データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本国とノールウェーとの間の通商航海条約

[場所] 東京
[年月日] 1957年2月28日(1957年2月28日署名,1957年7月30日批准書認証)
[出典] 外交青書1号,194−200頁.
[備考] 
[全文]

昭和三十二年二月二十六日 署名の内閣決定

同年同月二十八日 東京で署名

同年五月十七日 国会承認

同年七月三十日 批准の閣議決定

同年同月同日 批准書認証

 日本国政府及びノールウェー王国政府は、両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、かつ、両国の国民の間の貿易上及び通商上の関係を促進することを希望して、無条件に与えられる最恵国待遇及び内国民待遇の原則を一般的に基礎とする通商航海条約を締結することに決定し、そのため、次のとおりそれぞれの全権委員を任命した。

日本国政府

日本国外務大臣 岸信介

ノールウェー王国政府

ノールウェー外務大臣 ハルヴァルド・ランゲ

 これらの全権委員は、互にその全権委任状を示し、それが妥当であると認められた後、次の諸条を協定した。

第一条

1 いずれの一方の締約国の国民も、他方の締約国の領域に当該他方の締約国の法令の規定に従つて入ることを許され、かつ、その入国に関するすべての事項について最恵国待遇を与えられる。

2 いずれの一方の締約国の国民も、他方の締約国の領域内において、滞在、旅行及び居住に関するすべての事項について、内国民待遇及び最恵国待遇を与えられる。ただし、この待遇を受けるに当つては、一般的にすべての外国人に同様に適用される当該他方の締約国の特別の法令に従わなければならない。

第二条

 いずれの一方の締約国の国民も、他方の締約国の領域内において、

(a) 調査研究、自由職業の遂行及び商業、工業、金融業その他の事業活動に関するすべての事項に関して、最恵国待遇を与えられ、

(b) 身体の保護及び保障に関して、内国民待遇及び最恵国待遇を与えられ、

(c) 不動産の取得、所有、賃借、占有及び使用に関して、相互主義に基いて最恵国待遇を与えられ、

(d) 動産の取得、所有、賃借及び占有に関し、並びにすべての種類の財産の処分に関して、最恵国待遇を与えられ、

(e) 自己の権利の行使及び擁護についてすべての審級の裁判所の裁判を受け、及び行政機関に対して申立をする権利に関して、内国民待遇及び最恵国待遇を与えられ、

(f) 平時及び戦時においてすべての強制軍事服役及びその代り課されるすべての金銭的負担を免除され、並びにすべての強制公債、軍事取立金、軍用徴発又は強制宿営に関して、内国民待遇及び最恵国待遇を与えられ、また、

(g) 他方の締約国及び第三国の国民に課せられる租税、手数料その他の課微金と異なるか、又はそれより高いいかなる種類の租税、手数料その他の課徴金も課されることはない。

第三条

1 いずれか一方の締約国の法令に従つて組織され、かつ、その領域内に住所を有する商業、工業又は金融業の会社及び組合(海運業又は保険業の会社及び組合を含む。以下「会社」という。)は、他方の締約国の領域内において、当該一方の締約国の会社とみなされる。

2 前条の規定は、適用しうる範囲内で会社にも適用する。

第四条

1 いずれの一方の締約国の国民及び会社も、他方の締約国の領域内において、その財産の保護に関して、内国民待遇及び最恵国待遇を与えられる。

2 いずれか一方の締約国の国民及び会社の住居、事務所、倉庫、工場、店舗その他の建造物で他方の締約国の領域内に所在し、かつ、合法的な目的のために使用されるものは、不法な侵入及び妨害を受けないものとする。これらの建造物及びその中にある物件について必要がある場合に行なう当局の捜索及び検査は、占有者の便宜及び業務の遂行に周到な考慮を払い、法令に従つてのみ行うものとする。

第五条

1 いずれの一方の締約国も、他方の締約国の領域内において第三国が領事官を置くことを認められる港、都市その他の場所又は両締約国が合意する他の場所に領事官を置く権利を有する。

