データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日英共同声明

[場所] 
[年月日] 1973年10月3日
[出典] 外交青書18号,36−38頁.
[備考] 
[全文]

 田中角栄日本国総理大臣は,英国政府の招待により9月29日から10月3日まで英国を公式訪問した。この訪問は,1972年9月のヒース首相の日本訪問に対する答礼としてなされた。田中総理大臣には大平外務大臣が随行した。

 田中総理大臣及び大平外務大臣は,10月2日女王陛下に謁見を賜わつた。両国首相は,女王及びエディンバラ公が1975年の春に国賓として訪日されるようにとの招待に対しこの招待をよろこんで受諾する用意がある旨述べられたことに大いなる満足の意をもつて留意した。

 両国首相は,9月29日,10月1日及び2日に会談を行なつた。10月2日田中総理大臣は,デービスEC問題担当相及びサー・ジエフリー・ハウ貿易・消費者担当相と個別に会談を行なつた。10月2日大平外務大臣とサー・アレック・ダグラス・ヒューム外務大臣は,第10回日英定期協議を行なつた。

 これらの会談は,率直かつ友好的雰囲気のもとに行なわれ,両国間に存在する友誼と信頼の関係を改めて示した。

 両国首相は,国際社会が直面している主要課題は全ての国家及び社会が安全保障の増大及び繁栄の増進を享受することができる条件を確保することにあるということについて合意した。両国首相は,かかる条件を成就するための助力にあたつて協力することを誓つた。両国首相は,更に既に両国間に存在する緊密な友好の絆を強化することを誓つた。

 両国首相は,両国が共通の関心を有する広範囲の問題について討議した。両国首相は,すべての先進工業民主主義諸国の間で友好な関係及び緊密な協力を維持することの重要性を強調した。この関連で,田中総理大臣は,先進工業民主主義諸国間の将来の協力の指針となるべき諸原則の策定の必要性に対する理解を表明した。同首相は,日本と英国その他の欧州共同体加盟諸国との間のこの問題についての緊密な協議が望ましい旨述べた。ヒース首相は,この一般的問題に関し米国と欧州共同体加盟諸国との間及び北大西洋同盟において行なわれている作業を説明した。

 両国首相は,欧州及びアジアにおける緊張緩和に向つての前進について意見を交換した。ヒース首相は,欧州安全保障協力会議及び中央ヨーロッパにおける相互均衡兵力削減のための来たるべき交渉に関する最近の進展について田中総理大臣に説明した。田中総理大臣はインドシナ及び朝鮮における最近の進展に対する日本政府の態度について述べた。両国首相は,パリ協定の忠実な実施がインドシナにおける安定しかつ永続的な平和の確立をもたらし,かつ朝鮮における対話の継続が緊張緩和と朝鮮半島の究極的再統一に貢献するようにとの希望を表明した。

 両国首相は,エネルギー資源などの重要供給物の調達分野で両国が直面している問題に関し,意見を交換した。両者はこの分野での世界的協力が必要であるということにつき同意した。この関連で,田中総理大臣は,日本が北海石油開発事業に参加し,これと併せて英国内の開発地域に投資することを希望する旨述べた。ヒース首相は,英国政府の関心を示し,田中総理大臣の提案が進展を見ることを希望する旨述べた。両国首相は,また,原子力の分野での協力につき討議した。両者は,これら双方の問題につき近く政府レベル及び関係産業界の間で話合いが行なわれるべき旨合意した。

 ヒース首相は,田中総理大臣に欧州共同体及び共同体加盟国としての英国の役割と責任について概説した。同首相は,1970年代の末までに加盟国間の関係の性格を変えようという共同体加盟9カ国の基本的目的及び国際問題について共同体に独自の役割を与えようという加盟国の意図を強調した。同首相は更に共同体の目的が欧州の経済的発展にのみ限定されるものでないことを強調した。田中総理大臣は,共同体の拡大及びその現在の目的の追求が国際的安定と繁栄に寄与するようにとの希望を表明した。

 両国首相は,現在貿易と通貨の分野で行なわれている多角的交渉が成功することの重要さを再確認した。両国首相は,9月に開催されたガット閣僚会議で発表され,新国際ラウンドを発足させることとなつた東京宣言を歓迎した。両国首相は更に国際通貨制度の改革に関しなされた進展及び1974年7月31日までに未解決の意見の相違を解決しようとのナイロビでの各国閣僚の約束を歓迎した。両国首相は,これらのいずれの事業においても早期かつ建設的な結果が確保されるようすべての関係国と協調して努力を行なうことを約した。

 両国首相は,また,1972年9月の日本における前回会談以来の両国間における政治,経済関係の進展振りを顧みた。両者は,両国の閣僚,国会議員及び産業界指導者の行なつた幾多の訪問に満足の意を表明した。両者は,両国間で広範囲にわたる貿易の拡大と投資の増大を促進するための努力が引続き必要であることを再確認した。

 この関連で田中総理大臣は,東京における英国トレード・センターの設立など,英国の対日輸出の奨励のため英国政府が最近とつた活発な措置に対し歓迎の意を表明した。一方,ヒース首相は,日本への輸出及び投資を奨励するために過去一年の間に日本政府がとつた措置に歓迎の意を表明した。

 田中総理大臣は,両国間の交流を拡大し,相互理解を強化することを希望し,日本国政府が英国の大学における日本研究を促進するために邦貨3億円に相当する英ポンド貨の基金を国際交流基金を通じ贈与する意図であることを表明した。ヒース首相はこの寛大で想像力にとむ意思表示に対し感謝の意を表明した。