[文書名] 総理主催晩餐会における田中内閣総理大臣挨拶
メスメール首相閣下、ご列席の皆様
私は、今回の訪仏に際し私共によせられた心温まるご歓待に対し、メスメール首相はじめフランスの朝野の方々に心からの謝意を表します。
今回の訪仏中、ポンピドゥー大統領並びにメスメール首相と各般の問題につき隔意のない意見交換の機会を得、日仏間の協力促進の方途につき、多くの示唆を得たことは、私の最も喜びとするところであります。
今日、日欧米の三角関係ということがよく云われておりますが、日米、欧米の関係に比して緊密度の乏しかった日欧関係を緊密化する必要性が特に痛感されます。とりわけ欧州において指導的地位を占める貴国との協力関係の促進を私は極めて重視しております。貴国との間に存在する伝統的な友好関係を激動する今日の時代の要請にいかに適合せしめ、「古き友人との新しきパートナーシップ」をいかに確立するか、これが、今回の私の訪仏の課題であります。
日仏両国民は感受性の面で互いに相通じ合うものを有しており、両国の文化面を通じての交流は極めて活発であります。しかしながら全般的にみて、日仏両国民間の相互理解はまだ不十分であり、双方において一層の努力を要するものと思います。日本人でフランス文化に対し関心を有するものは極めて多いのですが、フランスが、科学、技術の分野においても数々のすぐれた業績を挙げていることは、特定の専門分野の人以外には余り知られておりません。私自身の経験を申しあげれば、青年時代にジャン・ギャバン、ルイ・ジューべ、マリー・ベルの主演するフランス映画をみて、深く感動した記憶があります。しかしながら、フランスが、たとえばアレルギー研究、海洋の開発研究、数多くの先端産業の諸分野において先駆的役割を果たしておられることは、余り知られておりません。
フランスにおける対日理解は近年とみに深まってきておりますが、多数のフランス人にとっては、日本は依然として「東洋の神秘的な、不可思議な国」に留まっているようであります。両国民間の正しい相互理解は両国間の協力関係の基盤であります。私は、かかる観点からフランスにおける日本研究を促進するためのささやかな貢献として、基金の寄贈を申出るものであります。
ポンピドゥー大統領はじめ仏政府関係当局の絶大な御好意により、今般ダ・ヴィンチの名画モナ・リザが日本で公開される運びとなったことは私の特に喜びとするところであります。日本の首相は、フランス最高の美女をかどわかしに来たのではないかと心配される向きもあるかも知れませんか、私は、ヅョコンダをそれにふさわしい栄誉をもって日本に迎え、指一本触れさせずに立派にフランスに送り返すことをお約束いたします。
ある有名な未来学者によれば、フランスは一九八五年にはヨーロッパで最も豊かな国になるといわれております。輝かしい経済発展を約束された日仏両国が、経済面で協力可能な分野は無限であると思います。貿易、通貨のみならず、エネルギー、資源、インフレーション、環境、開発協力等すべて先進工業国たる日仏両国にとって共通の関心事であり、協力可能な分野であります。また、科学、技術等の分野の交流と協力も一層活発化することが期待されます。
私は今回の訪仏において、日仏間の「古き友人との新しきパートナーシッブ」確立の路線は敷かれたとの確信を得て帰国致します。そして、日仏両国の相互協力を日欧関係の支柱としたいとの希望を表明して、ご挨拶を終わります。