2 いずれの一方の締約国の領事官も、相互主義に基き、他方の締約国の領域内において、当該他方の締約国の領域内で職務を遂行する領事館の権利、権限、名誉、特権、免除及び除外に関して、いかなる第三国の領事官に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

第六条

1 いずれか一方の締約国の国民が他方の締約国の領域内で死亡した場合には、当該他方の締約国の当局は、現行の手続に従つて実行可能な限度において、及び通常入手可能な情報の範囲内で、もよりの地にあるその死亡者の所属国の権限がある領事官に通告するようあらゆる努力を払うものとする。当該死亡者がその死亡地の国の領域内に既知の相続人又は遺言執行者を残さなかつた場合には、権限がある領事官は、死亡地の国の領域内で、その国の法令に定める手続に従つて死亡者の相続人を代理する権利を有する。その領事官は、相続財産が所在する領域の国の法令に反し、又は矛盾しない限り、その相続財産の正当な管理及び清算に必要なすべての手続及び行為を行うことができる。この条のいかなる規定も、当該死亡者の財産が所在する領域の国の裁判所の管轄権を害するものと解してはならない。

2 前項の規定は、いずれか一方の締約国の国民で他方の締約国の領域内に財産を有するものが、その領域内に既知の相続人又は遺言執行者を残さないでその領域外で死亡した場合についても、適用する。

第七条

1 各締約国は、他方の締約国の産品及び他方の締約国の領域への輸出に向けられる産品に対して、輸出若しくは輸入に対し若しくはこれに関連して課され、又は輸出品若しくは輸入品のための支払手段の国際的移転に対して課されるすべての種類の関税及び課徴金、当該関税及び課徴金の賦課の方法並びに輸出及び輸入に関連するすべての規則及び手続に関して、最恵国待遇を与える。

2 いずれの一方の締約国の産品も、他方の締約国の領域内において、国内における課税、販売、分配、保管及び使用に影響があるすべての事項に関して、内国民待遇及び最恵国待遇を与えられる。

第八条

1 いずれの一方の締約国も、貿易又は為替の制限を、他方の締約国の国民及び会社の商業上又は経済上の利益に対して不必要に有害な又はみだりに差別的な方法で行つてはならない。

2 さらに、いずれの一方の締約国も、為替制限を、自国の領域への及びその領域からの旅客及び貨物の輸送に他方の締約国の商船が参加することを妨げるような方法で行つてはならない。

第九条

1 各締約国は、次のことを約束する。

(a) 自国政府が所有し、又は支配する企業及びその領域内で排他的の又は特別の特権を与えられた独占企業又は機関が、他方の締約国の通商又は航海に影響を与える輸出又は輸入を伴う販売又は購入を、商業的考慮(価格、品質、入手可能性、市場性、運送その他の条件に関する考慮をいう。)に従つてのみ行うべきこと。

(b) 当該他方の締約国の国民及び会社が、当該商品の前記の販売若しくは購入又は運送に参加するため競争する適当な機会を通常の商慣行に従つて与えられるべきこと。

2 各締約国は、他方の締約国の国民及び会社に対し、政府による需品の購入及び特権の賦与その他政府による契約に関し、第三国の国民及び会社に与える待遇と比べて公正かつ衡平な待遇を与えなければならない。

第十条

 いずれか一方の締約国の国旗を掲げる船舶で、国籍の証明のため当該締約国の法令により要求される書類を備えているものは、公海並びに他方の締約国の港、場所及び水域において、当該一方の締約国の船舶と認められる。

第十一条

1 いずれの一方の締約国の商船も、他方の締約国の商船及び第三国の商船と均等の条件で、外国との間における通商及び航海のため開放されている他方の締約国のすべての港、場所及び水域に旅客及び積荷とともに入ることができる。これらの船舶は、当該他方の締約国の港、場所及び水域において、すべての事項に関して内国民待遇及び最恵国待遇を与えられる。この待遇は、係留場所の割当及び積卸の施設その他すべての種類の便益に関し、並びに政府、公共機関、特許業者及びいずれかの種類の企業の名において又はそれらの利益のために課されるすべての種類の課徴金に関して、与えられるものとする。

