データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ホネッカー・ドイツ民主共和国国家評議会議長歓迎晩餐会における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] 首相官邸
[年月日] 1981年5月27日
[出典] 鈴木内閣総理大臣演説集,258−259頁.
[備考] 
[全文]

 ホネッカー国家評議会議長閣下

 ミッターク国家評議会員閣下

 フィッシャー外務大臣閣下

 御列席の皆様

 本日ここに改めて皆様方に歓迎の挨拶を申し述べる機会を与えられましたことは、私の大きな喜びであります。日本国政府並びに日本国民を代表してホネッカー議長閣下御一行に心から歓迎の意を表します。

 議長閣下

 ドイツ民主共和国と日本とは、欧州とアジアに位置し、社会体制、歴史、文化、伝統等の面において、それぞれ独自のものを持っておりますが、われわれ両国間には、同時に少なからぬ共通点も存しております。

 即ち、両国とも戦争の荒廃の中から立ち上がり、三十年余りの間に世界でも有数の水準と規模の経済を建設しました。両国とも天然資源にはあまり恵まれていませんが、勤勉な国民性と高度の科学・技術の水準によって工業の発展と貿易の拡大を達成し、経済の基盤を確立すると共に、民生の安定と向上に力を注いできております。

 更に両国の共通点を挙げますならば、それぞれ歴史的、文化的遺産に恵まれ、時代の変遷を超えた古き美しきものを大切にするとともに、自然及び芸術を愛する国民を有していることであります。

 たとえば、我々の文化交流の歴史を振り返って見ますと、すでに三世紀近い昔に、我が国の有田焼がヨーロッパに紹介されマイセンの焼物に影響を与えたことは周知のとおりであります。また、我が国の文豪森鴎外のように、文学や音楽等の芸術あるいは学問の分野で、ベルリン、ライプチッヒ、ドレスデン等に若き学びの日々を送った先達は枚挙にいとまがないほどです。

 目下、「ドイツ民主共和国音楽祭」が、本邦の各地で盛会裡に開催されていることは、いかに多くの日本人が、貴国及び貴国文化に対し関心と理解を有するかを示すものであり、御同慶の至りであります。

 議長閣下

 御承知のとおり、今日の世界は、政治・社会体制の違いや経済発展の段階の相違にもかかわらず、ますます相互依存の度合を強めております。我が国は、かかる事実をつとに認識してすべての国との相互理解と友好関係の維持・増進に努め、もって調和のとれた国際社会の平和と繁栄を希求することを基本理念としております。

 議長閣下

 我々両国は、外交関係を設定して以来まだ八年を経たのみですが、経済面・文化面における相互交流には目覚しいものがあり、両国の友好関係が円滑に進展していることは誠に喜ばしいことであります。殊に、議長閣下の本邦滞在中に通商航海条約の署名が行われる選びとなり、御同慶に耐えません。

 今回の議長閣下の訪日が、両国民間の相互理解を一層深め、両国の友好関係の増進に多大の寄与をもたらすことを確信しつつ、議長閣下の御滞在が快適で、かつ実り多いことを心から祈ります。

 ここに、皆様とともに杯を挙げ、ホネッカー議長閣下の御健康及びドイツ民主共和国の繁栄を祈ります。