データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日・EC共同コミュニケ

[場所] 東京
[年月日] 1978年3月24日
[出典] 外交青書23号,368−371頁.
[備考] 仮訳
[全文]

 1978年3月22日より24日まで,日本政府と欧州共同体(EC)委員会は,各々の代表である牛場信彦対外経済担当大臣とウィルヘルム・ハーフェルカンプ副委員長を通じて,日本と欧州共同体との間の通商および経済関係に生じている問題に関し協議を行つた。

 双方は,日本と欧州共同体との間の関係を強化し,また世界経済問題に対する共通のアプローチを策定すること,およびこのために二国間並びに多国間の場において緊密に協力していくことの重要性を強調した。

 特に,牛場大臣とハーフェルカンプ副委員長は,以下の方策が失業の増大と保護主義への世界的逆戻りを回避することに貢献するであろうことに意見の一致をみた。

経済の拡大と国際収支

 双方は,国際収支の国際的な調整における一層の進展が貿易と通貨関係の調和ある発展にとつて望ましいこと,また現下の国際経済情勢においては,大幅な経常収支黒字の累積は適当でないことに意見の一致をみた。

 この関連において,双方は,国際通貨情勢の一層の安定が不可欠であるとの共通の認識を確認した。この枠組のもとに,双方は,持続的なインフレなき経済成長の達成を目的とする政策を遂行することに意見の一致をみた。

 副委員長は,EC加盟国においてインフレ率及び経常収支赤字の縮小につき実質的な進展がみられ,1978年においてこの方向で一層の進展が見込まれていることに注意を喚起した。

 副委員長は,更にEC加盟国間の格差の縮小は,これら諸国がEC域内の調整された政策をベースにインフレなき持続的成長を遂行する幅を広め,EC全体として1978年の間において4%ないし4.5%の実質経済成長率を目標としている旨述べた。

 副委員長は,また加盟国各々の国際収支ポジションの一層の均衡を実現するために加盟国によつて引続き最善の努力が払われる旨述べた。

 大臣は,日本の1978年度の実質経済成長目標は安定的な国際通貨情勢を前提とした内需の拡大を通じ7%である旨,又日本政府はこの目標を達成するため合理的かつ適切なあらゆる措置を講じる意向である旨述べた。

 日本銀行が3月16日から公定歩合を3.5%に引下げたことが指摘された。

 大臣は,日本政府は,1978年度の全体的な経常収支黒字は1977年度に比べて3分の1程度縮小するであろうと見通していると述べた。

 最近の外国為替市場の変動は,日本経済に深刻な影響を与えているが,日本政府は,上記見通しに留意し,内需の拡大と外国商品の日本市場へのアクセスを改善するための一連の新しい措置を通じ,全体的な経常収支黒字を可能な限り縮小させるため最大限の努力を払うであろうことを大臣は述べた。

 1979年度以降においても,現在の国際経済情勢のもとでは日本の経常収支黒字の一層の縮小を図るためすべての合理的な努力が続けられるであろう。大臣は,さらに1978年度の全体的な経常収支の予想される黒字幅の縮小の一環として日本の対EC経常収支黒字が減少するであろうと期待している旨述べた。大臣は,この黒字幅縮小の方向への流れの変化の兆しは,1978年の秋までに表われはじめるであろうと考えた。

 双方は,一定の間隔のもとに情勢の展開と結果を共同して検討することを合意した。不定期の検討も必要に応じ開かれよう。最初のこのような検討を1978年6月に行うことが合意された。

貿易及び国際収支の一般目的

 双方は,開放的な貿易体制の維持及び保護主義的傾向の防圧の重要性を強調した。双方は,この目的のため,多角的貿易交渉の成功に対し,また本年七月に最終合意の大筋をまとめるとの目標達成に対し,双方が付与している重要性を再確認した。

 双方は,全般的な相互主義に基づき,MTNのすべての分野において,できる限り実質的な成果を達成することにつき合意した。関税に関し,双方は,交渉の過程において,相互に関心を有する品目につき,相互主義に基づき関税を引下げるためできる限り努力することに合意した。

 セーフガード問題に関し,双方は,選択的適用問題に関するそれぞれの立場に留意しつつも,ガットの枠組の中におけるセーフガードに関する,相互に満足しうる国際合意を作成するため,他の参加国と全面的に協調しつつ,積極的に交渉することに合意した。

 副委員長は,交渉の成功は,真に相互的な関税引下げを行うこと,及び,セーフガード措置を,妥当な国際監視の下にかつ19条の援用を通じ,選択的に適用することの可能性に関する国際合意を,ガットの枠組の中で作成することに向つての進展があることの2点に特に依存している旨述べた。

