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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本国とユーゴースラヴィア連邦人民共和国との間の通商航海条約,議定書及び交換公文

[場所] ベルグラード
[年月日] 1959年2月28日
[出典] 外交青書4号,285−291頁.
[備考] 
[全文]

 日本国政府及びユーゴースラヴィア連邦人民共和国政府は,両国間の友好及び相互協力の関係を強化し,かつ,その経済関係の発展を促進することを希望して,衡平と相互利益の原則を基礎とする通商航海条約を締結することに決定し,そのため,次のとおりそれぞれの全権委員を任命した。

日本国政府

ユーゴースラヴィア連邦人民共和国

                   駐在日本国特命全権大使 加瀬俊一

ユーゴースラヴィア連邦人民共和国政府

           ユーゴースラヴィア連邦人民共和国外務次官 ボグダン・ツルノブルニヤ

 これらの全権委員は,互にその全権委任状を示し,それが良好妥当であると認められた後,次の諸条を協定した。

第一条

 いずれの一方の締約国の国民も,他方の締約国の領域内において,次の待遇を与えられる。

(a) 法律による身体の保護に関して,内国民待遇及び最恵国待遇

(b) 財産の保護に関して,最恵国待遇

 いずれの一方の締約国の国民も,内国民待遇及び最恵国待遇に基いて,他方の締約国の機関に対して自己の権利を擁護し,及び当該他方の締約国の法律に従つて,原告又は被告として裁判所において訴訟を行うことを認められる。

第二条

 いずれの一方の締約国の国民も,他方の締約国の領域において,入国,旅行,居住及び滞在の権利に関して,最恵国待遇を与えられる。

 財産の取得及び事業活動その他の活動に関し,いずれか一方の締約国により第三国の国民に与えられているか又は将来与えられることがあるいかなる利益,便宜,特権又は特典も,他方の締約国の国民に与えられる。ただし,いずれの一方の締約国も,不動産の取得及び鉱業に従事する権利に関して,他方の締約国が当該一方の締約国の国民に与える待遇より有利な待遇を他方の締約国の国民に与えることを義務づけられない。

 いずれの一方の締約国の国民も,他方の締約国の領域内において,最恵国の国民に課される租税,手数料その他の課徴金と異なるか又はそれより高いいかなる種類の租税,手数料その他の課徴金も課されることはない。ただし,各締約国は,相互主義に基いて租税に関する特定の利益を与える権利又は二重課税の防止若しくは歳入の相互的保護のための協定によつて租税に関する特別の利益を与える権利を留保する。

第三条

 いずれの一方の締約国の国民も,他方の締約国の領域内において,すべての軍事服役又は警備隊若しくは民兵隊への服役を免除され,並びにそれらの服役の代りとして課されるすべての租税及び軍事課徴金を免除される。

 前記の免除及びすべての強制戦時公債,軍事取立金,軍用徴発又は強制宿営に関して,いずれの一方の締約国の国民も,第三国の国民に与えられる待遇より不利な待遇を与えられることはない。

第四条

 いずれか一方の締約国の法律に従つて組織され,かつ,その領域内に住所を有する商業,工業及び金融業に従事する法人(海運業又は保険業に従事する法人を含む。)は,他方の締約国の領域内においても法人として認められる。それらの法人の能力は,当該他方の締約国の国内法令に照らして定められる。

 それらの法人は,他方の締約国の領域内において,当該国の法令に従つて代理人によつて代表される権利を有する。

 この条約の第一条,第二条及び第三条の規定は,法人に適用しうる限り前記の法人にもひとしく適用される。

第五条

 いずれの一方の締約国も,国際法の原則及び国際慣習に従い,かつ,相互主義に基いて,他方の締約国の領域内に領事館を置くことを認められる。

第六条

 両締約国は,両国間の貿易及び航海に関するすべての事項について,相互に有利な待遇を与えるものとする。両締約国は,その法令の範囲内において,相互の商品及び役務の交換を容易にし,かつ,奨励するために必要なすべての適当な措置を執ることを約束する。

