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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ソアレス・ポルトガル共和国大統領歓迎午餐会における細川内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1993年10月20日
[出典] 細川内閣総理大臣演説集,79−80頁.
[備考] 
[全文]

 ソアレス大統領閣下、令夫人、御列席の皆様、

 本日、ここに、ソアレス大統領閣下の御一行をお迎えし、また、これまで日本・ポルトガル関係に様々な形で関わってこられた皆様方をお迎えしてこの席を設けさせて頂くことを大変光栄に存じます。

 我が国が初めて西洋文明と接することとなったのは、千五百四十三年のポルトガル人の種子島漂着に遡ることであり、日本とポルトガルとの間にはこのような歴史的に特別な関係があります。更に、両国間関係において特筆すべきは、九州を中心としたポルトガルと所縁のある地において、草の根の交流が他に例をみないほどに活発に行われているという事実であります。私の出身地の熊本県もポルトガルとは歴史的な関係を有し、今もなおいくつかの交流事業が続けられていると聞いておりますが、私自身もポルトガルには格別の親しみを感じております。

 ポルトガル人宣教師であるルイス・フロイス師とジョアン・ロドリゲス師がそれぞれ書き記した「日本史」及び「日本大文典」は、十六世紀から十七世紀にかけての日本の歴史、日本語について知る上で貴重な文献となっております。特に織田信長の深い信頼を受けたルイス・フロイスは信長の横顔を生き生きと伝える数多くの記録を残しており、また同人の活躍は昨年のNHK大河ドラマ「信長」を通じて広く一般に知られることとなりました。これらは総て当時の日本のあり方、ひいてはその歴史を受け継ぐ今日の日本に対してポルトガル人がいかに影響を与えているかを表わしているものと言えましょう。余談ですが、私の祖先に当たる細川忠興も当時はやった「南蛮趣味」を取り入れて、ローマ字綴りの自分の印章を作ったと聞いております。

 このように、我が国に西洋文明を伝搬し、以て我が国の近代化に大きな影響を与えたポルトガルとの間の友好関係の四百五十周年を記念して、ソアレス大統領閣下を国賓として我が国にお迎え出来たことは、誠に喜ばしいことであります。

 ここに、今回のソアレス大統領閣下の訪日が新時代の日本ポルトガル関係の幕開けとなることを希望し、また、日本・ポルトガル両国民の友好・親善を記念して、杯を上げたいと存じます。