2 いずれの一方の締約国の商船も、他方の締約国の領域に又はその領域から船舶で輸送することができるすべての貨物及び人を輸送する権利に関して、当該他方の締約国によつて内国民待遇及び最恵国待遇を与えられる。これらの貨物及び人は、関税その他すべての課徴金及び手数料、奨励金及び関税の払いもどしその他この種の特権並びに税関事務に関して、当該他方の締約国の商船で輸送される同様の貨物及び人が与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

第十二条

1 両締約国の沿岸貿易は、この条約の規定の適用から除外され、各締約国の法令に従つて規制される。もつとも、各締約国は、相互主義に基く限り外国の船舶に沿岸貿易を許すことができる。

2 いずれか一方の締約国の領域内の二以上の輸入港向けの貨物及び旅客を外国で積載した他方の締約国の商船は、常に仕向国の法令に従い、それらの港の一でその貨物及び旅客の一部を陸揚し、さらに、他の仕向港まで航海を続けてその港で残りの積荷及び旅客を陸揚することができる。同様の方法及び条件により、いずれの一方の締約国の商船も、外国向けの航海のため他方の締約国の二以上の港で貨物及び旅客を積載することができる。

第十三条

1 いずれの一方の締約国も、他方の締約国の船舶に対し、難破、海上損害又は不可抗力による寄航の場合には、同様の場合に自国の船舶に与えると同一の援助、保護及び免除を与えるものとする。それらの船舶から救い上げられた物品は、すべての関税を免除される。ただし、それらの物品が国内消費のため搬入された場合には、所定の関税を支払わなければならない。

2 いずれか一方の締約国の船舶が他方の締約国の沿岸で座礁し、又は難破した場合には、当該他方の締約国の当局は、もよりの地にある船舶所属国の権限がある領事官にそれを通告するものとする。

第十四条

 いずれか一方の締約国の商船が他方の締約国の領水内にある間にその船員がその商船から脱船した場合には、当該他方の締約国の当局は、当該脱船者の逮捕、拘禁及び同船への引渡のため同船の所属国の権限がある領事官が要請し、かつ、生ずべき経費の償還について保証が与えられることを条件として、法令の範囲内で、その当局の権限内にあるできる限りの援助を与えなければならない。ただし、この条の規定は、その脱船が行われた国の国民である船員には、適用しない。

第十五条

 いずれの一方の締約国の権限がある領事官も、他方の締約国の領域内において、自国の商船内の秩序を維持し、及び船長と乗組員との間の紛争(賃金及び労務契約に関する紛争を含む。)を裁定するための措置を執ることができる。もつとも、当該他方の締約国の当局は、次の場合には、自国の領水内における同船内の秩序のびん乱又は犯罪に対し、管轄権を行使することができる。

(a) 同当局が、その秩序のびん乱又は犯罪を、船舶外の平和及び秩序に影響を及ぼすおそれがある性質のものであると認める場合

(b) 船長若しくは乗組員以外の者又は当該他方の締約国の国籍を有する者が、その秩序のびん乱又は犯罪に関与している場合

(c) その犯罪が、関税、公衆衛生又は海上における人命の安全に関する当該他方の締約国の法令に関係がある場合

(d) その犯罪が重大な犯罪を構成する場合

第十六条

1 この条約の規定は、各締約国が、次の事項に関する措置を採用し、又は実施することを妨げるものと解してはならない。

(a) 公共の安全若しくは国防又は国際の平和及び安全の維持。ただし、第二条(f)の規定を害してはならない。

(b) 武器、弾薬及び軍需品の取引

(c) 公衆衛生の保護並びに病気、害虫及び寄生物に対する動植物の保護

(d) 金又は銀の貿易

2 第二条(g)の規定にかかわらず、各締約国は、相互主義に基き、又は二重課税の防止若しくは歳入の相互的保護のための協定に基き、租税に関する特別の利益を与える権利を留保する。

3 第七条1の規定は、いずれか一方の締約国が与える次の特別の利益には適用しない。

(a) 国境貿易を容易にするため隣接国に与える特別の利益

(b) 当該一方の締約国が加盟国となる関税同盟又は構成地域となる自由貿易地域の構成国に与える特別の利益。ただし、その利益が関税及び貿易に関する一般協定の規定に従つて与えられることを条件とする。