第七条

 いずれの一方の締約国も,他方の締約国の領域を原産地とする産品又はその領域を仕向地とする産品に対して,すべての種類の関税及び課徴金に関する事項,当該関税及び課徴金の賦課の制度に関する事項並びに産品の通関,移転及び保管に影響するか又は影響することがある規則及び手続に関する事項のすべてについて,最恵国待遇を与える。

第八条

 いずれか一方の締約国が第七条に掲げる事項に関して第三国の領域を原産地とする産品又はその領域を仕向地とする産品に対して与えているか,又は将来与えることがあるいかなる利益,便宜,特権又は特典も,他方の締約国の領域を原産地とする産品又はその領域を仕向地とする産品に対して与えられるものとする。

第九条

 いずれの一方の締約国も,輸入品について又はこれに関連して課されるすべての内国税その他すべての種類の内国課徴金に関する事項並びにその締約国の領域内における輸入品の国内販売,販売のための提供,購入,分配又は使用に影響するすべての法令及び要件に関する事項のすべてについて,他方の締約国の産品に対し最恵国待遇を与えるものとする。

 いずれの一方の締約国も,他方の締約国に対し,当該他方の締約国の領域を原産地とする産品の国内輸送又は通過輸送に関して,最恵国待遇を与えるものとする。

第十条

 いずれの一方の締約国も,一時的にその領域に持ち込まれ,かつ,その領域から持ち出される他方の締約国の次の物品に対し,現行の国内法令に従つて,関税及び課徴金の免除について最恵国待遇を与えるものとする。

(a) 見本。ただし,その価額が非常に少なく,かつ,宣伝の目的のためにのみ使用されるものに限る。

(b) 試験用又は実験用物品

(c) 展覧会,見本市又は共進会に出品される物品

(d) 修理され,又は仕上げされる物品

(e) 商業に使用され,かつ,商品の輸送に供された包装又は容器

第十一条

 いずれの一方の締約国も,その法令において,他方の締約国の産品の輸入,当該他方の締約国の領域への産品の輸出又は当該他方の締約国の領域を仕向地とする産品若しくはその領域を積出地とする産品の通過に対し,いかなる禁止又は制限をも設け,又は維持してはならない。ただし,第三国の同様の産品の輸入,第三国への同様の産品の輸出又は第三国を仕向地とする同様の産品若しくは第三国を積出地とする同様の産品の通過が同様に禁止され,又は制限される場合は,この限りでない。

 この原則に対する例外は,

(a) 重大な安全上の利益の理由

(b) 衛生上の理由若しくは有用な動植物の保護の理由又は

(c) 自国の対外財政状態若しくは国際収支を擁護する必要に基き許される。

 いずれの一方の締約国も,自国政府が所有し,又は支配する企業及びその領域内において排他的の又は特別の特権を与えられた独占企業又は機関が,輸入又は輸出を伴う購入又は販売を商業的考慮に従つてのみ行うことを約束する。

第十二条

 両締約国は,それぞれの法令の範囲内において,両国間の陸上交通,海上交通及び航空並びに郵便,電信及び電話による通信を容易にするために適当な措置を執ることを約束する。

第十三条

 いずれか一方の締約国の船舶の国籍は,その船舶が掲げる国旗によつて,かつ,当該締約国の権限のある当局が自国の法令に従つて発給した書類によつて,他方の締約国により認められる。

 いずれか一方の締約国の権限のある当局が発給した船舶の積量測度に関する証書(トン数証書を含む。)は,他方の締約国の権限のある当局によつて,同当局が発給した証書と同等のものと認められる。

 いずれの一方の締約国の商船も,外国との間における貿易及び航海のため開放されている他方の締約国のすべての港,場所及び水域に積荷とともに出入することに関して,最恵国待遇を与えられる。その商船及び積荷は,当該港,場所及び水域において,すべての事項に関して,最恵国待遇を与えられる。

