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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 西独・シュミット首相主催昼食会における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] ハンブルク
[年月日] 1981年6月10日
[出典] 鈴木内閣総理大臣演説集,203‐204頁.
[備考] 
[全文]

 シュミット首相閣下、御列席の皆様

 本日は私共一行に対しこのように盛大な昼食会を催して戴き、また只今は首相閣下より誠に御懇篤な御言葉を賜わり、衷心より御礼申し上げます。

 特に首相閣下におかれては、五旬節休暇で御静養中にも拘らず、私との会談のために長時間をお割き下さったことに対し、心から謝意を表したく存じます。

 私の今次西欧諸国歴訪にあたり、貴国が最初の訪問地でありますが、こうして貴首相閣下の故郷であるハンブルクで閣下とお会いすることが出来ましたことは私の最も欣快とするところであります。

 首相閣下

 わが国と貴国の間の伝統的な友好・協力関係について、この場で多言を弄する必要はないと思います。しかし、現下の厳しい国際情勢は、このような両国関係に新たな重要な意義を与えようとしております。

 一九八〇年代が世界の平和と安定に脅威をもたらしかねない一連の事件で始まったことによって、わが国と貴国をはじめとする西欧諸国の如く自由と民主主義という価値観を共有する諸国家は、自由世界、ひいては人類の将来のために協調と協力を一層強化する責任を負うに至ったのであります。

 私がこのたび西欧諸国首脳との会談のために、この歴訪の旅に出たのもこのような共同の責任を認識し合い、また責任をより良く果たすための前提である相互理解を進めるのに寄与しようと心に期したからに他なりません。

 首相閣下

 貴首相も私も、北海と太平洋の違いこそあれ海に縁の深い生まれであります。

 貴首相はヨットの名手とうかがっていますが、ヨットを操る者にとっては風の判断が最も重要であります。私の郷里の主要産業である漁業においても漁夫は風と潮を見定めて舟を操るのであります。国際情勢が必ずしも順風を予測できる状況にない現在、われわれ政治の舵を握るものにとってもまた、時代の風向を見極めそれに正しく対処することが要求されていると言えましょう。

 私はその意味で来るオタワ・サミットを重視するものであり、かつその機会に貴首相に再びお目にかかることを楽しみにしております。

 世界への門と呼ばれるここハンブルクの町には、年来多数の日本人が在留し、市民に暖かく迎えられています。私はこの席を借りて、ハンブルク市政府と市民各位に心からの謝意を表するものであります。

 それでは●{玄へんにつくりも玄/ここ}に杯を挙げ、シュミット首相閣下の御健康、ドイツ連邦共和国国民の御幸福、ハンブルク市の一層の御繁栄、そして日独両国の友好関係の発展をお祈りして乾杯いたしたいと存じます。