[文書名] デミータ伊首相歓迎宴における竹下内閣総理大臣の挨拶
デミータ首相、令夫人並びにご列席の皆様
デミータ首相ご夫妻とそのご一行を我が国にお迎えできましたことは、私にとりましてはこの上ない喜びであり、日本国民と政府を代表して心から歓迎の意を表したいと存じます。
貴首相におかれましては、昨年九月ご訪日いただく予定でありましたが、日本側の都合により延期されたご配慮に改めて感謝申し上げます。また、先の大喪の礼においては、コッシーガ大統領にご参列賜り、この機会にお礼を申し上げる次第であります。
デミータ首相
私は、昨年五月貴国を訪問いたしました。その時、貴首相はじめ多くの方々から盛大な歓迎と心温まるおもてなしをいただき、大変感激いたしました。
私のイタリア滞在は、短期間でありましたが、貴首相の卓越した指導力のもと、イタリア国民が力を合わせて、自由で豊かな国づくりに取り組んでおられる姿に接し、まことに力強いものを感じました。
貴首相と私は、ほぼ同じ時期に政権を担当し、政治家としての経歴も極めて共通点が多く、初めてお会いして以来、すっかり意気投合する仲となり今日に至っております。
それにしても、わずか一年足らずの間に、ローマ、トロント、東京と三たびお目にかかることができましたことは、本当にうれしい限りであります。
東洋には「朋有り{朋にともとルビ}遠方より来たる、亦{またとルビ}楽しからずや」との有名な言葉がありますが、日本とヨーロッパの距離が短くなり、私たちの心の絆が一段と強くなることによって、まさに「地球は人類共通のふるさと」であることを実感した次第であります。
デミータ首相
私は、本日、貴首相となごやかに、しかも真剣な会談を通じて、多くの点で意見が一致したことを心から喜んでおります。
日伊両国の協力関係は、すでに活発な展開を示しておりますが、今後一層、政治、経済、科学、文化など広い分野にわたってパートナーシップを発揮しつつ、世界の平和と繁栄のため力を合わせていくことが必要だと思います。
また、最近、日本とイタリアではお互いの文化に対する関心が急速に高まってまいりました。オペラ、フアッション、生け花、茶道にとどまらず、それは科学技術にも及んでおります。
しかし、一方において、今なお日伊両国間に存在するイメージ・ギャップを無視することはできません。と申しますのも、両国はすでに高い科学技術を有する世界で有数の経済大国であるにもかかわらず、日本人はイタリアのことをかつて見た名画「自転車泥棒」や「にがい米」から連想し、逆に、イタリアの方々はプッチーニの名作「蝶々夫人」の舞台を現代日本と思ってしまう傾向が根強いからであります。
デミータ首相
私たちは、このような誤まったイメージを払拭{ふつしょくとルビ}するため、日伊両国間の文化交流のあり方を真剣に考え、実行に移していくべきではないでしょうか。
私が、昨年の訪欧において、我が国の「国際協力構想」を発表し、その大きな柱の一つとして、日欧文化交流の拡充・強化を訴えましたのも、そのような考えに基づくものであります。
それ以来、この構想を具体化するため積極的な努力を重ねてまいりましたが、このたび「日欧交流特別計画」がスタートしたことにより、科学者をはじめとする知的・人的交流、日本語教育や日本研究への協力、さらに総合的文化事業なども今後一段と促進されることが期待されます。日伊両国間においても、この計画の具体化と交流の活発化に努めることはもとよりであります。
デミータ首相
私は、昨年貴国を訪問した時、ローマでつかの間の休日を楽しむことができました。街のいたる所に残る素晴らしい古代遺跡や力感溢れるルネッサンス期の名画の数々には、圧倒される思いがして深い感動を覚えました。この貴重な体験がイタリアの方々の温い歓迎と共に、私と家内にとりまして、生涯忘れ得ぬ思い出となったことを、いま改めて感謝申し上げる次第であります。
ご夫妻は、公式日程の終了後、桜花爛漫の古都・京都を訪問されると伺っておりますが、どうか時間の許す限り、日本の自然と文化、そして心温まる人情を満喫していただければ幸いと存じます。
デミータ首相、令夫人並びにご列席の皆様
イタリア共和国及びイタリア国民のご繁栄、そしてデミータ首相ご夫妻の益々のご健康とご発展をお祈り申し上げ、ここに杯を上げたいと思います。
アッラ・サルーテ(乾杯)