データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ミクリッチ・ユーゴスラビア連邦執行評議会議長歓迎晩餐会における竹下内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1988年5月26日
[出典] 竹下内閣総理大臣演説集,228−230頁.
[備考] 
[全文]

 ミクリッチ議長閣下,令夫人並びにご列席の皆様

 このたびの閣下のご訪日は,ユーゴスラビア社会主義連邦共和国の首脳としては一九六八年のチトー元大統領以来,二十年ぶりのことでありますが,日本国政府及び国民は挙げて閣下ご夫妻とそのご一行を歓迎申し上げたいと存じます。

 議長閣下

 ユーゴスラビアは,チトー元大統領の指導の下,第二次大戦後多くの困難を克服し,今日,南欧の雄国として,また真正非同盟の指導的国家として,国際社会に重きをなしてこられました。

 立場こそ違え同じく戦後の苦しみを経験してきた我が国民は,貴国民のご努力を熟知し,かつ深い敬意を感じております。

 ミクリッチ議長閣下は,連邦執行評議会議長にご就任以来,チトー大統領が確立されたこの路線を堅持され,流動する国際情勢の中にあって,平和問題,軍縮問題,南北問題等に力を傾けてこられました。

 とりわけ最近,貴国が昨年六月の非同盟地中海諸国外相会議を,また本年二月にはバルカン諸国外相会議を主催して大きな成功を収め,世界にとって枢要なこの地域の平和と安定に大きく貢献されましたことは,南欧の安定勢力としての貴国の真価をいかんなく発揮されたものであり,また議長閣下の国際平和への強い熱意を物語るものであります。

 さらに,閣下は,国内経済の発展と国民生活の向上にも強く意を用いられ,新しい時代に向けての経済構造確立に意欲的な取り組みを示しておられます。私は,閣下のご努力が貴国民の活力と英知を喚起して,見事な成功に結びつくことを確信し,我が国としても可能な限りの協力を行ってまいりたいと存じます。

 議長閣下

 私は,昨年秋の政権担当以来,我が内閣の最大目標として,「世界に貢献する日本」の建設を掲げてまいりました。先般の欧州訪問の際には,この目標に向けて,平和のための協力の強化,国際文化交流の推進,ODAの拡充強化の三つを柱とする「国際協力構想」を明らかにしたのであります。

 かかる構想の実現に当たっては,多くの諸国のご理解とご協力を得る必要があることは申すまでもありません。なかでも,社会体制や国際的立場の異なる国々との対話及び関係の発展は,極めて重要なものがあります。

 その意味で,昨年以来,我が国と貴国との間の交流に新たな発展が見られるなか,今回の議長閣下のご訪日がさらにその促進に向けて弾みを加えましたことを誠に心強く感じているところであります。

 私は本日午後,ミクリッチ議長閣下となごやかに,しかも真剣に会談を行いましたが,多くの分野において基本的に意見の一致が見られましたことは両国関係の将来にとって喜ばしい限りであります。

 最近では,両国間における姉妹都市提携も盛んになり,一昨年十月にはザグレブ市において京都展が開催されるなど,民間人や文化関係者の往来も盛んになってまいりました。私は,こうした交流の中で,現在行われている貴国から我が国への青年招聘の意義に注目いたしております。

 私自身,昨年末に,この計画で来日された二十五名のユーゴスラビア青年団の諸君と親しくお目にかかり,その国づくりの意気に触れて,自らの青年時代の情熱を呼びさまされる思いでありました。

 近く再び二十五名の貴国青年が訪日される予定となっておりますが,両国の将来を担う青年たちのこうした交流は,両国間の相互理解を促進すると共に,親善協力の実を上げるものと信じます。

 議長閣下,令夫人並びにご列席の皆様

 私は,ミクリッチ令夫人は絵画に造詣の深い方であると仄聞いたしております。そのせいか,ご子息は建築家,ご令嬢は画家としていずれも芸術の道に進んでおられるとのことであります。

 明日,ご一行は,京都に赴かれますが,令夫人におかれましては,新緑に包まれた古都のたたずまいを十分に満喫されますよう希望いたします。

 それでは,ユーゴスラビア国民のご繁栄,そして日本とユーゴスラビア両国の友好関係の一層の進展を祈り,ここに杯を上げたいと存じます。

ジヴェリー(乾杯)