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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日英協会年次晩餐会における佐藤内閣総理大臣のあいさつ

[場所] 
[年月日] 1971年12月9日
[出典] 佐藤内閣総理大臣演説集,106−109頁.
[備考] 
[全文]

秩父宮妃殿下ならびにご列席の各位

 本夕、八十年の長きにわたり日英両国民の親善関係の増進に多大の貢献をされたこの由緒ある日英協会の年次晩餐会にご招待をうけ、一言ごあいさつを申し上げる機会を得ましたことは、私の心から喜びとするところであります。

 今年は、日英両国にとりきわめて意義深い年でありました。

 天皇、皇后両陛下におかれましては、今秋、わが国有史以来始めての外国訪問をご経験遊ばされ、ちようど約二カ月前に、国賓として英国をご訪問になられたのであります。両陛下は、エリザベス女王陛下を始めとする英国王室、英国政府ならびに英国国民の各位から心暖まる歓迎をお受けになり、日英両国の友好親善のため多大の成果をあげられました。その光景は、海を距てた日本におきましても宇宙中継のテレビにより克明に伝えられ、われわれ日本国民は、まことに大いなる感銘を受けました。その時の感激は、今もなお、私どもの胸中に鮮やかに残つております。

 日英両国皇室間のご親交はすでに久しいものがありますが、この機会に最近のご交流について申し述べれば、昭和三十六年にアレキサンドラ王女が来日され、翌年にその答礼として、本夕ここにご光臨遊ばされておられます秩父宮妃殿下が英国をご訪問になり、親しく英国王室とご交歓遊ばされ、両国友好関係の緊密化と相互理解の増進に大いに貢献されました。また昨年四月には非公式ではありますが、チャールズ皇太子殿下が訪日され、大阪の万国博を視察されましたことは、今なお私どもの記憶に新しいところであります。私は、ここに日本国民とともに、エリザベス女王およびエディバラ公が親しくわが国を訪問される日が遠からず訪れることを心から願うものであり、このご訪問により日英皇室間のご友誼が一段と深まることを祈るものであります。

 日英皇室間にみられる親善と敬愛の念は、両国の政治、経済、文化等の関係においてもひとしく見られるところであります。

 政府間の交流につきましては、昭和三十八年以来、毎年、閣僚レベルにおける日英定期協調が東京とロンドンで交互に開催されており、日英両国間の相互理解と友好関係を深める上で大きな役割を果たしております。

 また、十年前には、日英両国間の相互理解の促進を願う英国議会議員によつて、英日議員同盟が結成され、これにこたえて日本側でも志を同じくする国会議員によつて、日英議員連盟が結成され、爾来日英議員間の交流はとみに活発さを加えております。

 両国間の貿易も年々順調に拡大を続けており、最近十年間に約四倍に近い伸びを見せております。このような日英貿易の発展は、両国が互恵の原則にのつとつて貿易自由化への努力をすすめたたまものであり、今後ともいつそうこのような努力がつづけられることを希望するものであります。

 英国国民は、近代産業革命の先駆者として人類の進歩に大きく貢献されるとともに、過去数世紀にわたつて世界の秩序と安定に寄与された偉大なる国民であります。また、英国民が、文学、劇作、科学、医学等の部門においても大きな業績をあげていることはわれわれのひとしく敬服するところであります。また、最近世界の先進工業国は、環境汚染の問題の解決に取り組んでおりますが、英国は、この最も現代的な問題におきましても、またまたその輝ける英知を示され、ロンドンの街からスモッグがなくなり、テームズ河は再び魚が群れ泳ぐほどにきれいになつた事実は、われわれに深い感銘を与えるものであります。

 英国は、最近欧州共同体に加盟することを決意されたのでありますが、英国が長年自由貿易の旗頭として活躍されたことにかんがみ、共同体の一員となられた暁には、共同体の充実とその開放的な対外的政策の発展にさらに大きく貢献されるものと思います。そして新しいヨーロッパは、経済面のみならず世界政治の面においてもその重要性を一段と増すでありましよう。その意味で、英国が今後とも世界政治に果たされる役割はきわめて重要であり英国に対するわれわれの期待は大きいのであります。

 現在、国際通貨制度と世界の貿易体制はさまざまな困難に直面しています。今後の世界経済全体の繁栄と安定をはかるためには、その早急な解決が不可欠でありますが、特に日英両国は、ともに高度に貿易に依存する国として問題解決のために緊密に協力して行かねばならないのであります。

 また、今日、アジアをはじめ世界の各地に局地的な政治的、軍事的問題が見受けられますが、申すまでもなく世界の安定と繁栄のためには世界平和の確保が不可欠であり、ここにおいても日英両国の協力が強く要請されているのであります。

 このように日英両国は多くの面において共通の立場にあるのであり、それゆえにこそ両国の緊密な協力関係が今後一段と望まれるのであります。

 近年、日英間の人的交流は政治、経済、文化等あらゆる分野を通じて増大しておりますが、日英協会は、まさにこのような人的交流の推進に大きな役割を果たしてこられたのであります。ここに日英協会の輝かしい業績に対し心から敬意を表するとともに、今後いつそうのご発展をお祈りしてごあいさつを結びたいと存じます。