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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] コール首相主催午餐会における海部内閣総理大臣の挨拶

[場所] ボン
[年月日] 1990年1月9日
[出典] 海部内閣総理大臣演説集,213−215頁.
[備考] 
[全文]

 コール首相閣下、並びにご列席の皆さま

 本日はコール首相閣下より、私共一行のためにかくも盛大な午餐会を催していただき、また、只今は心暖まる歓迎のお言葉を賜り、日本側一同を代表し、厚くお礼申し上げます。更に、貴国の皆さまの暖かい歓迎に対しても心より感謝致します。

 私は、総理就任以来、できるだけ早い機会に貴国を訪問したいと願っておりました。このたび、今次訪欧の最初の訪問国としてドイツを訪れることができ、こうしてコール首相にお会いし、個人的な信頼関係を築くことができ大変うれしく思います。ギムニッヒ城よりボン市内までの車窓より垣間見たドイツの自然の美しさ、綺麗なドイツの町並みは、前回訪独した二年半前と変わらぬ面影を留めておりました。

 コール首相閣下

 十一月八日の夜から九日の朝にかけて起きた「ベルリンの壁崩壊」の光景は、私の記憶にはっきりと残っております。私は、本日午後ベルリンに赴き、自ら十二月二十二日に開放されたブランデンブルク門を訪れると共に、二十八年の長きにわたり、ドイツ人に多くの苦難をもたらした壁の崩壊に象徴されるヨーロッパ情勢の変化等について、私の考え方をベルリン日独センターでお話しするつもりです。

 貴国の民族分断克服への道程は、これまでも決して平坦なものではなく、幾多の大きな障害が横たわっていたことも想像に難くありません。貴首相閣下は強い確信を持ち、種々の困難を乗り越えその目標に向かい邁進されてきました。今日の成果は、貴首相並びに貴国民の長年の努力の賜物であり、この努力に対し、深甚なる敬意を表します。

 我が国は、歴史、文化、言語を共有する東西のドイツ国民の自由な交流が回復されたことを、ドイツ国民と共に喜びを持って歓迎致します。ドイツ国民が自由な民族自決権に基づき、その一体性を確保できるような欧州の平和な状況に向けて貢献する、との貴国の崇高な努力を高く称賛致します。

 コール首相閣下

 日独両国は共に、第二次大戦後、両国国民が自由、民主主義、市場経済という価値観を信じ、経済再建に向けてたゆまぬ努力をして参りました結果、今日の繁栄を築き上げました。

 今日東欧に改革が波及している状況は、国民の労働意欲を無視した中央計画経済体制は結局のところ、国民の繁栄をもたらさないことを証明しております。東欧の改革の波は、長年一党独裁の下で抑圧されてきた人々の自由を求める声であり、もはや押し留めることはできません。「我々こそが、国民だ。」(ヴィア ジント ダス フォルク WIR SIND DAS VOLK)、この東独市民の心からの叫びは、まさにそれを証明していると言えましょう。

 東欧の変革は、欧州という地域を超え東西関係の枠組みを根本的に変える世界的意味合いを持ったものであります。我が国は、東欧諸国への改革支援に際しては、先進民主主義国の一員としての立場から引き続き貢献を行っていく決意であり、今後とも貴国をはじめとする関係諸国と緊密な連絡を取っていく所存です。

 国際情勢が既存の枠を超えて大きく揺れ動く中、世界の平和と繁栄のために、基本的な政治・経済上の価値観を共有する日独両国が、今後グローバル・パートナーとして一層緊密な関係を築いていくことが重要であります。私とコール首相は、本日午前、極めてなごやかな雰囲気の中で忌憚ない意見交換を行い、今後とも日独間の関係緊密化のために協力していくことを確認いたしました。

 コール首相閣下

 このように世界の平和と繁栄のために大きな責任を共有する日独両国が、近年あらゆる分野で交流を増しつつあることは心強いことであります。私は、これまでにも日独友好議員連盟の理事長として何回となく定期協議のため独議会を訪問しています。

 また、五年前ボンサミットに同行し、閣下と共にライン下りの船上で大きなワイングラスを傾け乍ら、大きな声でローレライの歌を歌った事をなつかしく思いだしています。

 近年、貴国において日本に対する関心が高まりつつあることは誠に喜ばしいことであります。日本に対する関心の高まりと共に、貴国では各地で日本紹介の文化活動が行われております。このボンでは昨年六月ボン二千年祭に当たり、日本週間が開催されました。また、本年秋には伝統あるフランクフルト・ブックフェアにおいて日本がテーマ国に選ばれ多彩な文化行事が開催される予定です。

 最後に、最近、貴国において、大学、ギムナジウムで日本語を学ぶ若者が急増していると聞いております。国際的な相互理解のためにはお互いの国の文化、芸術、習慣等を理解することが必要です。そしてそのためにはその国の言語を学ぶことが大きな助けとなります。ドイツ語は、我が国において伝統的に多数の大学で学ばれている外国語です。

 日本語は、これまで一般に外国人にとってとっつきにくい言葉と考えられてきましたが、その日本語の学習に取り組むドイツの若い方々が増えていることは、日独関係の将来にとって誠にうれしく、心強いことであります。彼らが二十一世紀の日独の交流の架け橋となることを強く期待いたします。私と致しましても今後とも、コール首相閣下のご協力を仰ぎつつ、これまで以上に日独間の関係強化に貢献して参るとの決意をここに改めて表明致します。

 ここに、コール首相閣下、並びにご列席の皆さま方のご健康、日独両国の末永い友好・協力関係の発展を祈り、杯を上げたいと思います。

 乾杯(ツムヴォール)。