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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] サッチャー・連合王国首相歓迎晩餐会における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] 首相官邸
[年月日] 1982年9月20日
[出典] 鈴木内閣総理大臣演説集,286−288頁.
[備考] 
[全文]

 サッチャー首相閣下、並びに御列席の皆様

 私は、まず、サッチャー首相閣下と御一行の皆様に対して、心から歓迎の意を表したいと存じます。とりわけ、私が、昨年ロンドンで訪日の招待をいたしました折に願っておりましたとおり、このように早く御訪日が実現されましたことは、私にとって、大きな喜びであります。

 また、私は、閣下の今回の御訪日が、英国首相として、東京サミットの際についで二回目、野党党首時代を含めれば、三回目のものであることにも感銘いたしております。これは、閣下が歴代英国首相の中でも、日英関係の強化についてとくに意を用いられていることのあらわれでありましょう。私もまた、日英関係を重視するものの一人として、閣下の我が国に対する御認識に深い敬意を表するものであります。

 サッチャー首相閣下

 日英関係が、同盟関係にあった時代を含めて、長い協力の歴史を有していることは、今更申すまでもありません。我が国は、その近代化の過程で、文化、科学技術、社会制度など各般に亘って、英国に多くを負うております。さらに、貴国の王室と我が国の皇室が極めて親密であることもよく知られております。

 このように強い絆で結ばれた日英両国でありますが、第二次大戦後の両国の関係は、どちらかと言えば、日英二国間の貿易経済の分野に偏りがちで、両国の国際社会における役割と責任から見れば決して十分とは言えませんでした。

 ことに国際関係が二十一世紀に向けて大きく変動しつつあるこの八〇年代、西側先進民主主義国は、国際政治に関する共通の理解と認識をもって行動することが求められております。欧州の指導的大国であると同時に、米欧関係の要ともいうべき英国と、アジアの先進工業国である我が国が、広くグローバルな視野で政治的協力を進めて行くことは誠に重要であると言わねばなりません。

 サッチャー首相閣下

 私は、この意味において、閣下のこのたびの訪日が日英関係に新たな時代を画する契機となったものと確信いたしております。今回の二回の会談において、東西関係、アジア等の主要国際問題について、両国政府間の協議を緊密にして行くことについて意見の一致を見ましたが、これらのことは、日英関係に新たな政治的枠組みを与えたばかりでなく、日米欧の三極よりなる西側先進国間の協力関係により広い展望を拓くものとなるでありましょう。

 また、これらの会談では、産業技術分野における交流を通じて、両国間の経済面での協力関係を一層緊密かつ幅広いものとすることも話し合われ、更に、国際経済が直面する基本的な問題についても認識を一にすることができました。

 私は、このようにして、一つ一つの具体的問題についての協議・協力を積み重ねて行くならば、日英間の協力は一層強化され、ひいては世界の平和と安定のために貢献することを信ずるものであります。このように実りある会談を行う機会を得られたことについて、私は閣下に心から感謝の意を禁ずることができません。

 サッチャー首相閣下

 我が国の国民は少年少女時代、中学校で英語を習いはじめると間もなく、必ずと言ってよいほど、「意志あれば、自ら道あり」という英国の諺を学びます。確固たる政治信念に基づき、「ノウ・Uターン」の決意をもって、内外の困難な事態に対処されている閣下の姿は、まさにこの英国の諺の精神にふさわしいものであります。明日は、閣下のテレビ会見が放送されるということでありますが、私は日本の国民が、閣下の意志と勇気に満ちた御意見に接して、必ずや英国並びに英国民に対する敬意を新たにするものと信じます。

 御列席の皆様

 今年は、英国王室にとっても、ウィリアム王子の御誕生というおめでたい年となりました。この祝福の意もこめまして、エリザベス女王陛下の御健康を祝すとともに、サッチャー首相閣下の今後の一層の御成功を祈念して杯をあげたいと思います。