[文書名] ワレサ・ポーランド共和国大統領歓迎晩餐会における村山内閣総理大臣の挨拶
ワレサ大統領閣下、令夫人、並びに、御列席の皆様
本日大統領閣下とその御一行をお迎えし、歓迎の宴を催す機会を得ましたことは、私の大きな喜びとするところであります。
私ども日本人がポーランドの歴史を紐解く時、その苦難に満ちた歴史の中でも一七九五年という年を忘れることはできません。この年、ポーランド国民は、祖国が世界地図からその姿を消すという悲劇を経験しました。しかしながら、ポーランドの人々は自由を求め祖国の独立回復を決して諦めませんでした。そしてあらゆる苦難に耐え、一二三年を経た一九一八年、ついに独立を回復しました。その独立の立て役者であり、後に初代国家元首となったピウスツキは「ポーランド人は自由への本能を持っている。」と述べましたが、その精神は貴大統領閣下に、そして閣下の始められた「連帯」の運動に力強く脈打っているのだと思います。
一九八〇年のあの暑い夏、グダンスクで産声を上げ、やがて全土へと広まった自由を求める「連帯」の運動を私は今でも感動を持って思い出します。レーニン造船所のストライキ、戒厳令下の緊張したポーランドの模様は映像を通して刻々我が国にも伝えられ、勇敢に、そして粘り強く自由への道を追求するポーランド国民の姿は我が国の人々に感動と共感を呼び起こしました。円卓会議の帰趨を我がことのように固唾{かたずとルビ}を飲んで見守った日本人も少なくありませんでした。
閣下の始められた運動は、ポーランドに自由をもたらしただけでなく、中・東欧全体の民主化の引き金となりました。円卓会議が開かれた八九年十一月には東西分断の象徴であったベルリンの壁が崩れ、中東欧は共産主義のくびきから解き放たれました。中・東欧の自由化の先駆けになった「連帯」が結成されたグダンスクの暑い夏から十四年を経た今日私は、大統領閣下の指導力とポーランド国民の勇気と英知に深い敬意を表したいと思います。
大統領閣下
冷戦終結は国際社会に新しい可能性をもたらしましたが、一方では民族的、文化的対立がもたらした紛争がその影を落としており、その未来はバラ色とばかりは申せません。そのような中で貴国が民主化・市場経済化という困難な課題と取り組まれ、着々と成果をあげておられることは、真に心強いことであります。我が国も貴国をはじめとする中欧諸国の改革の成功が世界の安定に死活的に重要であるとの認識から、改革努力に対し種々の支援を行って参りました。
貴国が中欧の安定した国家としての歩を固めつつあるこの時期に、改革の旗手であり、国民的指導者であるワレサ大統領をお迎えすることは、両国間に、新しい時代に相応しい質的に新たな関係を構築する契機として大変意義深いものと考えております。
大統領閣下、令夫人、並びに御列席の皆様
ポーランドと我が国の間で直接の人的交流が始まったのは一六四二年のことと聞いております。私は、三五〇年を越える両国関係の歴史の中で、大統領閣下を国賓としてお迎えした一九九四年という年が、両国関係の新時代の幕開けを象徴する年として歴史に刻まれることを確信しております。
両国関係の更なる発展と大統領閣下御夫妻の御健康を願って、ここに杯を挙げたいと思います。
乾杯