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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] バラデュール・フランス共和国首相主催晩餐会における羽田内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1994年5月4日
[出典] 羽田内閣総理大臣演説集,50−51頁.
[備考] 
[全文]

バラデュール首相閣下,ご列席の皆様

 本日は,ご多忙の折,このように夕食会を開催して頂きましたことに対し,また,私の訪仏に対する仏側の心温まる歓迎ぶりにつき,心から御礼を申し上げます。

 私は,日本国の総理大臣に就任し,最初の公務として欧州にまいりました。特に欧州の中心であり,かつ,文化の誉れも高い貴国を訪問し,有意義な意見交換を行うことができましたことを誠に喜しく思います。

 閣下もご存じのとおり,日仏両国が国同士としてお付合を開始してから,まだ一世紀半にもなっておりません。また,かつて,日仏両国の関係は,どちらかと言えば,日本の仏への「片思い」といった面もあり,手に手を取って現実の問題に対処し,未来の展望を生み出すまでには至っておりませんでした。

 しかし,九十年代の国際情勢の変化に呼応し,日仏両国が同じ方向を向いて歩むことも多くなってまいりました。このことを象徴するのは,カンボディアにおける平和維持活動についての協力であり,また,「ル・ジャポン・セ・ポシブル」でありましょう。

 閣下が国民議会における施政方針演説の中で,現下の困難を克服し,国を導くために,「想像力」と「意志」更には「団結」が必要である旨を訴えられたことは,私の心の琴線に触れました。私も,我が国及び国民の将来の展望を明るくするために,政治,経済,社会の仕組みを根本的に作り変えるという変革の途を選択し,苦しくても歩みつづけることが,この時代に政権を担当する者の歴史的使命と考えております。

 日仏両国は,共に誇るべき歴史と伝統を持っております。伝統と慣習は,時として改革を困難にするものであります。それは,国家間の関係においても同じであり,従来の国際社会の中で存在していた枠組みを変えることはなかなか容易ではありません。しかし,現在の国際情勢においては,これまでと同じ対応では,もはや不十分であります。その意味で貴国が欧州統合という伝統的な国家間関係を変革する努力の旗頭となっていることは極めて先見の明と考えており,敬意を表する次第であります。

 日本は,一方でアジアの一員として,他方でG7の一員として,世界の政治と経済の一翼を担う意欲に燃えております。今後の世界の平和と繁栄のためには,欧州,米国及び日本の間の協力をこれまで以上に強化することが必要であります。そのためには,日本と欧州の中核を成す貴国が「想像力」と「意志」,更には「団結」の精神に則り,真のパートナーの関係を築け上げなければなりません。このようにしてこそ,日仏両国は,お互いを補完しつつ変革に臨むことができるものと確信致します。今日の私の貴国訪問がそのための一助になれば幸いであります。

 ここに,首相閣下,ご列席の皆様をはじめとしてフランスの皆様の益々のご健勝とご繁栄を祈りつつ,また,日仏両国民の揺るぎない尊敬に裏打ちされた友情のために乾杯したいと存じます。