(c) 内国漁業の産品に与える特別の利益

第十七条

1 「内国民待遇」とは、一締約国の領域内において、当該締約国のそれぞれ国民、会社、産品、船舶その他の対象が同様の場合にその領域内で与えられる待遇よりも不利でない条件で与えられる待遇をいう。

2 「最恵国待遇」とは、一締約国の領域内において、第三国のそれぞれ国民、会社、産品、船舶その他の対象が同様の場合にその領域内で与えられる待遇よりも不利でない条件で与えられる待遇をいう。

第十八条

1 各締約国は、他方の締約国がこの条約の実施に関する事項について行う申入れに対し、好意的考慮を払い、かつ、その申入れに関する協議のため適当な機会を与えなければならない。

2 この条約の解釈又は適用に関する両締約国間の紛争で外交交渉により満足に調整されないものは、両締約国が他の何らかの平和的手段による解決について合意しなかつたときは、国際司法裁判所に付託するものとする。

第十九条

1 この条約は、批准されなければならない。批准書は、できる限りすみやかにオスローで交換されるものとする。

2 この条約は、批准書の交換の日の後一箇月で効力を生ずる。この条約は、五年間効力を有し、その後は、この条に定めるところにより終了するまで効力を存続する。

3 いずれの一方の締約国も、他方の締約国に対し一年前に文書による予告を与えることによつて、最初の五年の期間の終りに、又はその後いつでもこの条約を終了させることができる。

 以上の証拠として、各全権委員は、この条約に署名調印した。

 千九百五十七年二月二十八日東京で本書二通を作成した。

日本国のために

岸信介

ノールウェーのために

ハルヴァルド・ランゲ

議定書

 日本国とノールウェーとの間通商航海条約(以下「条約」という。)に署名するに当り、下名の全権委員は、各自の政府から正当に委任を受け、さらに、条約の不可分の一部と認められる次の規定を協定した。

1 第一条1の規定に関しては、いずれの一方の締約国も、旅券及び査証に関するすべての事項を相互主義に基く特別の協定により規制すべきことを要求することができる。

2 第二条(a)の規定に関しては、いずれの一方の締約国も鉱業に従事する権利が相互主義に服すべきことを要求することができる。

3 条約のいかなる規定も、著作権及び工業所有権に関して、いかなる権利をも許与し、又はいかなる義務を課するものと解してはならないと了解される。

4 条約において「領事官」とは、派遣国が領事職務を執行する権限を与えた個人で接受国の当局が認可状、臨時の許可又は他の許可を与えたものをいう。

5 条約中の最恵国待遇の規定は、(a)千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第二条の規定に基いて日本国がすべての権利、権原及び請求権を放棄した地域に原籍を有する者に対し、又は(b)同平和条約第三条に掲げるいずれかの地域に対する行政、立法及び司法に関し同条後段に掲げる事態が継続する限り、同地域の原住民及び船舶並びに同地域との貿易に対して日本国が与える権利及び特権については、適用しない。

6 条約中の最恵国待遇の規定は、ノールウェーがデンマーク、フィンランド、アイスランド及びスウェーデンに対してのみ与えているか、又は与えることがある特別の利益については、適用しない。

7 条約(この議定書を含む。)のいかなる規定も、いずれか一方の締約国が関税及び貿易に関する一般協定、国際通貨基金協定又はそれらを修正し若しくは補足する多数国間の協定の締約国として有するか、又有することがある権利及び義務については、両締約国が当該協定の締約国である限り、影響を及ぼすものではないと了解される。さらに、いずれか一方の締約国がそのいずれかの協定の締約国でなくなつた場合には、両締約国は、その時の事情に照らし、貿易、為替又は関税に関する条約の規定について修正を必要とするかどうかを決定するため、直ちに協議を行うものとすることが了解される。

 以上の証拠として、各全権委員は、この議定書に署名調印した。

 千九百五十七年二月二十八日に東京で本書二通を作成した。

日本国のために

岸信介

ノールウェーのために

ハルヴァルド・ランゲ