 大臣は,日本は引続き無差別原則に大きな重要性を付与し,差別措置の撤廃を求める旨述べた。

 大臣は,日本政府は,外国為替管理制度を全面的に見直し,特に禁止されない限り全ての取引が自由であるとの原則に基づく新制度の検討を開始する旨の意向を発表した旨述べた。新制度に先がけて,日本政府は為替管理の当面の自由化及び簡素化を進めるため,去る1月26日,11項目に及ぶ措置をとることを発表した。このうち,輸入に係る標準決済方法の緩和については3月1日から実施されており,また他の措置については4月に実施される予定である。

貿易上の措置

 副委員長は,日本がその輸入における製品のシェアーを拡大させる重要性を強調した。大臣は,日本政府が製品輸入を拡大させるためあらゆる適当な措置を引き続きとる旨述べるとともに,製品輸入の総量は,大幅に拡大するであろう旨期待した。大臣は,さらに石油価格の急激な上昇後歪められた日本の総輸入におけるこれら輸入のシェアーは現下の国際経済状況下においては着実に増大し,合理的な期間内に,より通常のレベルに戻るであろうと期待した。

 副委員長は,日本への輸入の一層の拡大に資するために,1978年3月4日に実施された最近の例をはじめ,日本が,一度ならず自主的な関税引下げを行つたことを歓迎した。

 MTNの合意が成立した時に,それぞれの産業及び貿易の状況に照らし,一部品目につき関税前倒し引下げを行う可能性が考慮されうることが合意された。

 双方は,ECの日本への輸出を促進するため,EC輸出業者が既存の市場機会を十分に活用することが重要であることにつき意見の一致をみた。かかる努力を促進するため,双方は,ECの対日輸出業者が直面する問題を検討する上で引続き協力していくことを合意した。副委員長は,日本からのECへの買付ミッションを歓迎すると述べた。大臣は,ECからの日本への販売ミッションを歓迎すると述べた。

 双方は,相互主義に基づき輸入検査制度の改善のためさらに努力を継続することにつき意見の一致を見た。

 この分野において,共同体からの要請を反映して,日本政府によつてとられた措置には以下のものが含まれる。

1,輸入自動車型式認定制度の簡素化

1,外国で実施された医薬品の前臨床実験データの主要部分の受入れ

1,船舶用ディーゼル・エンジン輸入検査手続の大幅な簡素化

 この分野における他の問題については引続き協議される。

 大臣は,日本は,外国供給者に対する競争参加機会の増加がはかられるよう,政府調達制度の運用にあたつて,競争契約方式の一層の拡大,情報提供方法の一層の改善をはかる意向である旨述べた。

 商標に関し,大臣は,ECの関心事項は協議を継続すること,本年6月から発効する日本の商標法の改正,また今後EC関係者からの要請を反映させるように法律の運用につき,できる限り改善を計ることによつて推進される旨述べた。

 ECからの農産物輸出の分野においては,若干の進展がみられたこと及びこの分野で引続き,協力が行われるであろうことが認められた。

援助

 副委員長は,日本政府が政府開発援助(ODA),就中,国際機関に対する協力をサブスタンシャル,かつ,速やかに拡大するとともに,援助を一般的にアンタイ化することを促進するよう希望する旨述べた。

 大臣は,ODAに言及し,(昨年6月国際経済協力会議閣僚会議において明らかにしたとおり)5年間に援助の倍増以上の拡大に努力する旨の日本の意図を再確認するとともに,日本政府が他のDAC諸国の水準に近づけるよう可能な最善の努力を行う旨述べた。大臣は,さらに,かかる努力の一環として,1978年度におけるODA事業予算がサブスタンシャルに増加したこと,国際機関への出資・拠出等についても大幅な増加をみたこと,また,ODAの質が無償援助の増加により改善されたことに留意した。また,大臣は,日本が今後かかる努力を積極的に遂行していく旨述べた。大臣は,日本政府が足の早いプログラム援助を含むアンタイのODA借款をサブスタンシャルに増加させることにより資金援助を一般的にアンタイ化するとの基本方針を遂行していく旨付言した。

 副委員長は,かかる進展を歓迎するとともに,EC加盟諸国が供与国の間で負担をより公正に分担することの必要性を強調しつつ,ODAを効果的,かつ,サブスタンシャルに増加し,また,その質の高さを維持するため引き続きあらゆる努力を行つていく旨述べた。副委員長は,EC加盟諸国としては,ODAの量が今後可能な限り予算上の困難や貿易収支上の問題によつて影響をうけるべきではないと考える旨付言した。