[文書名] イギリス産業連盟等主催午餐会における田中内閣総理大臣挨拶
クラッバム会長、御列席の皆様
本日この午餐会に招かれ、英国経済界を代表される皆様と親しく話し合う機会を得ましたことは、まことに欣快にたえません。伝統ある貴国を訪問しての第一印象は、ロンドンであれ、郊外であれ、技術と自然環境と人間が実にたくみに調和され、高度工業社会にあって人間らしい生活が十分エンジョイされているということであります。私の日本列島改造論は、自然と文化と産業が融和した地域社会を全国土におし広め、すべての人が、安らぎのなかでいきいきと働き、住み、楽しむことができるようにすることを目標としておりますが、今、英国諸島に一つの生きた手本を目のあたり見る思いであります。
わが国では「十年一昔」といいますが、最近十年の間に世界経済の様相は大きく変わりました。日英経済関係をとってみますと、貿易規模は、十年間で往復六億ポンドと五倍になりました。しかし往復六億ポンドという額は両国の総貿易額のわずか三パーセント以下に過ぎず、日英両国のGNPの合計が二千億ポンドにも迫ろうという経済規模に照らしても不つり合いな程に微々たるものであります。将来の両国の経済関係が大きな発展の可能性に富んでいることは誰の目にも明らかであります。
可能性の一つはまず貿易の拡大均衡でありましょう。しばしば指摘されます最近の日本の出超傾向に関し、私は、日本が貿易外収支で二億ポンド強も英国の国際収支に貢献していることを指摘するよりは、また、英系海外企業よりこれを上回る物資を輸入していることを指摘するよりは、日本が貴国からの輸入の増大に極めて意欲的であることを強調したいと思います。英国製品はわが国で評判が良いのですから、品物がそこにあればこれを日本の消費者が見逃すはずはないのであります。私は、総理就任以来、関税の大幅な一括引下げ、特恵関税実施の強化、画期的な資本の自由化に踏みきり、今や日本経済は欧州諸国に決して劣らない自由化と開放化を達成したのであります。人口一億の将来性に富んだ日本の巨大な市場は、英国の商品、資本及び技術のために提供されているのであります。本年三月、わが国から輸入促進ミッションが当地を訪問したのも、このような意欲の表われであります。
この間、英国政府においても、対日輸出促進のための東京における英国トレード・センターの設置、日本市場担当特別顧問の任命等、この分野で目ざましい努力を払われていることは、われわれとして大いに歓迎するところであります。ケント公御夫妻が出席されたトレード・センターの開所式において、英国の輸出関心品目は、高級消費財のみならず先端的技術集約産品であることが強調されましたが、技術革新の先駆者的役割を果たした英国の実力は、私も十分承知しております。ロールス・ロイスのエンジンは、わが国の国産旅客機YSー11 百八十機に搭載されており、またショック・アブソーバー等の自動車部品の優秀な技術は、日本国内で高く評価されております。
私がここで、英国経済界を代表される皆様方にぜひともお願いしたいことは、英国政府の努力をまつことなく、経済界としても独自の対日論出努力を強力に展開していただきたいということであります。
投資の面においても日英両国間に大きな可能性があります。わが国の企業が、最近幾つか貴国で生産活動に従事しつつありますが、他方今やわが国において、貴方がたは、ほとんどすべての分野で一〇〇パーセント出資の企業が設立できるようになりました。更に貿易外取引の分野においても、世界の金融取引のセンターであるシティーと東京の金融・投資機関の間の相互交流は今後ますます増大することが期待されます。
われわれの関心は、日英のバイラテラルな経済関係のみにとどまりません。一九七〇年代の課題は全世界的規模の解決を必要とするからであります。現代の社会は通貨不安の解消、慢性的インフレの克服、資源・エネルギーの確保、環境の保全といった新しい課題に直面しております。これらはいずれをとっても、その解決には各国の協力、とりわけ日本、EC、米国の三者の緊密な協力が不可欠であります。私はこの面において、日英両国が良きパートナーとして相互に協力関係を充実し、世界経済の拡大的発展に貢献できることを期待したいと思います。
ご静聴ありがとうございました。