[文書名] ベルギー・エイスケンス首相主催昼食会における鈴木内閣総理大臣の挨拶
エイスケンス首相閣下、御列席の皆様
本日は私共一行に対しこのように盛大な昼食会を催して戴き、また只今は首相閣下より誠に御懇篤な御言葉を賜わり、衷心より御礼申し上げます。
今般の欧州諸国歴訪に際し、「欧州の首都」と呼ばれる御地を訪れ、就任後間もない貴首相閣下と現下の国際情勢を中心に幅広いかつ実りの多い意見交換を行う機会を得ましたことは、私の最も欣快とするところであります。
思い起こせば丁度十年前に行われた天皇・皇后両陛下のベルギー公式訪問は、両国間の伝統的な友好関係の大きな里程標でありましたが、本年は、私が訪欧の途につく直前にアルベール皇弟殿下が経済使節団の長として来日され、皇室と王室の緊密な交流によって象徴される両国民の間の絆を一層固めるのに寄与されたことを、皆様とともに喜びたいと思います。
首相閣下
私は先刻ブラッセルに到着したばかりで、未だ貴国の実情をつぶさに拝見する機会を得ておりませんが、車窓から拝見しただけでも、貴国が偉大な伝統を踏まえつつより豊かな将来のために努力を重ねておられる様子を感じることが出来、深い感銘を受けた次第であります。
貴国の高名な詩人メーテルリンクの描いた「青い鳥」は、今日においてもいずことも知れぬ楽園に棲んでいるのではなく、自由と民主主義という共通の価値観を分かち合っている諸国が、世界の平和と繁栄に対する責任を自覚して緊密な協力を進めることによって初めて手に入れることが出来るのではないでしょうか。
諸国民の間の協力は、相互の理解なくしては順調に進まないことは言うまでもありません。私の今回の貴国訪問はそのために聊かなりとも寄与することをその目的の一つとしておりますが、その関連において私は、貴国で催されるエリザベス女王コンクールに数多くの若い日本の芸術家が参加して聴衆の暖かい声援を受け、そしてその中から少なからぬ受賞者を出していることを、聊かの誇りと深い感謝の念を持って付け加えたいと思います。
相互理解の出発点は、先ず互いによく知り合うことであります。その意味で私は、近年貴国をはじめとする西欧諸国において現代日本研究が広く関心を集めつつあることを歓迎し、日本政府としてもこれを促進するために積極的に協力してまいりたいと思っております。
それでは●{玄へんにつくりも玄/ここ}に杯を挙げ、エイスケンス首相閣下の御健康とベルギー国民の一層の御繁栄、そして日本とベルギー両国の友好関係の進展をお祈りして乾杯いたしたいと存じます。