[文書名] 日・EU定期首脳協議での共同記者会見における村山内閣総理大臣の冒頭発言
村山富市日本国内閣総理大臣、ジャック・シラク欧州理事会議長及びジャック・サンテール欧州委員会委員長は、一九九五年六月十九日パリで第四回日・EU首脳協議を行い、以下の発表を行った。
一、日・EU首脳協議参加者は、双方が高い優先順位をおいている質の高い日・EU関係を歓迎した。日・EU関係は、対話と協力を基礎としており、双方は、この対話と協力を、一九九一年七月十八日にハーグにおいて発出された「日・EU共同宣言」によって切り拓かれた道筋を大いに活用することによって更に深化させ、拡大させる決意を有する。
二、日本及びEUは実務面での信頼関係を築いており、これがよりよい相互理解をもたらし、さまざまな経済問題の解決を可能にしてきた。
三、さらに、かかる関係は、双方のグローバルな役割及び責任を従来にもまして考慮に入れた多国間の枠組みの中に根ざしている。また、この関係は、一層具体的な協力を生み出している。
四、EU側は、国際社会においてその経済的重要性に見合った政治的な役割を一層果たそうとする日本の意思を歓迎した。日本側は、EUの統合プロセス及び強力なEUが欧州において安定的役割を果たし、かつ、他の地域との間に建設的な関係を構築しようとしていることを歓迎した。双方は、首脳協議を含めあらゆるレベルで進展している政治対話を一層強化するとの意思を確認した。
五、これに関連して、参加者は、政治・安全保障、経済、文化等を始めとする二国間の対話と協力を含む全般的な日・EU関係を、建設的なアプローチをとりつつ、均衡のとれた形で発展させることの重要性を強調した。このことは、日本及びEUがグローバルな観点から国際的な問題に取り組むために緊密に協力することに資するものである。
六、かかる観点から、参加者は、今回の協議において、アジア太平洋情勢、欧州情勢等の国際問題、並びに、経済及び文化面での協力関係について幅広くかつ詳細な意見交換を行った。
七、双方は、対話の枠組みを強化するために、一九九一年の日・EC共同宣言に則り、日・EU年次首脳協議が今後日本と欧州において原則として交互に開催されることにつき意見の一致を見た。首脳協議の具体的開催地及び大まかな時期については、その前の首脳協議の際に決定される。次回の首脳協議は、日本に於いて来年のできれば夏に開催される。双方は、現在までに培われた定期的な交流を継続及び強化し、また、政治レベルでの会合を適切に準備することに特別の注意を払う意図を有する。
八、首脳協議参加者は、日本とEUとの間の貿易の調和ある発展に対する障害を特定し除去するために様々なレベルにおいて共同作業が行われたことを歓迎した。しかし、参加者は、日本とEUとの間に問題及び不均衡がいまだ存在していることに留意した。参加者は、市場アクセス問題についての共通の解決策を模索するため、この作業を継続する意図を共有する。
九、日本側は、欧州側が欧州の民間部門の対日輸出努力を支援するための積極的な措置を講じたことを歓迎した。欧州側は、日本側が輸入機会拡大のための措置を講じたことを歓迎した。双方は、産業協力を促進するための協力が行われていることを歓迎した。双方は、これらの共同の努力を継続する意図を共有する。
十、欧州側は、日本国政府による規制緩和計画の発表を歓迎するが、同計画が欧州側の期待を完全には満たすものではなく、この分野における努力が更に行われるべきであると考える。日本側は、EUからの数多くの要望に積極的に応じる措置を含む規制緩和推進計画を三年間で実施し、内外からの意見を踏まえ、同推進計画を毎年度末までに改定する意図を有する。また、欧州側は、自らの規制緩和努力を更に進めるとの意図を確認した。双方は、今後の双方における規制緩和努力の進展に向け、緊密な対話と協力を追求することにつき意見の一致をみた。
十一、双方は、一九四七年の「ガット」(GATT)が創設されて以来、世界経済の原動力としての役割を担ってきた多国間体制への共通のコミットメントをこの機会に再確認することが適切であると信ずる。
十二、世界の継続的繁栄は、物及びサービスの貿易並びに投資の国際的な流れを規定する多国間のルールの維持、尊重及び一層の発展、並びにこれらの分野における自由化のモメンタムの維持に依存している。
十三、「世界貿易機関」(WTO)の活動にとって、すべての加盟国が、例外なく、WTO協定に規定された義務を完全に尊重することが極めて重要である。二国間協議によって解決できない加盟国間の紛争は、全加盟国が合意した、新たな強化された紛争解決手続に委ねられるべきである。
十四、二国間の交渉及び協定は、多数国間体制の枠内において、貿易の促進に貢献し得る。その成果は、最恵国待遇条項に基づく無差別待遇の義務の文言と精神を尊重して、すべての貿易相手国に対し、真の市場参入機会として均霑されなければならない。
十五、地域経済統合は、世界的な相互依存の進展とともに進行しており、世界の繁栄に貢献しうるものである。地域経済統合は、一層の貿易の多角的自由化と緊密に連携して行われなければならず、WTO協定、就中、一九九四年の「ガット」(GATT)第二十四条及び「サービスの貿易に関する一般協定」(GATS)第五条に、厳に整合的なものでなければならない。
十六、また、「サービスの貿易に関する一般協定」(GATS)の下で行われている金融サービス分野の約束に関する交渉が、今月末までに成功裡に終了することが重要である。
十七、双方は、外国投資を歓迎し、外国投資が内国民待遇及び最恵国待遇を受けるべきであると考える。双方は、市場原理に基づく投資の流れを促進し保護することを目的とした強固な多数国間ルールの設立に向け、OECDにおける交渉及びWTOにおける議論に積極的に参加する意図を有する。
十八、双方は、貿易歪曲的な非関税障壁の除去に向けた多角的な方途を推進するために協力する意図を有する。この点に関して、双方は、OECDの規制改革に関するイニシアティヴを歓迎し、国際的な基準作成が優先することを確保し、各々の基準をそれに従って作成する意図を有する。
十九、首脳協議参加者は、産業協力、運輸、競争政策、科学技術、情報通信、社会問題、環境、開発援助、文化、教育等今や多くの分野に及んでいる日・EU間の協力の進展を満足の意をもって留意した。
二十、参加者は、この方向で日・EUそれぞれが行っている官民のあらゆる努力を奨励し、支持していくとの意図を表明した。これに関連して、参加者は、政府、大学、民間の代表者が参加する日・EU協力会議の開催に関するEUの構想に関心をもって留意した。
二十一、参加者は、特に、学術交流、文化交流及び青少年交流の分野における協力が一層奨励されることを希望する。参加者は、外国語教育の発展のための可能性を探求する意図を有する。
二十二、参加者はまた、科学技術の分野における協力の強化について議論し、EU側は、欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)計画に対する財政的貢献を日本側が決定したことを歓迎した。
二十三、EU側は、これら様々な形態の協力が新たな情報とコミュニケーション媒体により提供される可能性から利益を得ることができる旨強調した。
二十四、双方は、対人地雷の拡散が世界にもたらしている問題の重大さを認識した。日本側は、最近EUが採択した対人地雷に関する共同行動を歓迎した。双方は、対人地雷の拡散に対し共同で立ち向かうとの意図を共有し、そのために本件に関するそれぞれの政策についての情報を広く交換することを決定した。