 いずれの一方の締約国の商船も,他方の締約国の領域に又はその領域からすべての産品を輸送することを含む商業活動に関して,当該他方の締約国によつて最恵国待遇を与えられる。その商船で輸送される産品は,税関手続その他の手続に関して,最恵国待遇を与えられる。

 いずれの一方の締約国の商船の乗組員も,他方の締約国の領域内において,いかなる第三国の商船の乗組員に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

 いずれの一方の締約国の商船も,他方の締約国の領域内において,外国で積載した貨物及び旅客の全部若しくは一部を陸揚げし,又は外国向けの貨物及び旅客の全部若しくは一部を積載する目的をもつて,一の開港地から他の開港地に向つて航海を続ける権利を有する。

 この条の規定は,沿岸貿易には適用しない。

 この条約において「商船」とは,漁船,娯楽用ヨット及び運動競技用舟艇を含まない。

第十四条

 いずれの一方の締約国も,他方の締約国の船舶に対し,難破,海上損害又は不可抗力による寄航の場合には,同様の場合に自国の船舶に与えると同一の援助,保護及び免除を与えるものとする。それらの船舶から救い上げられた物品は,すべての関税を免除される。ただし,それらの物品が国内消費のため搬入された場合には,所定の関税を支払わなければならない。

第十五条

 この条約の最恵国待遇の規定は,いずれか一方の締約国が与える次の利益には適用しない。

(a) 国境貿易を容易にするために隣接国に与える利益

(b) 当該一方の締約国が加盟国となつているか又は加盟国となることがある関税同盟により与える利益

(c) 内国漁業の産品に与える利益

第十六条

 いずれか一方の締約国の国民又は第四条に定める法人と他方の締約国の国民又は第四条に定める法人との間で締結された商事契約の履行に関連して生ずる紛争に関し締約国の該当する法令に従つて正当に行われた仲裁判断は,その紛争の仲裁が当該商事契約により予知されている場合又はその紛争の仲裁への付託が紛争が生ずる前若しくは後に文書によつて合意される場合には,有効とする。

 仲裁判断の執行は,次の場合にのみ拒否することができる。

(a) 仲裁判断が,その判断がされた国の法律に従い確定判決の効力を得なかつた場合

(b) 仲裁判断が,当事者の一方に対し,その判断の執行が求められる国の現行の法令に反する行為を行うことを強制する場合

(c) 仲裁判断が,その判断の執行が求められる国の公の秩序に反する場合

(d) 仲裁判断が不利益に援用される当事者が,防禦することができる適当な時期に仲裁手続について通告を受けなかつた場合又はその当事者が,無能力者であつて正当に代理されていなかつた場合

 仲裁判断は,その判断の執行が求められる国の法律に従つて執行されるものとする。

第十七条

 各締約国は,他方の締約国がこの条約の実施に関する事項について行う申入れに対して好意的考慮を払い,かつ,その申入れに関する協議のため適当な機会を与えなければならない。

 この条約の解釈又は適用に関する両締約国間の紛争で外交上の経路を通じ,又は他の合意された解決手段によつて満足に調整されないものは,各締約国が任命する各一人の仲裁委員とこうして選定された二人の仲裁委員の合意により定める第三の仲裁委員との三人の仲裁委員からなる仲裁裁判所に決定のため付託するものとする。ただし,第三の仲裁委員は,いずれか一方の締約国の国民であつてはならない。各締約国は,いずれか一方の締約国が他方の締約国に対し紛争の仲裁を要請する旨の通告を行つた日から二箇月の期間内に一人の仲裁委員を任命するものとし,第三の仲裁委員は,次の一箇月の期間内に合意されるものとする。

 いずれか一方の締約国が二箇月の期間内に自国の仲裁委員を任命しないとき,又は第三の仲裁委員が定められた期間内に合意されないときは,いずれか一方の締約国は,国際司法裁判所長に対し,一人又は二人以上の仲裁委員を任命するよう要請することができる。

