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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] へルムート・コール・ドイツ連邦共和国首相歓迎晩餐会における宮澤内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1993年2月27日
[出典] 宮沢内閣総理大臣演説集,162−163頁.
[備考] 
[全文]

 コール首相閣下、御列席の皆様

 本日、ここに統一ドイツの首相として、旧友コール首相をお迎えできますことは、誠に大きな喜びであります。

 私は、一九九〇年の秋以来、前後三度にわたりドイツでコール首相閣下にお目にかかる機会を得ましたが、その度に、統一ドイツをめぐって激動する歴史の中において閣下が卓越した指導力を発揮されていることを目の当たりにし、感服致しました。

 閣下の歴史的決断と指導の下にドイツは統一されました。統一ドイツのこれからの道程は決して平坦ではないと思います。しかし私は、閣下の指導の下に政治的に統一された新たなドイツの国民が心を一つにして、いわゆる「内なる統一」を遂げて行かれることを確信しております。

 閣下はまた、統一ドイツのあるべき姿として「ヨーロッパのためのドイツ」という理想を掲げて、ECの統合を推進して来られました。九一年十一月にボンを訪れた日本の財界の人々に、閣下は、欧州諸国はみな兄弟のようなものだが、その中で争いを重ねてきた歴史がある、欧州統合の思想はこうした歴史を踏まえたものであると説明されたと伺っています。本年こそはEC統合の成否を左右する正念場でありますが、その成功を心からお祈り致します。

 このような、EC統合に向かう歴史的な動きの中で、ドイツが果たしている大きな役割、他方で我が国の国際貢献に対する国際社会の期待の高まりが、今日の日独関係を唯二国間の枠組みに止まらせず、より広く日欧関係全体の文脈でも極めて重要なものとしているのであります。今日の日独関係は、このような観点から新たな位置付けを与えられ、かつ強化されていかねばなりません。私共は両国民の英知、情熱、努力をもって、日独関係をさらに質的に発展させていきたいと考えます。

 コール首相閣下

 今回の閣下のアジア訪問は、新しい統一ドイツとアジアとの出会いの旅とでも申すことができましょう。

 アジアは、古くからインド文明や中国文明等が栄え、交流が盛んに行われてきた地域であります。明日皆様がご覧になる鎌倉の大仏よりはるか前、西暦七五二年に奈良の大仏が建立された時の開眼供養には、仏教が生まれた土地であり我が国から六千キロ離れたインドの僧侶が招かれたのでありました。古代からの中国や韓国と我が国の交流が盛んであったこと、あるいは中世には東南アジアに多くの日本人町が栄えたこともあるいはご存知かもしれません。

 このアジア・太平洋に歴史的にも地理的にも我が国は、身を置くものであります。先月私は、ASEAN四か国を訪問しましたが、タイのバンコクにおいて、アジア・太平洋の平和と繁栄のため我が国はASEAN諸国と共に考え、共に行動するということを申しました。これは、この地域の多様性を尊重しつつ今後とも相互に協力していこうとの考えに依るものであります。

 今日、アジア・太平洋地域が、その多様性と開放性を基礎に現在世界で最もダイナミックな経済発展を遂げていることは、今週皆様がご自身でご覧になった通りであります。このようなアジアとの相互理解と協力関係が、この度のコール首相閣下のアジア訪問によりさらに増進されることを望むものであります。

 御列席の皆様

 ここに私はコール首相、ドイツ代表則の皆様そして全てのドイツ国民の一層のご健勝とご発展を祈念し、両国民のより深い信頼と友情が培われてゆくことを信じて杯をあげたいと存じます。

 乾杯(ツーム・ヴォール、Zum Wohl!)。