュウ間では既に14回の会談を行ない、一定の進展を見せ、反は権については新しい案を出し、双方の意見は段々と接近している。ここに私は外相閣下及び友人のみな様に、双方の会談を一挙に妥結にもつていくため8月7日の日本側案文に原則的に同意する。すなわち反は権条項第1文を「この条約は、第三国との関係に関する各締約国の立場に影響を及ぼすものではない。」との案文である。これは中国の条約締結のための今一度の努力の表われである。条文の具体的表現については、細かい問題点が残つているかも知れないが、これらは解決しにくい問題ではない。これらのし事は、サトウ・韓念リュウの間でやらせることとしたい。外相閣下の同意があれば外相閣下と一しょにサトウ・韓念リュウ会談の成こうをいのりたい。

2.コウ部長が所要によるとして10分間の休けいを提案越し、約15分の休けいの後、大臣より次のように述べた。

(1)私は過去20数年間日中問題で一かんして行動をとつてきた。日中議員連盟が成立する前、日本の雑し「中央公論」に日中提携すべしとの記事を載せた。米国に無条件に追随するのはアジアにおける日本のこ立化を招くと述べた。これについては党現委にふせられ強い反対を受けた。はしなくも外務大臣就任の時、日中友好条約の締結は、私でなければえいきゆうにできないと感じた。国内における外務大臣としての一かんした行動はよく御存知のとおりである。就任以来各国に行き行動してきた。その間いかなる所でも中国の助けとなり、反は権闘争によいように行動してきた。今回非常な無理をおして訪中を行なつた。もしこの時期に条約交渉が成こうしなければ日中関係は今後相当期間停滞し、ASEANの国々は日本及び中国と提けいし、平和とはん栄にこうけんすることはできなくなる。そういう理由から、今次訪中に当つては私の生がいと運命をかけて訪中した。日本の政治家として生命をかけて参った。これは日本の政治家として貴国をあいし、より以上に日本をあいし、アジアをあいし、かつ戦争の反省より出た私の願いである。私は先ほど貴大臣の発言が妥締{前2文字ママ}の方向に大きく動いたことに深くおれいする。大臣閣下、韓念リュウ閣下が真に日本、中国、アジアの未来のために決断されたことを高く評価する。私は、もしこの条約が妥結するなら日本国民に対し、私の口から私の責任において、この妥結に至つたのは、中国の友人、中国の人民が日本に対する友情を示し、真にアジアの平和のたもに{前3文字ママ}決断したからであることを日本の友人に対して率直に伝えるつもりである。ここに先ほどの大臣閣下の提案に賛意を表し、韓・サトウ間で案文のツメを行なうことを希望する。

(2)なお貴大臣の見解につき簡単に付言したい。まず極めて率直にわが日本に対して率直な注意を友人としていただいたことを心からうれしく思う。ソ連のきよういについては、全く同意する。日本に対する東南アジアの疑念、不安、残念ながら、これもよく私の反省するところである。先般のASEAN外相会議でも特にこの点に留意してきた。今後も中国に対しても東南アジアに対しても、中国及び東南アジアのはん栄の中に日本の進路を求めていくことを誠意と実行により示していただきたい。日本軍国主義が再現しないことを今後の実行によつて示していきたい。

(3)日本の中に一部の反対者がいることは事実である。しかし日本の世論調査で、無条件で条約を妥結させるというのは30%近くしかいない。残りの、いわばしん重派の人々は、日中友好がアジアの基礎であることはよく知つているが、これらの人々は日中条約の帰結が真の両国の発展とアジアの平和のためなのか、それともソ連に対する中国の戦略の一かんに日本が引きずり込まれるかという点に不安をいだいている。この友好条約の締結により、この不安は一そうされるであろう。両国が純すいに手をにぎりこれをみた東南アジア諸国も純すいに足なみをそろえる時本当に反は権に対する闘いも有効なものとなると信ずる。反は権の戦いは現在の状況だけではなく、未来えいごうにわたつて、それぞれの立場から反は権闘争は続けられるべきことを確信する。目の前のことにとらわれ、1国のみを相手にしていない。日中のこの条約はその中に名存実亡のものとなり、未来えいごうのものとはならない。締結のあかつきには、日本にもいろいろの問題がたくさんある。そのためには貴中国の援助も必要である。しかし貴中国もいろいろの問題をかかえている、その場合私はいつでも中国を訪れ、また貴国よりも日本へお越し願い、すん分のあなどりを他国より許さぬよう協力し対処する所存である。

3.ついて大臣より、サトウ・韓念リュウ会談において双方が努力されることを願う旨発言があり、大使より時間については明日何時でも都合のよい時にしたいと述べ、コウ部長はこれを了承した。

4.更に大使より、本件は極めて重大なことであるので、サトウ・韓会談で案文を合意するまで外部には出さないこととしたい旨述べ、コウ部長は、サトウ・韓交渉で一致が得られるまで外部に発表しないことに同意した。

5.最後にコウ部長より、ただ今の貴大臣の発言をうかがい、貴大臣が中国と同じようにこの会談を完成させる熱情をいだいていることを感じた。これは日本政府と日本人民の願望を反えいしていると考える、両国人民の願いを正しく反えいしてこそ3年半の交渉を終結させ、両国人民の願いに沿えるものと信ずる旨発言があり会談を了した。

(了)