 両締約国は,前記の仲裁裁判所によつて与えられるいかなる決定にも従うことを約束する。

第十八条

 この条約は,国際連合事務局に登録するものとする。

第十九条

 この条約は,千九百二十三年十一月十六日にウィーンで署名された日本国「セルブ,クロアート,スロヴェーヌ」国間通商航海条約を廃止し,これに代るものとする。

 この条約は批准されなければならない。批准書は,できる限りすみやかに東京で交換されるものとする。

 この条約は,批准書の交換の日の後一箇月で効力を生ずる。この条約は,いずれか一方の締約国が他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告した日から六箇月を経過するまで効力を有する。

 以上の証拠として,各全権委員は,この条約に署名調印した。

 千九百五十九年二月二十八日にベルグラードで,英語により本書二通を作成した。

日本国のために

加瀬俊一

ユーゴースラヴィア連邦人民共和国のために

ボグダン・ツルノブルニヤ

議定書

 日本国とユーゴースラヴィア連邦人民共和国との間の通商航海条約に署名するに当り、下名の全権委員は、各自の政府から正当に委任を受け、さらに、同条約の不可分の一部と認められる次の規定を協定した。

1 条約中の最恵国待遇の規定は、(a)千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第二条の規定に基いて日本国がすべての権利、権原及び請求権を放棄した地域に原籍を有する者に対し、又は(b)同平和条約第三条に掲げるいずれかの地域に対する行政、立法及び司法に関し同条後段に掲げる事態が継続する限り、同地域の原住民及び船舶並びに同地域との貿易に対して日本国が与えているか、又は将来与えることがある権利及び特権については、適用しない。

2 条約第七条、第八条及び第十五条(b)の規定に関し、いずれか一方の締約国が関税同盟の加盟国に与えると同様の特別の利益を関税同盟の加盟国でない国に与える場合には、その締約国は、同一の利益を他方の締約国に対しても与えなければならないことが了解される。

3 第二条第一項の最恵国待遇の規定は、旅券及び査証に関する事項には適用せず、また、両締約国は、これらの事項を引き続き国内法令に基いて決定することが確認される。

4 条約のいかなる規定も、著作権及び工業所有権に関して、いかなる権利をも許与し、又はいかなる義務をも課するものと解してはならないと了解される。

 以上の証拠として、各全権委員は、この議定書に署名調印した。

 千九百五十九年二月二十八日にベルグラードで、英語により本書二通を作成した。

日本国のために

加瀬俊一

ユーゴースラヴィア連邦人民共和国のために

ボグダン・ツルノブルニヤ

交換公文

(往簡)

 書簡をもつて啓上いたします。本日署名された日本国とユーゴースラヴィア連邦人民共和国との間の通商航海条約に関し,本使は,為替管理に関するすべての事項について,各締約国は,両国が当時国である国際通貨基金協定の原則と精神を引き続き遵守するとの日本国政府の了解を閣下に通報する光栄を有します。

 本使は,さらに,閣下が,前記のことがユーゴースラヴィア連邦人民共和国政府の了解でもあることを貴国政府に代つて確認されることを要請する光栄を有します。

 本使は,以上を申し進めるに際し,ここに重ねて閣下に向つて敬意を表します。

 千九百五十九年二月二十八日

                  日本国特命全権大使 加瀬俊一

 ユーゴースラヴィア連邦人民共和国

    外務次官 ボグダン・ツルノブルニヤ閣下

(返簡)

 書簡をもつて啓上いたします。本大臣は,本日付の閣下の次の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。

(往簡のとおり)

 本大臣は,さらに,前記のことがユーゴースラヴィア連邦人民共和国政府の了解でもあることをユーゴースラヴィア連邦人民共和国政府に代つて確認する光栄を有します。

 本大臣は,以上を申し進めるに際し,ここに重ねて閣下に向つて敬意を表します。

 千九百五十九年二月二十八日

                 ボグダン・ツルノブルニヤ

 日本国特命全権大使 加瀬俊一閣下