[文書名] ロカール首相主催晩餐会における竹下内閣総理大臣のスピーチ
ロカール首相並びにご列席の皆様
本日ここに、かくも盛大な晩餐会をご開催いただき、また、ただいまは貴首相から心のこもったお言葉を賜りました。一行を代表して厚くお礼申し上げます。
まず、はじめに私は、先般の大統領選挙で、圧倒的な国民の支持を得て、第五共和制下初めて直接選挙による再選という偉業を果されたミッテラン大統領の厚い信任のもとに、閣下が、首相の要職に就任されましたことに祝意を表したいと存じます。
貴首相は、国政の運営に当たって「開放」をモットーにされると聞いております。私は、民主主義社会が一層発展するためには、コンセンサスの形成による社会的調和が重要だと信じておりますが、これは、貴首相の言われる「開放」の思想に極めて近いものと考えているところであります。
ロカール首相
私は、総理就任以来、我が国の最高目標として、「世界に貢献する日本」の建設を掲げてまいりました。我が国の今日の豊かさと活力を、世界の平和と繁栄のために積極的、かつ能動的に役立てることこそ、日本に課せられた責務であると確信するからであります。
そして、先般の欧州諸国歴訪の際、その具体的な内容として、政治、経済、文化の三つの側面からなる「国際協力構想」を明らかにしました。なかでも私は、文化面を重視しており、特に欧州諸国との文化交流の強化を訴えたのであります。
振り返ってみますと、日仏両国の関係は、「文化」という言葉と切っても切り離すことができません。少なくとも、私の青春時代においては、フランスとは、ほとんど文化と同義語でありました。
フランス文学を読み、フランス美術に触れることによって、またフランス映画やシャンソンに親しむことによって、欧州を感じ、世界を知ったと言っても過言ではありません。
また、貴国においても、印象派の画家たちが、日本の浮世絵から強いインスピレーションを受けるなど、日本文化の影響は少なくなかったと言われております。おそらく、両国民がいずれも美に対する鋭い感性を持ち、深いところで引き合うものがあったのでありましょう。
近年、日仏間の文化交流は益々活発化しており、現在も当地パリでは「ジャポニズム展」と、「日本ー西洋の誘い展」が開催中であり、日仏両国民の心の繋がりを強めつつあります。
ロカール首相
それでは、このような親近感を土台として、今後、日仏両国民は相携えて何をなすべきでありましょうか。
何よりも私は、自由と民主主義を共通の価値観とする日米欧の結束を図り、これを二十一世紀に通ずる世界を支える強固な枠組みとすることが必要だと考えます。そのためには、日欧関係を、日米、米欧の関係に劣らず強いものとしなければなりません。
日仏両国民は、日欧関係の強化・充実に向けて、より積極的に協力し、それぞれ独自の個性を生かしつつ、お互いにその国力を高めていくべきだと考える次第であります。
私は、東西関係に新しい動きが始まった今日、我が国としては、欧州の中でも、その中核国家たるフランスとの間に本格的な政治対話を深めるべきだと考えております。この点について、ミッテラン大統領との間に意見の一致がみられたことは、誠に心強い限りであります。
日仏経済関係は、両国の世界経済に占める大きな比重に比べて、未だ低いレベルにとどまっていると言わざるを得ませんが、貿易の分野はもとより、産業協力の分野においても、両国相互の直接投資などが順調に進展いたしております。
こうした日仏経済関係の進展は、欧州三億六千万の市場とアジアの市場とを結び付ける大きな力になるものと思います。
我々はまた、文化面でも現状に満足していてはなりません。
これまで、我が国中等教育におけるフランス語の教育は、限られたものにとどまっておりましたが、私は、JET計画の名で実施され、大きな成功を収めている英語の教員招聘計画を、フランス語にも拡大することを提案いたしたいと存じます。
これは、ヨーロッパ、アフリカ等のフランス語圏の諸国と我が国との交流を一段と深めることにも寄与することでありましょう。
本日私は、日仏文化会館の設立準備会合に出席いたしましたが、同会館が発足したあかつきには、日仏間の最も強力な文化交流の出会いの場になるものと信じます。
科学技術も広い意味での文化に含まれると思います。私としては、最近のアリアン22号の打上げ成功に象徴される貴国の先端科学技術開発分野での発展を見るにつけても、欧州との間で若手研究者の交流を活発化し、科学技術面においても世界に貢献してまいりたいと考えます。
首相閣下
いま欧州は、一九九二年の統合市場建設という壮大な実験の前夜にあります。我が国としても、統合された、より強力な欧州の存在を歓迎するものであります。
私は、それが、世界に開かれたものとなり、日欧間の協力に新たな地平を開くことを期待するとともに、政治協力、産業協力、文化、科学技術協力等、多様な分野で進められてきた日仏協力関係が、欧州統合の新時代において、一層の飛躍を遂げることを強く祈念いたすものであります。
それでは、ロ力ール首相閣下、並びにご列席の皆様のご活躍、フランス共和国の繁栄、そして日仏関係の更なる発展を祈って、ここに杯を上げたいと思います。
ア・ボートル・サンテ、エ・ビーブ・ラミティエ・フランコ・ジャポネーズ(乾杯、そして日仏友好万歳)