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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 原水爆実験禁止問題に関する岸信介首相宛てのマクラミン英首相書簡

[場所] 
[年月日] 1957年4月10日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),796頁.外務省および外交資料館所蔵文書.
[備考] 
[全文]

拝啓

 松下博士を閣下の特使として紹介し,英国政府が実施しようとしている核実験についての日本国会及び日本国民の見解を示された三月二十九日付の貴簡を有難く受領しました。

 松下博士は,この書簡を四月二日私に手交し,また,わが国の核実験が「実験に関係のない諸国」及び日本の世論に及ぼすと考えられる政治的影響について,注意を喚起されました。

 松下博士は,日本政府の見解として,英国政府が予定どおり実験を実施することを固執するならば,短期的には実際的利益が得られるにしても,長期的には,非常な政治的不利益をこうむるであろうと述べられました。同博士は,米国及び英国が世論を無視して実験を続けるならば,アジア諸国はその気持に反してもやむを得ず中立的立場をとるようになることを恐れると述べられました。私は,松下博士に日英両国政府間の往復文書につけくわえることは何もないと申し述べましたが,今日世界の平和は英米両国が侵略に対して強力な阻止兵器をもつていることに依存していると考えることを更に確認いたしました。しかし,英国の戦争阻止兵器は実験して有効な機能をもつことが示されるまでは,十分効果的なものにはなりえません。私は,純枠に専ら防衛の見地をもととした英国の政策が,十分な効果をあげるのに必要な技術上及び実際上の裏付を得るために必要な措置を講じているからといつて,日本又は他のアジア諸国が中立的立場をとるということは不合理であることに貴大臣が同意されるものと確信いたします。アジアの自由諸国は,西欧諸国と同じく,この政策のもたらする保護の利益をうける立場にあります。

 これに関連して,私は松下博士に対し,この実験を実施することは軽卒に決定されたものではないと強調いたしました。私は,一般軍縮計画の適当な段階において核実験の禁止のため努力することが今なお英国政府の政策であること,及び英国政府は現在でも十分な安全保障をともなう実験制限のために作成される実際的提案があれば検討する用意があることを説明しました。

 ところで,われわれは,日本がカナダ及びノールウェーと共同で提案して国連総会から最近軍縮小委員会に付託された決議に従い,実験の事前登録及び制限的監察を行うという構想に対する支持が得られることを希望しています。

 私は,この機会に,英国政府は貴大臣書簡で明らかにされた原子兵器の使用問題に対する日本国民の特別な感受性を十分理解していることを確言いたします。英国政府は日本国民が一九四五年に自ら原爆の被害を受けたことを忘れていません。また,日本国会の決議は,英国で忘れられているわけではありません。しかし,私が真摯に考えており,また最近では四月一日に下院で言明したとおり医学的,生物学的見地からは今次の核実験のもたらす放射能の影響は極めて微少であるという見解を私は維持しなければなりません。広範な安全保障のための予防措置がすでに講ぜられており,私は実験区域から約四千哩も離れている日本に危険をもたらすだろうということには同意出来ません。

 私は,この書簡及び今回お会いできた松下博士との会談が,この夏実施される核実験についての日本政府及び国民に代つて貴大臣が表明された危惧を軽減し,また,この忌憚のない意見の交換によつて,両国間に幸いにも存在する友好関係が更に促進されることを信じます。    敬具

ハロルド・マクミラン

 岸信介閣下